予定内のこと、予定外のこと
帝都の陛下より帰還の申しつけがあった。
戦闘艦の礼にその艦の中で開く個人的なパーティーに招待ということらしい。
そこで往復一週間の予定で、改装が出来た戦闘補助艦で帰ることにしたのだが…。
「ミュー! なんで狼まで乗ってるの!!」
「だって、一週間も会えなくなるんだよ?」
「レイリアなんでここにいるの!」
「だってずっと砦の中は退屈ですもの。それにお義父様にもご挨拶したいし」
「挨拶って侯爵様に出会ってしまったら…」
「クリスが気にすること無いわ、妻に剣を向けたら離婚が成立するから」
いつの間にやら全員プラス狼達が乗り込んでしまった。
更にもう一隻の輸送艦にローグ砦の兵士が100騎、馬も含めて重武装で乗り込んでいる。
部隊の輸送試験もついでに行うということらしい。
俺の船なんだが、空の旅に好奇心100%の司令官に押し切られてしまった。
その移動演習の許可を求めるついでに、狼達を乗騎として帝都に入れる許可も取ったらしい。
確かに俺以外は馬代わりに乗っているのだが、魔獣って持ち込み禁止だろう、ふつう。
やはり帝都の空港で狼達のことでもめて、俺はシェリーとエマだけ連れて先に帰ることにした。
久しぶりに帰ってきた自分の屋敷はいつも開けていた門なのに、なぜか開けるのにドキドキしてしまう。
植木が少し大きく育っていたり、まだ見たことの無い花が咲いていたりするが基本的に何も変わっていない屋敷はものすごく長い間は慣れていたような気がする。
ここが俺の家だ。
まぁ、マリシアたちと久しぶりに会うためには一仕事しなければならないのだが、そっちのほうは余裕でこなせるだろう。
「ただいま~」
「お帰りなさいませ、クリス様、今から交易所にロンバルトからの荷物を取りに行きたいのですが、シェリーさんたちにも手伝ってもらっていいですか?」
「いいよ、人手がいるなら。私も一緒に行きましょうか?」
「クリス様にはマリシア様がお話が有るとかで、奥でお待ちされています」
「ありがとう、ルファ」
もうちょっと別の対応をされると思っていたのだが、なにかいきなり”空気みたいな人”扱いされたようでとても寂しい。
ルファはそのまま侍女たちに荷物を降ろさせただけでマリーたち残っていた侍女も引き連れて屋敷を出て行った。
親父から何が届いたんだろう、と疑問に思いながら玄関入ってすぐの居間に入る。
「お帰りなさい、クリス」
「ただいま、マリシア」
俺の後から居間に入ってきたマリシアが前に座ると、その後ろに付いて来たニューがいそいそとお茶を入れてくれた。
「クリスは相変らず精霊と契約できないの?」
「なぜか分からないのよ、マリシアのお茶は?」
「それ、皇子様からいただいた取って置きのお茶なの、飲んでみて」
久しぶりに俺が帰って来たのに最初の話題が精霊で、一人で飲むお茶?
