ははははは、母は母
「捕虜は我々で管理する、下がってよい」
「はっ」
牢番たちを追い出しシータと2体の魔動人形に警備を交替させ、一人で奥にはいる。
館の地下の薄暗い牢の一室には傷だらけの若い男が魔力を封じる鎖で繋がれ吊り下げられていた。
この世界には捕虜に人権などという物は無い。
牢番たちが好きなだけ死なない程度に殴っている。
俺が近寄ると男は薄目を開けて俺を見る。
「今日はクリスが尋問するのか? 話すことはもう無いぞ。早く処刑しろ」
困った。ほんとに困った。
ラシュエルや侯爵ほどには詳しく分からないが、先進を支配されていた痕跡が俺にもわかる。
そしてその本質も…
親子だから…
鎖を緩め、体を下に下ろし横たえる。
床の妨害魔法が邪魔で一度に治療できないから順に怪我を癒していく。
困った、どうすれば、どう話しかければいいんだろう。
男は不思議そうに俺を見ていたがその目が驚愕に開かれる。
「ロビンね、あなたロビンでしょ」
不覚にも泣き出してしまった。
「母さん」
俺は小さな子どもの時のように、女性化した母にすがって泣いていた。
「どうしてクリスになってるのか分からないけど、あなたロビンでしょ」
「やっぱり分かるんだ」
「それは…」
言いかけた母さんの言葉が止り表情が暗くなる。
「あなたのお母さんジェシカは生きているわ」
「父さんにくっついている精霊だろ?」
「よく分かったわね。私を追い出してジェシカの魂をこの体に入れれば彼女は復活できるの」
「でも、俺を生んで育ててくれたのは母さんだろ?」
「術で強制されてだから、ロビンは気にしなくてもいいわよ。あなたの母親はジェシカだから。私を処刑しなさい。だってお父さんに毒を飲ませたんだから」
「だって…」
「言わないで、ところでどうしてクリスになってるの?」
「っそれはね…」
とにかく革命軍を先に潰すことにした。
別に難しいことではない。
大多数の人々はただ洗脳されているだけなのだから。
占拠された町を軍で取り囲み、俺がひそかに潜入して首謀者を暗殺するだけ。
しばらく待つと洗脳が解けた人々が投降してくる。
その繰り返しで革命軍は壊滅した。
革命軍が完全に消滅した日、俺が地下から上がってくると親父と父さんと侯爵がそろって待っていた。
「準備が出来次第、叔母様を治療します」
「クリスできるのか」
「ただ伯父様と暮らした叔母様ではなく、精霊になって叔父様を守護し続けてきた叔母様ですが」
「え?」
「あの男が叔母様に融合したとき、魂が押し出されて精霊に入ったのです」
「これが、ジェシカ」
「はい」
「治療としましてかなり荒っぽい方法になりますから失敗する確率はかなり高いですし以前の叔母様とは他人ですがそれでもよろしければ実行いたします」
「かまわぬ、やってくれ」
「待て、クリス実際にどうするのだ」
「まず叔母様の記憶はあの男が持っていますので一旦精霊の魂から叔母様を分離して魂を体に戻します。その上で体と魂をあわせてせて二つに切断し、あの男を取り除いて再生します」
「そんなことが出来るのか」
「必ずとは言えません」
「いいだろう、やってくれ」
一時間後、俺たちは牢の中に居た。
何が行われるのか噂になっているので野次馬が集まっているがそのままにしてある。
噂はあえて真相を俺が流したものだが、完全に意識がこれから行われることに集中している父さんたちは気にも留めていない。
必要だとはいえ、融合した母さんの死体を見せびらかすなんて…。
その後始末だ。
母さんから男が取り除かれたことを見せねばならない
マリシアとシェリーそれにルファとベルを配置につかせる。
ルファは父さんたちの前、ベルは母さんの後ろ。
父さんの肩に乗っている精霊にミッチェル先生に手伝ってもらって話しかけ了承をとる。
目を閉じ精霊に手をかざし、母さんの魂を感じ取る。
母さんの魂は自分から精霊を離れ、俺の導きにしたがって母さんの体に入り、融合する。
融合した母さんたちの魂は術者が俺だから信じて抵抗せずに身を任せてくれている。
