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旅立ち 王都へ

現在地、北の小国ノルンにあるロンバルト家の屋敷

 そのまま一晩寝たらなぜかクリスとして行動できるようになっていた。

伯父さんを自然に親父と認識している。

今日はまだ会っていないが、両親を叔父さん叔母さんと自然と言えるだろう。

トイレなんかも無意識に体が動く、女を見るのが初めてでもないしこの体も昨日しげしげ見たのだが…なぜか恥かしくて死にそうにはなった。

トイレが個室なので真っ赤になった顔を誰にも見られずにすんだが、これはもしかしてクリスの意思がどこかにあって、俺を認識しているのかもしれない。


 機能のことが気になり夜明の誰もいない庭に出て、また針を召喚してみる。

慣れ親しんだ魔道具である針ではなくまた槍が来た。

俺の針は古代遺跡の武器庫から出てきたもので、どのような力がかかっても折れないのと、呼べば手元に来て用が済めばどこかに消えるすぐれ物だったのだが、なぜ槍になったのだろう。

俺と同じで地味といえば地味な武器だったのだが。

針と同じく全く何で出来ているのかわからない均一の材質で刃先から石突までできており、柄は十二角でちょうど俺の指に合い長さが俺の身長より少し長いだけ。

穂先は短い三角錐で斬るよりも棍として殴るのに使いやすい。

突くと怪我をさせるが練習にもちょうどいい。

もちろん投げても使えるし、手元にも戻ってくる。

この体と同様気にしないことにした。


「やぁクリスおはよう」


出てきた少年はロビン、つまり昔の俺。


「おはよう、早いね」

「クリスこそ、組み手したいんだけど相手してくれないか」


俺たちは右手の甲同士を合わせて作法どおりに試合であることを確認する。


速いっ!

おまけに槍で受ける剣が結構重い。

俺って利き腕が使えたらこんなにも強かったのか。

昔の俺の癖になかなかのものだったが最後には地面にはわせた。

俺もまだこのクリスの体を完璧に使いこなせていない。


 ところで俺とロビンはまだ幼いながらもれっきとしたノルン王国の武官である。

もともと留学という名目で帝国の人質になる同い年のリリエル姫の付き添い兼護衛として帝都の学園に行く途中だった。


 予定が一日ずれたが、昼過ぎには体格のいい親父と一緒にロビンたちと向かい合って箱馬車に揺られていた。

昨日と違うのは俺たちも武装していること。

武器庫から自由に好きなものを選べといわれて、後ろめたい者達が好んでつきそうな2本の短剣を選んだ俺は親父にいやな顔をされた。

しかしその後自分の槍に似た物を取り出したらすぐに親父の機嫌は直った。

昔かたぎの武人である親父は、暗殺者のようなものが良く使う、短剣とか暗器の類とかを毛嫌いしていた。

親父は不思議そうに俺に聞いてきた。


「なぜその短剣と槍を選んだ?どちらも教えていないはずだ」

「俺は姫様の護衛になるんだ。だったら相手になるのは大人だろう、武器は敵より長いほうが有利だし、護衛としては武装が目立って抑止力になる。扱いはこれから練習するよ」

「功名を立てるために目立つのも良いがそれを目的にしてはならぬぞ!」

「わかりきったことをぐだぐだ言うんじゃねぇ、目立つのはこちらに備えが有ること知らしめること、それといざ襲撃されたときには姫様を逃がすため囮になって時間を稼ぐために決まってるじゃないか」

「クリスおまえ」


 抱きついてきた忠臣を絵に描いたような親父を安心させてやった。


「華々しく散るなんて俺の趣味じゃねぇ、最後まであがいて生きて帰ってくるさ。そのために短剣もいるんだ」

「ばか者!お前の任務は姫様の最後の剣となることだ。生き残ることではない!」


 いてぇ、本気で殴りやがった。

しかし、盾といわないところが直情型で攻撃一筋の武人である親父らしい。

華々しく戦う槍や長剣の戦士のみが男の仕事ではないと思うのだが親父の頭は竜の宝玉並みに固く、武人の華は突撃まずありき、だ。


 そんなやりとりがあって俺は短剣を2本ブーツに仕込んでいるしロビンも、こいつはもう他人だと思うことにした、12才の体にあった標準よりやや短い実用的な剣を父さんたちと同じく杖のように立てて緊張した顔で座っている。

