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すぐについた決着

 帝都に角笛の音が鳴り響いた。

奏でられている曲は国外での非常事態の発生を知らせている。

これは伝令の出発をも意味しているので、命令を受ける可能性の者たちは速やかにあらかじめ登録している場所に戻らなければならない。

一つの合図で全軍が大気状態になる合図も有る。


 屋敷で受け取った出頭命令書には可能な限り直ちに遠征可能な部下を全員連れ、騎乗し武装して来いとある。

後方支援を行うものを除けたマリシア、シェリー、ルタ、シャロン、シータと13人の人造人間たちを連れて行くことにした。

ラムたちは船の出港準備だ。

わざわざ俺たちを使うということは、船で行けということだろう。


  ところで命令には騎乗とあったが、俺たちは帝都に馬を置いていない。

しかたなく俺はエマ、マリシアはミュー、シェリーがニュー、残りが狼達に騎乗して城門をくぐった。

慣習によると、このような騎乗状態での呼び出しは直ちにそのまま戦地に派遣されることが多い。

一刻を争うことが多いため、皇帝陛下の前まで騎乗のまま乗り付けることが許されている。

また同じ理由でその部隊が通る予定の道は鉦の合図で無人となる。

道路の辻ごとに設けられている鉦もまた、城門から召集相手に向かってリレーして叩かれていくので確実迅速な軍の集合が可能となる。

物見高い帝都の人々は、ただ道を空けさえすれば良いので、沿道の家々の窓や屋上に鈴なりになって派遣される部隊が通るのを見物するのが常であった。

ただこの時ばかりは魔獣に騎乗した一団が気配もなく疾風のように通り過ぎたので、少数の者しかその姿を見ることは出来なかった。


「なんだったんだ今のは」

「あれはローグの…」

「ミッチェル、知ってるのか?」


 たまたま友人の家に来ていたミッチェル先生は、へそ曲がりで有名なその友人につるし上げられる。


 俺たちは城の中央広場の所定の位置で騎乗をとき、その場で皇帝陛下が現われるであろう中央一番上のバルコニーに向かって跪いた。

すぐにローグ守備隊も精霊たちを肩に乗せてやってきた。

このような場合、皇帝が待たされることは絶対に無いが、手の開いているものは全員その下のバルコニーかテラスに集まることも慣習になっている。


 しばらく待ってやっと皇帝入場の角笛が鳴った。

城から突き出ている巨大なバルコニーの真ん中に座った皇帝の変わりに侍従が声を張り上げる。


「ノルン王都に魔王が発生した。それに乗じて反乱を企てた者もある。クリス・ティアカウント・ロンバルト、北征将軍に任ずる。ローグ駐在部隊の一部と共に出立し、リリエル王女の名代として現地ノルンで総指揮を取れ。軍監としてカイ・ド・ベレスを付ける詳細は彼に聞くように」

「はっ」

『がおぉぉぉぉー』『わおぉぉぉ~ん』

ニューが闘気に満ちた豪快なハウリングを響かせ、ミューたち狼も続く。

それにピクリとも動かないローグの馬達もまた面目を施す。

おかげで、魔王の出現を聞いて青くなった人々の心に余裕が戻った。

これなら負けない…かもしれない。

 

 ところで帝国の伯爵位だが、実戦部隊の指揮官が良く任命される。

小国と大国の差、悲しいことにノルンは所詮帝国伯に代行支配されるくらいの規模しかないのだ。

今みたいに他国の軍を指揮下に入れるために格はきわめて高いが領土を持つものは少なく、俺のように価値の無い荒野だったりすることが多い。

しかしその地位を知らしめるために今回のように他国の王族がその下に組み入れられることも多い。


  陛下たちはすぐに城に入り、俺たちは艦を泊めてある空港へと向かう。

詳しい情報は情報仕官がもう艦に派遣されているはずである。


「カイ、久しぶり、あなたと行くことになるとは思いませんでしたわ」

「なんだい、いつもみたいに話せよ。メグが聞いたら100年の恋も冷めてしまうぞ」


 俺が普通に挨拶できなかったのは視界の隅にミッチェル先生が映ったからである。

しかしメグが俺に恋してるだって?


「ミッチェル先生ご無沙汰しております、今日はどのようなご用件でしょうか」

「これが友人で画家のエイブラスなんだが、君らと一緒に行きたいとうるさくってね、別に死なせてもかまわないから連れて行ってもらえるだろうか。それと私も出来たら行きたいんだが」

「画家の方ですか?ミッチェル先生の推薦でしたらかまいませんが。おふたりともできるだけのことはしますからどうぞ」

「エイブラスです。よろしく」

「ご高名はかねがね」

「ミッチェルからだろう」

「はい」

「素直でよろしい」


 状況を説明したノルンからの報告書以外に、親父やデルビオス侯爵の私信をカイは持ってきてくれた。

なに!母さんが俺が生まれる前に融合体にされていただと!

