花嫁が来た、決闘状も来た
「だから自由が欲しい」
「いいよ」
「…」
ティアの重大なる要望とやらに、俺はすぐにYesと答えたのだが…みょうに間が開いてしまった。
「あのう…」
「だからべつにかまわないって」
「ふぇ?」
一生懸命高圧的な言葉遣いをしていたティアがへんてこな声を出し目を丸くする。
それもまあ無理はない。
簡単に説明すると、この問答をしているのが新婚初夜の寝室の中で、夫たる俺に新妻になったティアことティアフィーリアが、「浮気したい」「はいどうぞ」と会話しているのだ。
七日間に及ぶ結婚披露宴の後、ベッドルームのドアを前にして夜衣に着替えたティアフィーリアが出したお願いとは、自由に恋愛したいということ。
「ただ今宵限りはお付き合いいただきます。私のお姫様」
目を丸くして状況を判断できないティアをお姫様抱っこで抱きかかえて中に入り一夜を共に過ごした翌朝に話が跳ぶ。
ティアは俺の腕にくっついて離れなかった。
朝食の席でも、ロンバルト家では朝からガッツリ食べるのだが、かいがいしく世話を焼こうとする。
マリシアは俯いて笑いをこらえているし、主の急変に驚く新しく入った侍女のロナ以外のメンバーは生あったかい目で俺たちを見る。
なんというか、武術だけでなく俺はそちら方面の達人でもあるのだ。
これは俺が男女どちらでも非常に濃い体験を重ねているし、そもそも身体能力が高いためで、別に俺が夜の一族出身だからではない。
自由にしてよいと言質を与えてしまったティアは新学期が始まり副学園長として通う学園にいるとき以外、四六時中俺にくっついている。
これは言い換えるとマリシアを放置していることになるのだが、あの我慢できないマリシアが、夜に誰といるのかが非常に心配だ。
それでなくともマリシアとラシュエルの間に子供ができる予定だし、これ以上複雑な人間関係は勘弁してほしいものだ。
ん!一瞬何人かやばい名前が頭をよぎった。
たぶんマリーだとは思うんだけど…
あの娘、最近カウラスを肩に乗っけて何かしているみたいだからなぁ…
俺は毎日、朝出掛けにティアお手製の弁当を持たされて学園に向かう。
俺が乗るのはオープントップの2頭立ての馬車でほかの貴族たちが愛用するような箱馬車ではないが、それない以上に金をかけてあるので、貴族の乗り物として決して見劣りしない快適性と実用性を兼ね備えたものである。
にもかかわらず、俺の馬車と聞き、実物を見て皆ががっかりする。
馬車だから魔獣が牽いているわけではないのだ。
新学年が始まって5日の日がすぎ、初級治癒術の授業が始まるその日も俺はゆっくりと大通りを馬車に揺られていたのだが、後ろから来た六頭立ての箱馬車が追い越しざまに道をふさぎ停止した。
馬車のなかに人の気配はあるが、ドアが開く様子はなく、御者の横に座っていた男が飛び降りて俺のほうに歩いてきた。
「ロンバルト帝国伯爵様ですね、わが主からの決闘状を持参いたしました」
男は俺に封書を一通差し出して、すぐに馬車に戻り立ち去ってしまった。
差出人はメタブールン伯爵…知らんなぁ。
封を切る。
「ティアをよこせ…かぁ」
ふむ。
更新遅くなりまして申し訳ありません
非常に忙しかったのです。