こうやって座っているとロビンも武官らしく様になっているし、実力もそこらの平兵士以上はある。

アーサーみたいな化け物とは対抗できないにしても女の子に結構もてるんじゃないかな。

なんか少し嬉しくなってきた、今となってはもう関係ないのにな。


「クリス、なに俺の顔を見てニヤニヤしてんだよ」

「べつに~」


 べつにロビンにほれた、などということが有るはず無いじゃないか。

自意識過剰もいいかげんにしろよ。


 馬車の前後を行く護衛も増えたが俺としてはこの王都への道中で狙われることは無いと確信している。

なかなか思い出せなかったが、襲撃の指揮を取っていたやつは見覚えがあった。

死んだクリスの変わりにりに王女の護衛を勤めたデルス・バル・マカネンの実家で執事をしている男だった。

デルスに聞いた話では俺のところと同じ貧しい男爵家だ。

そう何人も刺客を送り込めるはずが無い。

やるとすれば、王都についてから一人来るぐらいだろう。

俺はクリスの代わりに帝都に同行した気のいいデルス・バル・マカネンと、あまり似てなかった彼の父親の顔を思い出し、眠りに落ちた。

デルスには気の毒なことになるが、降りかかる火の粉は払わねばならない。

行く先に地獄の入り口があるのを知らずに息子を出世させたいただの親馬鹿である。

もくろみは失敗に終わったが、地獄行きの片道切符だけはもう受け取ってもらった。

ゆるさねぇ。


 馬を休めるために途中の宿場町で馬車を降りたとたん、俺の立っていた位置を銀光が凪ぐ。

俺は馬車を降りるときに手にした槍を支えにして剣の間合いから大きく飛び離れていた。


「なにしやがるんでぃ、クソ親父!」


クリスの口調がそのまま口から出る。

俺は俺の中にクリスがいることをはっきり感じた。

クリスはかわいい顔をして普段からロビンより口が悪かった。


「馬鹿面晒して寝ておったくせに、襲撃があったらどうするつもりだ」

「寝れる時に寝て食えるときに食うんだ。戦が始まったらいつまで続くかわからねぇからな。それに叔父さんがいるだろう山賊が出たくらいなら俺は寝てるさ」

「ハハハ、義兄上、クリス君の勝ちのようです。」

「親父のほうこそ俺が敵なら死んでるぜ。胸見てみろよ」

胸に挿したチーフの先に切れ目が入っているのを見て親父は真っ蒼になった。

「斬られたのにも気がつかないで、親父こそ目ん玉開けたまま居眠りするんじゃねぇ」


 棒立ちのままの親父をそのままにして俺たちは宿の入り口までやって来た。

先に歩いているロビンが振り向く。


「クリスすごかったね、俺ぜんぜん見えなかったよ」

「ん?チーフなら昨日の内に切れ目入れといただけだよ。どうせいつもみたいに切りかかってきたりするんだろうからな、やられる前に仕返ししといただけだよ」


 ロビンはお気楽に大笑いしているが、叔父さんは…後ろで真っ赤になっている親父に気付いて小さくなってる。


「クリス!」


 親父が咆哮を放ったときには俺は笑いながら絶対安全圏である宿屋の中に逃げ込んだ後だった。


 何も起きない旅路が続きちょっとした休息の合間に俺とロビンは血反吐を吐くまで親父たちの相手をさせられた。

それでも元気なのは高級な回復ポ-ションを惜しみなく使っているためだ。

飯は質素なんだけど使う場所には使っているんだ。

俺たちの稽古はそれぞれ専門の教師がつけられていて親父たちに相手をしてもらうことが無かったのだが…。

何が ”二人ともこんなに使えるとは思わなかったぞ” だ。

何が ”わが子だと手加減してしまうから” だ。

絶対に殺しにきてると思いますよ。

親父たち二人とも、太陽神の加護が無い状態のアーサーとならば一対一でそこそこ以上に戦えるんじゃないのか。

暗殺術だけは封じたけれど俺が本気出しても親父たちには槍をかすらせることも出来なかった。

しかし殺すつもりで一対一ならば、加護付きのアーサーでも少しは勝ち目があったんだぜ、俺って。

この体でも親父たちに負けるつもりは無い。


 夜、ロビンは昼間の疲れででかいいびきをかきながらぐっすり寝ている。

お気楽な顔しやがって。

俺が前回この宿に泊った時にはクリスが死んだ悲しみで肩の異変にも気付かずに、まんじりともしない夜を過ごしていたというのに。

理不尽だとは思うが、今平和な顔出寝ているロビンを見ているとなんか腹立つ。

近くにいた小さな甲虫を指ではじいて鼻の穴に入れてやった。


エイッ


ブアックション!