「マリシア、シェリー用意」
俺は一つになった母さんの魂を再び引き裂く。
「シェリー、今っ!」
シェリーの大剣が母さんの頭頂から股間までまっすぐに抵抗を感じさせず通り抜ける。
剣を抜きかけた父さんたち3人はルファが止めている。
分けるとは言ってあったが剣で斬るとは言わなかったのだ。
この3人を止めるには善意の丸腰の女の子しかない。
ルファはそう見えるだけだけど。
男の右半身が崩れ落ちるのをそのままにマリシアがすぐ女の左半身の再生をはじめ、手があいた俺もそれに参加する。
「ここから先は殿方は出て行ってください」
ルファが3人を追い立てていく。
もしかしてルファは自分にも殿方としての自覚が有るのだろうか。
完全にもとの体になった母さんが目を開き、その焦点が俺に合う。
「ロビンありがとう」
小一時間ほど話し合ってしまって外へ出たら、馬鹿が剣を抜いてルファを脅していた。
「ロビン、私の侍女に何するの!」…衆人環視の中である。
「この女が俺を通さないと」
「黙りなさい、まだ叔母様のおっぱいが恋しいのですか」
「ロビン、非武装の女の子に剣を向けるなんて何事ですか」
「母さん!」
マリシアに支えられて出てきた母さんに剣を落したロビンが抱きつこうとするが、その鼻先をシェリーの大剣がふさぎ、押し留める。
「お前は後、雰囲気読め」
鼻先に血玉を作ったロビンの視線の先には抱き合うローバー夫妻の姿があった。
「あなた、もう一度結婚式からお願いしてもいいですか?」
「もちろんだとも」
その後ろをこっそり運ばれていく半分になった男の死体には誰も注目しなかった。
さて厄介ごとを片付けるとしようか。
親父と侯爵を誘って、艦の私室に招待した。
そこで侯爵と話し、最期は言い合いになった。
親父は黙って聞いているだけ
「話というのは何かね」
「その前にお二人とも精霊を出してください」
「これでいいのか?」
「はい。お二人とも見事に花あの精霊ですね」
「それが、どうしたというのだ」
「この精霊は人が魔人や魔王に堕ちるのを防いでくれます」
「人が魔人などになるはずがない」
「城にいたあの竜はノルン国王でした。魔王としても狂っていましたが」
「そんなことが、では今乗っているあの竜は」
「王女か王子のどなたかですね。ですから他の魔人が魔王に食われても生き延びたのだと思います。おそらく革命軍になったルルエル王女が陛下を魔王になるまで怒らせ、そしてやりすぎたのでしょう。それからローバー男爵にお聞きください、妻が本性を表して襲い掛かってきたとき、自分に何が起こりかけたかと」
「それに間違いは無いのか」
「はい。反乱を起こし革命とするなら、洗脳するだけでいいのです。侯爵様は勘違いしておられますが、レイリア様と融合した男も、ローバー夫人と融合した男も洗脳されていただけなのです」
「やつらは無実で敵は別にいると」
「巫女を名乗る女が」
「一人か?」
「顔も名前も分かりませんので、何人かは不明です」
「ふ~む」
考え込んだ侯爵の変わりに親父が口を開く。
「クリス、お前も融合してるのではないのか?」
考え込んでいた侯爵が目を見張り、親父の目は更に鋭くなる。
「クリス、お前は有る人物と重なるのだよ。だがその人物は今もこのすぐ近くにいて……」
俺は今までのことを全て話した。
未来から戻ってきたことや、今まで何をしていたか。
レイリアやラシュエルのことも。
侯爵はレイリアのことはなかなか理解してくれなかったが、約束だから俺がもらうで、決着をつけた。
親父は悟っていたのか何も言わなかった。
親父には初めての、侯爵には何人目かの孫が出来る。
レイリアのおなかの子は俺の子だし、ラシュエルにはマリシアの子が入っている。
もちろん二人に言わなかったことも有る。
最近やたら俺の世話を焼きだしたベルのことだ。
二人っきりになると特にべたべたしてくる。
「母さんあなたが立派に育って嬉しいわ」
「おいおっさん、俺の胸揉みながら言うセリフじゃねー!」
自我のなかったベルが自発的に動けるようになった。