珍しくっても分けようよ。
「確かにちょっと変わってるけどそれほど美味しいとは思えないわ」
「そう?人生最期に飲むお茶に最適らしいわよ?」
「何それ、縁起悪すぎるじゃない」
カップを空にするとマリシアがパンと手を叩き、武装したラシュエルが入ってきた。
「ただいま、ラシュエル。何その格好…」
ラシュエルの剣が鞘走り、キンッ、俺の左の手のひらに浮かび上がった魔方陣に当たって止る。
ラシュエルも剣の達人だがそれ以上のものではない。
間違ってもロビンやシェリーにこんなまねはしない。
魔方陣ごと斬り飛ばされるからきちんと槍を出して止めるさ。
「なぜ魔法が使える?毒を確かに飲んだはずなのに」
「なぜって、ニューが私のお茶に毒なんて入れれるはず無いじゃない。ねぇニューちゃん」
ニュ-はいい顔で頷き、ラシュエルは裏切ったかとニューに憎しみの目を向ける。
奴隷は主人の害になる事は出来ない。
ただ今回のようにあらかじめ主人命令されて、害を与えるまねをしている場合を除く。
ニューは何か有るたびにきちんと俺に報告して、逐次命令を受けていたのだ。
なぜマリシア相手に女言葉が出るのか分かった、無意識に身内扱いして無いんだ、こいつらを。
ラシュエルの剣を下方に絡めとリ、ついでに肩を少し押して仰向けに床に倒し、馬乗りになる。
剣を部屋の隅に投げ、ニューに命ずる。
「逃がすな」
逃げ出そうとしたマリシアはすぐにニューに押さえつけられる。
ニューはねこ科最強なんだ、逃げられるわけが無い。
それでもラシュエルは勝ち誇った顔をする。
「俺の中にマリシアが封印されているんだ。俺が死ねばマリシアも死ぬんだぞ」
「ラシュエル、あなた自分の体のことも知らないのですね。誰もがお姫様扱いしかしないから、それに合わせた人格しか出てこれないだけよ」
俺は少しいやらしく笑って、自分の上着の留め金をはずして掴んでいたラシュエルの手を胸に滑り込ませる。
「どう? ぼっちゃん、もっと触りたい?」
ラシュエルの顔が真っ赤になり、柔らかかった体が硬くなってその目に涙が溢れてくる。
男という生き物は、無意識にいい女に対して起動するものだ。
「お帰り、マリシア」
「ただいま…クリスのすけべ」
「そちらこそ、なにをおっしゃいますやら」
おもわず笑ってしまうが、気を取り直して難しい顔をしてマリシアを立たせ、押さえつけるのをニューと交替する。
「ニューあれは用意できてますか?」
「ハイ、クリス様」
ニューは気絶したねずみの尻尾をぶら下げて持ってきた。
「マリシアの中に入ってる人、ちょっとこのねずみちゃんに移ってもらいますからね~。マリシア、元に戻すからこっちにおいで」
俺はマリシアの体とラシュエルの体に手をあて、そこから魔力の手を伸ばしてそれぞれの魂を掴み、同時に引き抜いて入れ替えた。
ラシュエルの体が女に戻り倒れこむ。
魂の入れ替え方はニューが覚えていたが、ラシュエルの体が男のままだったらどうしようなどと思ったのは秘密だ。
何事にもリスクはあるし、死んでいなければ何とかなるもんだ。
押さえつけているマリシアがモジモジしだして、ニューがぶら下げているねずみが暴れだす。
「ニュー、そいつはどこかへ捨てて来い。飼うのはだめだぞ」
「ハイです」
「食べちゃだめだぞ」
ギクッと立ち止まるニュー。
冗談で言ったのだがほんとにおやつにするつもりだったんかい。
あきれて笑っていると、いつの間にか後ろに回ったマリシアの手が開けたままの俺の胸でさわさわと…。
「マリシアおあずけっ!」
「え~ん」
「泣いてもだめ!」
「…」
などとしていると、何の気配もなくドアが開き、シェリーが顔を出す。
「あっ、ごめんなさい」
来たときには気配がしなかったのに、足音が玄関へ向かう。
「クリス様はね、いまマリシア様と、えと、エッチな事してるからまだ入っちゃだめっ」
おぃ、玄関で変なこと叫んでくれるなよ、隣に聞こえたらどうするんだ。
そんな騒ぎの中で、王宮からの使者がついた。
”至急、出頭せよ。”
俺 クリス ローグ帝国伯
ミュー 俺の侍女 狼娘
レイリア 俺の侍女 元公爵夫人 妊娠中
お義父様 俺の親父ロンバルト男爵 侯爵と仲がいい
指令官 ローグ砦駐在部隊指令官 帝国軍直属
シェリー 俺の侍女 魔法剣士
エマ 俺の侍女 一角獣娘
マリシア 俺の嫁 リリエル?にのっとられ中
ルファ 俺の侍女 男の娘
マリー 俺の侍女 元帝国伯
ラシュエル 俺の偽妹 元ノルン王女