 ロビンはでっかいくしゃみをした後、そのまま横をむいてまた寝てしまった。

もういびきは聞こえない。

邪魔なノイズがなくなった俺は宿とその周辺にまで聴覚を広げる。

宿に泊っている他の客の会話とは別なところから親父と叔父の二人の声が聞こえてくる。


「義兄上あれ以来襲撃はありません、ロビンたちを狙ったようですが諦めたのでしょうか」

「あの丘に転がっていた者どもは山賊のような風体をしておったが、おそらく何者かに雇われた者たちであろう、かなり鍛えてもおるようだった。それに私は屋敷の鼻先に山賊などと言う者をウロウロさせるような統治は行っておらん。しかしそれよりもだ、やつらを倒した者がわからぬ。全員警戒の姿勢のまま急所を一突きされて事切れておった。あれは相当な腕の暗殺者だぞ」


「王家の放った影とは考えられませんか。我らが夜の血筋を絶やすわけには…義兄上のせいでむしろ襲撃を警戒していましたが」

「クリスの嫡男申請を出したときの貴族局のやつらの顔が見ものだったな。形式上の嫁さえ娶れば、子供の種がローバーの血筋でもやつらに文句は言わせぬ。ロビンが嫌がってもクリスなら力任せに押さえつけてしまえるだろう」


「義兄上冗談事でなくなりそうなのが怖いのですが。封印された見者の力、もしかしたら分家に復活し、王権を奪いに来るかもと王家のほうで気にしているのは事実ですぞ。」

「もともと見者の評価は低い。闇の一族の血を混ぜ、もはや闇の巫女以上に闇がつかえる王家をいまさら見者を持ち出して如何こうできるわけも無いのだが…。絶対的な魔力が上がり、それでもいまだに王家の者が見者がしたという夢見が出来ないということは、やはり闇と夜は違うと見るべきだ」


 今から500年余り前、魔界からの侵攻をくい止め魔王を倒して英雄となった者たちのうち数名が新たにこの大陸で戦乱の果て荒野となった場所に国を興した。

ノルン王家はその一つで見者といわれたラルーが興し、分家である俺の家はかなり早くにそこから分かれた。

王家の始祖であるのに名前と夢見と言う技を使ったとだけしか歴史に残っていないラルーの名誉回復のために今の王家は闇の術を極めようとしたりとかいろいろ画策しているのだが、俺には無駄なことだと思える。

見者ラーの属性は光や闇ではなく、まして五行でもない時間だと俺は確信する。

夢見とはおそらく予知か何かだ。

おれ自身こうして過去に戻ったし、時間を少しだが速めたり遅くすることが出来る。

未来を知り、歴史を変える力ならば秘匿されるのも仕方がないと俺は思う。

もちろんそんなことが出来るのはラルー本人によってだけだろう。


 「おきろクリス」


 いつの間にか寝ていたみたいだ。


「よだれの痕がついてるぞ、先に顔洗え」


うぐっ、俺としたことが。

あわてて寝る前に汲み置いておいた桶を覗けば、クリスの顔に涙の痕がついていた。

夢なんぞ見た覚えは無いんだが…

後ろで思わせぶりに剣の手入れをしているロビンの気配になんか腹が立つ、俺の癖に下らん気を使いやがって。

それでかっこ付けたつもりなんだろうか、朝飯前の稽古は全力で殴らせてもらった。


 馬車は昼前にノルンの王城に着く予定で、馬車の中で俺は縫い針と糸を取り出し稽古着を繕った。


「クリス裁縫できるんだ」

「あとで貸してやるから自分で縫えよ。できなかったら彼女でも作れ」


 ジェシカ叔母さんが肩を震わせて笑いをこらえている。

ロビンは裁縫などこのときはまだしたことが無いはずだ。

魔族との戦いの日々で、自分で防具をつくろうようになったのはまだまだ先のことである。

帝都の寮に入ったら誰に繕いものをしてもらうつもりだったんだろう。


 先触れを出してあるのでおれたちの乗った馬車は、町を囲む城門も、王城の門も待たせられることもなくすんなり通り抜ける。

そして指定された一の郭にある貴族局の待合所に馬車を乗りつけた。

ここは地方から来た登城前の下級貴族が、呼び出しを受ける間で待機する場所で、宿泊場所も兼ねたかなり大きい建物である。

従者達は別の建物へ行くとは言え、このエントランスは下級貴族たちでかなり込み合っていた。


「気をつけろ!」

「申し訳ありませんでした」


「ぶつかってきたのは向こうなのにな」


 やつ自身も隣にいたロビンも今のに気が付かなかった。

いまたまたまぶつかったマカネン男爵に糸の付いた縫い針を突き立てて、指に当てたコインで脳幹まで押し込み、糸を引いて針を回収。

探し出す手間が省けた。

間か年男爵は三時間後に急死する。

血も出ず、傷跡も毒の痕跡もなにも残らない。

俺を狙った殺し屋を雇った奴を赦せるほど、俺は聖人君子ではない。

今は武人見習いのひよこだが、中身は一流を超える暗殺者だ。





 





俺 クリス

 ロンバルト家長女で身分は嫡男。


親父

 クリスの父親で武闘派。


ロビン

 俺のいとこ。


叔父さん叔母さん

 ロビンの両親


マカネン男爵

 クリスを暗殺して息子を留学生にしようとする。


デルス

 前回、クリスの代わりにロビンと留学した。

マカネン男爵の息子。


アーサー

 聖戦士


ラルー

 俺のご先祖様




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