親父の手紙をマリシアだけに見せ、続いて侯爵からの私信を見た。

ローバー男爵夫人にはレイリアに見られたような魂の融合が見当たらない。

凄まじい殺気を放ちかけた俺をマリシアがそっと手を握り締めて止め、その様子をエイブラスは恍惚としてみていた。


 やっと分かったような気がする。

やつらの狙いは魔王を出現させること。

革命ではない。

ならばまず魔王から倒してやろう。


 帝都の魔術士たちが転移門を強化拡大したため、俺たちは艦ごと帝国の北方ギルランまで転移、デルビオスまで一時間も掛からず到着した。

そしてまだ日が高いうちにデルビオスの館の司令室となっている広間で、避難民の安全を確保するためにノルンの貴族達の配置を決めていた。


「…というように配置についてください、不明な点はあませんね?」

「クリス!なぜ私が出撃できないのだ」

「治安維持にはローバー男爵が一番適任なのです」

「なぜ出撃できないかと聞いているのだ」


バーンッ

俺に詰め寄ってきたローバー男爵が吹っ飛ぶ。

俺は軽く左手を突き出しただけ。

肋骨くらいは折れていそうだ。


「シェリー、この無礼者をしばらく牢にぶち込んでおきなさい」


 頭に血が上った状態で、特攻なんぞさせるわけにはいかない。

それに俺が、最高位の将軍なのだ。

親族といえど、馴れ合いはゆるされない。


 ごめん、父さん。


「一つ質問が有るのだが」

「どうぞ、デルビオス侯爵」

「この配置だと、攻勢に転ずるには時間がかかりすぎます。確かに反乱軍は抑えられるでしょうが、王都から魔王が責めてきた場合の対応が出来ないと思いますが」

「それでしたら問題ありません。とりあえず魔王だけでもすぐ始末しますから」

「魔王、ですぞ?」

「ええ、これからちょっと行ってきますが、夕食までには戻ります」

「魔王ですぞ!」

「それがなにか」

「いやその…」

「それではエマ、行きましょうか」

「クリス様、ボクたちは?」

「私は絵を描きたい!ついていくぞ!」

「ではシェリーたちはエイブラス先生の護衛をお願いします。ミッチェル先生は子ども達に政令との契約をお願いしますね」

「まかせてくれ、精霊がそばにいれば、子供たちも安心して眠れるだろう」


 魔王といえば、頭が一つだけの黒竜もいたな、あれだろぅ。

物足りないがとりあえずぶちのめさせてもらう。

俺は真剣に怒っているのだ。


 


 門を入るとデルビオス侯爵が声をかけてきた。


「クリス様、お忘れ物でしょうか?」

「トカゲが2匹いただけですから退治してきました。魔人がいたらしいですけどトカゲ達が食べちゃったみたいですね。おかげで楽できました小さい方は生かしたまま捕まえましたからペットにすることにします。私が乗用にするとエマがやきもち焼きますので使い所が難しいですが」

「それでは私がいただいても…」

「いいですよ、奴隷紋は私が書きますので契約していただければ騎乗できるようになります」

「お礼はなにがよろしいでしょうか、竜に似合うものとなると…、私のものでしたら、なんでも一つ持っていってくださってかまいませんぞ」

「なんでもって、後で後悔しても知りませんよ?ゆっくり考えさせていただきますが」

「デルビオス領そっくりもって行ってくれてもクリス殿ならかまわんよ」

「では遠慮なく」

「なにを求められるか楽しみですな」


 翌日、大きい竜はとりあえずの戦勝報告として帝都に輸送艦で送った。

小さい竜はさっそく侯爵を乗せて飛んでいる。

俺は久しぶりに親父と二人でそれを眺めている。

会話は久しぶりに地がでてる。


「クリス、あいつ、乗せてくれんのじゃ」

「気分いいからね」

「乗ったことが有るのか?」

「竜は無いけど、エマも飛べるからね」

「あの一角獣か、乗せてくれ」

「俺かマリシアしか乗せたがらないからな、ミューかニューなら大丈夫だよ」

「ぜひ!」

「今なら台所にマリシアといるはずだから、マリシアに言えばいいよ」

「すまん、ところで侯爵様に何をねだるんだ?」

「飛ばせてやるから、親父は何も言わないでくれよ」

「変な条件じゃな。まあいいぞ」


 親父は館に走って行き、すぐに狼に乗って空へ駆け上がっていった。

スピードだけならミューのほうが速いからな。

おっ、空の上で模擬戦か、元気だな親父たち。


 さて、ややこしいロビンが帰ってくる前に母さんを何とかしなければ。

俺は捕虜が捕らえられている牢に入っていった。






俺 クリス帝国伯 未来のロビンが過去に戻ってきた


親父 俺の体クリスの父


ローバー男爵 俺の心ロビンの父


捕まっている捕虜 俺の心ロビンの母と融合している


ロビン 過去の俺


ミッチェル先生 俺の精霊学の先生


リリエル王女 本当はノルン王の隠し子


カイ ベレス王国王子 クリスの奴隷

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