まず最初の一人が死んだ?
メグに決闘状を突き付けられた翌日からちらほらと他の貴族からの挑戦が届いた。
まだ様子見しているのか、メグが言うほどの数はない。
それでも薄い封筒を重ねて片手でつかめない束の厚みはある。
負けるつもりはないが、そんなに嫁さん増やしてどうするんだ。
体が持たない。
いや、実際は時間と精神的な問題なんだが…
俺は決闘状の封を切らずまとめて貴族の雑事全般を扱う貴族局に持ち込んだ。
決闘の審判もここから派遣されるのでもとより届の必要はあるのだが、俺の要件はもっと深い。
「もともとが言いがかりですし、これだけの決闘をすべて行うのは無理というものです。ご理解いただけますよね。とりあえず開封していないのを預かって下さい。最初の決闘を公開で行いますので、それを見て取り下げる方も出ますでしょう。その方々の不名誉にならないように取り消しの事務手続きをお願いいたします」
かわいくにっこり微笑みかけてやると奥から出てきた、窓口係の上司は黙ってうなづいた。
俺があえて女言葉を使いだしたのは治癒師の修行の為であるが、女の武器を最大限使う為でもある。
使えるもんは何でも使わにゃそんだからな。
決闘に使う場所の手配、そのほか一切を貴族局がやってくれた。
場所は近衛の演習場、広さは大隊同士が模擬戦を行うのに十分な広さがある。
ティライアから山ひとつ向こうの荒野だが、安全な山の上に観戦できる建物があり、客席には演習場を拡大して見ることができる魔道具が据え付けてある。
強力な魔法も飛び交うので審判もここにいる。
貴族局の口利きで料金はすべて無料なのだが、何のことは無い、客の飲食代等で十分主催する貴族局は黒字になるらしい。
自分で主催すればよかったか。
とにかく第一戦は最初に申し込まれたということにして3日後カイとすることにした。
本当は2番目なのだが誰にもわかるものか。
当日、カイはきらびやかな金属製の鎧兜で完全に身を包んで短めの槍をもって、俺はいつもの治癒師の服、つまり防具をつけないスカート姿に黒い槍。
決闘開始の20秒前に会場に100歩話して据え付けてある魔方陣に転移する。
決闘を受ける側の俺が決めたルールでは、開始までのわずかな時間は魔方陣から出ず、直接攻撃しなければ何をしてもよい。
この決闘ルールでは強力な攻撃魔法を放つのに十分な詠唱時間が取れる魔術師が有利である。
もちろん俺は魔術師でもあるので観客誰もがその選択を正しいものと認めていた。
だがこれはカイの見せ場を作る為に決めたんだよな。
カイは魔方陣へ転移すると同時に足元に何かを埋め詠唱する。
荒野のそこかしこで鳴いていた秋の虫たちが静かになる。
何かを置いた場所に黒い穴が開き、剣と楯をもった骸骨たちが這い出してくる。
竜牙兵、見た目は夜に湧き出るアンデッドのスケルトンファイターだがはるかにまがまがしく力強い瘴気を放っている。
打撃や斬撃に強いのはもちろん、魔法も効きづらい。
それが200体カイの前で整列し剣を構える。
王子であるカイはべレス王国の国宝を持ち出してきた。
拡大される光景に観客たちは息をするのも忘れるぐらいの衝撃を受ける。
結界ひとつ張るでもない俺は、気死した様に見えていることだろう。
決闘開始の短い警笛が一つ鳴らされると同時に竜牙兵たちは前進を始めたが、俺は槍を振り上げただけ。
瞬時に体が少しだけ浮遊し球状の雷をまとう結界が取り囲む。
観客たちが目を閉じ耳を抑えた。
雷鳴とともに幾本もの太い稲妻があたりをはい回る。
轟音がやんで人々が目をやると黒こげになった荒野に最初と同じ姿の俺と、燃え残りのマントから煙を上げながら倒れるカイの姿があった。
審判が俺の勝ちを宣言すると同時に治療係がカイに駆け寄る。
治療は始まらず布をかぶせられて運び出されるカイ。
死亡が宣告され会場がざわめく。
相手が王族であっても降参する機会も与えず瞬殺する俺。
どんな相手に挑んだのか今更ながらに気付いた者たちはあわてて決闘を取り下げ詫びを言ってきた。
メタブールン伯爵との決闘は確定してしまっているし、何人かは残るだろうが、これで楽になった。
カイの死体が運び込まれた小部屋にはマリシアとカイの姉のカレンティアが待っていた。
焦げた匂いのする金属鎧をはがすと、柔らかな皮で覆われた全身が出てきた。
癒しの魔法をかけるとメグになったカイが目を開ける。
「カレン姉、マジだめかと思った」
一言つぶやいてまた気絶してしまった。
雷を槍でそらし、さらに体を絶縁して外側の金属で電流を地面に流しても並の人間では死ぬダメージを受けたところだったが、カイはひたすらしぶとく生きていた。
「あんたもう死んだのよ。明日から侍女としてこき使ってあげるわ」
もともと色々と問題のあったカイはべレスの王家から追放される予定だった。




