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上機嫌な皇子、不機嫌な巫女

 一晩寝ているうちに各艦共にほぼ出港準備が整っていた。

準備が早いのは戦闘艦だから当たり前のことである。


 魔法と剣の世界に火砲はない。

乗艦している魔術士が魔術をぶっ放すが、基本的には強制揚陸艦といえばよいだろうか。

敵の防御壁を突き破って内部に戦士たちを送り込むのが使命だ。

武装は機械式の巨大な弩がいくつか装備されているが基本的には舳先の衝角による体当たりである。

輸送艦と戦闘艦の差も船首の衝角から船尾にかけて竜骨が通っているかいないかの差しかない。

簡単にいうと串つきのフランクフルトソーセージが戦闘艦で突き出た串で敵の防御を突破し、ウインナソーセージである補給艦には貨物を積み込むために邪魔になる串はついていないのだ。


 そして補助戦闘艦というのは病院船であり修理を担当する工作船である。

この艦のみは改装しているのでまだ準備に時間がかかる。


 俺は目録を添えた手紙をエマにもたせて、唯一知っている皇族である第3皇子に出した。

返事の変わりに皇子が直接ローグまでやってきたのは手紙が届いた僅か三日後のことで、俺は上機嫌の皇子をローグの格納庫に案内していた。


「クリス伯、貴族院と話はついた。このローグは永久に税を免除することになった」

「ありがとうございます殿下、ここは瘴気がひどくてまともに人も暮らせませんので」

「言いたいことは分かっている。だが帝国伯に叙したのは我だが領土をローグにして税の払えないそなたをすぐに取り潰そうとしたのは貴族院の石頭どもだ。そなたなら何とかすると思って居ったぞ。かなり意表をつかれたがな。ところであれが我の船か」

「はい、3番艦でございます。2番艦とは殿下の私室の調度品のみしか差はございませんが」

「うむ、それはそのままで良い。陛下や皇太子殿下も満足されておる。よくやった」





 ローグ帝国伯は貴族を統括する貴族院にとやかく言われる前に、一番大きな艦を皇帝陛下に、2番艦を皇太子殿下に、そして3番艦を第三皇子である我に私的に献上してきたのだ。

艦の仕様書とは別に私的部分の内装や備品の目録は別に作られていたが、それに目を通した我はは自分の艦のほうが皇太子のそれよりはるかに高級なのに機嫌のよさを隠しきれなくなった。

そして、我と一番仲が悪い第二皇子である兄上には何も無いのも気に入った。

要塞内の宝物庫の中身を全て1番艦と2番艦に分けて移して有るのも良い。

これだけの物を献上されたなら何がしかの褒美をクリスとその主で有る我に遣わせねばならない。

あの宝物はその褒美の原資にすることが出来、二人は一切のことを気にせず献上品を受け取ることが出来る。

そして我は税を免除してやるだけでいいのだ。

我は上機嫌でクリス伯に言ってやった。


「補助艦はそなたの望みどおりに好きに使えばよい、それから輸送艦も交易に使えて便利だろう。一隻とっておけ。あとは軍でもらうことにする」



 帝都へ向かう11隻を見送る。

2艦も残ったか、意外と気前が良かったな。

まあ本来の艦長たちは全て確保したので、艦は全てとられてもよかったのだが。

これだけの物を一人で独占しようとすれば何のかんのと理由をつけて全て巻き上げられてしまうだろう。

最悪命を狙われて財産を没収されるかもしれない。

とにかく、次の大戦でこれらが役に立てばいいのだ。

俺が13隻すべて持っていても使い道が無いからな。





 帰る戦闘艦の中で上機嫌な殿下とその侍従が話をしている。


「殿下、例の要塞に残っていた記録を精査しましたところ、貯蔵品の内武器と防具が少し減っておりましたが、驚くべきことに宝物庫の中身には手をつけてはおりませんでした」

「武人とはそういったものだろう、別に武器を空にしてもかまわないさ」

「それが改装中の艦に移されておりましてこれがその一覧でございます」

「ほう、伯爵が持つには分に過ぎるが我が部下が持つとなると少し物足りぬな。しかし引いた相手によき剣をくれてやるのも無粋であるな、適当に防具でも見繕ってやらねばならん」

「それがよろしいかと存じます」

「後で我自ら見繕ってやろう、ところで補助艦だがどんな改装をしておったのだ」

「ラムと申す者が指揮を取っておりましたが他の艦の修理機能をや病院機能を縮小して居住機能と倉庫を拡張しておりました。後は機関が良くなかったようで、文句を言いながら予備に取り替えておりました」

「なんにせよ、少し手柄を立たせてやらねばならぬな。あと少し手柄があればローグの駐在部隊の指揮権もやれるのに。手ごろな反乱でもどこかで起こらぬものかな」

「殿下!」

「とりあえず一度帝都に呼び戻してやれ」


 

 


 王都の俺の屋敷ではニューが珍しく客人を連れてきて、ラシュエルとマリシアと話し込んでいた。

もともと自我の無いベルは別にして客に茶を出すルファや後ろに並ぶ侍女たち全て目になんとなく力が無い。

客の前だというのに半裸になったマリシアが男になったことを隠しもせずラシュエルにしなだれかかっている。


「ラシュエルにはクリスの子を身ごもってもらわねば困るではありませんか」

「でも巫女様、先日エマと申す者が教えてくれたのです。我が母レイリアがクリスの子を身ごもりました。その子ならばロンバルト男爵も俺とクリスの子だと思うはず。それでいいではありませんか」

「そうよ、何もラシュエルが無理に産まなくてもその子でいいじゃない」

「まぁそれでもいいでしょう、レイリアも処分してくださいね。そして確実にクリスは殺してくださいね。あいつは人類の敵、大魔王なのです」

「分かってるよ、この毒を飲ませて魔力が無くなったところを殺ればいいんだろ、しかしめんどくさい毒だな、もっと強力な即死するのはないのかい」

「ニューに嗅ぎ分けられなかった毒がこれしかないのです。クリスの横にはミューが付いていると思いますから」

「しかたないわね、クリスがもどってきたら二人っきりになって私が飲ませるわ、ラシュエルは他の侍女が騒がないようにね」

「リリエル、わかった」


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