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二つの陰謀

 レイリアとラシュエルには微妙な親子関係がある。

だから子どもができたことはしばらく秘密にしておくことにした。

朝起きてくるのが遅いラシュエルをそのままにレイリアのいるローグ砦に会いに行く。


 その、なんというか、初めて自分の子ができたというのはなんとも表現しづらいものがある。

なんと言って声をかけたらいいかもよくわからない。

ただ、どことなくそのおなかがいとしい。

それでレイリアの横に座ってただなんとなくおなかをなぜて帰ってくる。

それだけで、なんとなく幸福感が湧いてくる。

一週間ほど狩りや採集をしている間に充分当面の間の食料はたまり自由に動ける余裕が出来た。


「明日から、遺跡の探索するから」

「ちょっとまって、俺最近調子が悪い」

「遺跡って?」


 夕食時に次の予定を切り出した俺に、調子が悪いとこたえたのはラシュエルで、遺跡って何だとみんなを代表して問いかけていたのはシェリー。

夜は普通にしていたし、何をだ、朝はいつものことだとそのままにしていたのだが、どこか憔悴している。

ラシュエルの額に手をあてて魔力を流してみる。

俺は公式に治癒師で治療が出来るだけの治癒士出は無いことになっている。


「異常はないみたいね、マリシアに診てもらったほうがいいかも」


 公式一流の俺と違って治癒士のマリシアのほうは超一流である。

別に悔しくないぞ、俺は看板だけだし、本業以外だし、マリシアはかわいいし…。

だからラシュエルを帝都のマリシアのところに戻すことにして、俺は習慣になった治癒師スマイルで、


「とにかく、ラシュエルは向こうに戻ってね」


と微笑みかけてやった。

ラシュエルは赤くなって下を向く。

熱でもでたのだろうか、やはり具合が悪い時には大事を取らないといけないな。

俺はかわいく眉を寄せて、やってて気持ち悪いのだが。


「やっぱり、今からラシュエルを送り届けてくる。エマ、悪いけどラシュエルも乗せて行ってね」

「クリス様が乗るなら荷物扱いで…」

なぜか俺とマリシアしかエマは乗せたがらないがその辺は何とか説得する。

遺跡の説明は後でも出来るので、ラシュエルをそのまま抱き上げて、砦の転移門まで送っていった。





「ラシュエル、もう懐妊したの?」

「いやなんとなくリリエルに会いたくなってさ、体調が悪いってことにして暫くこっちにいることにした」

「体調が悪いって,ほんとに悪そうね」

「ただちょっと寝不足なだけだ、あいつ夜治癒魔法使うし、俺体力がもたねぇ」

「まぁ、それでなの、あきれた」

「そっちはどうなんだよ」

「それがね、この体に入ってから闇魔法が少ししか発動しないのよ、この体、光と相性が良すぎるからかしら」

「そうかもね、やはり俺たち体を取り替えないとな。リリエルがこの体を使ったらなぜか男にしかならないからな。逆ならいいんだけど…ところでさ、クリスは殺さないほうがいいんじゃないか、ほらあいつが死んだら奴隷達を使えなくなるだろう」

「あの女は必ず殺せって言ってたわ」

「精神防御を下げる薬を飲ませて、奴隷契約させてしまえば大丈夫さ。あとはそのマリシアの体で俺がこき使ってやるさ」

「まさか私よりクリスのほうがいいとかないわよね」

「俺はこれだけ質のいい奴隷をだな…」

「冗談よ、せっかく来たんだから今日は楽しませてあげる…」

ラシュエルたちはラシュエルの心の奥に押し込められたマリシアが全く何もできないと思っていいた。

人の心などという物は、自分自身が把握している部分だけが全てではないのだ。





 ラシュエルたちがそんな話をしているとき俺は小鬼の村に戻り、遺跡の説明をしていた。


「500年前の魔族との対戦中に使用されてそのままになっている隠し砦とか武器庫とかが何箇所か有るの。そこにある使える物を全部ここに運びます」

「クリス様、何箇所にもあるということは、このローグ領に全ての遺跡が在るのでしょうか、遺跡などの所有権は遺跡の入り口に領土がある領主の物になるのではなかったでしょうか」


 俺に質問したエマは帝国法にも詳しい。

貴族の娘としてきちんとした教養を身につけさせられているためだ。

俺にはその上に、犯罪者として法を出し抜く教養がある。

まあ、俗に詭弁という暗殺者時代にヤツにに仕込まれた物だが…。


「遺跡などという物はどれだけ隣の領土に広がっていても、入り口の領主のものなのです。これから行く遺跡の開いている、いやこれから開ける入り口はローグ領だけなのです。後のは入り口が発見されていなくて内部で転移門同士がむすびついているだけなのです。ですからこちらから中へ入って全部取り出す分には法に触れてはいないのです」


 かなりあくどいことをいいつつも俺は上品に微笑んでしまった。

上品なというのはあくまでも俺の主観なのだがどうだろう。

このような行動は無意識でしているのだが、相変わらず聖女の真似事は精神的に慣れず、やっちまったと汗がでる。

べつに我欲に駆られて先人の遺産を独り占めにしようというのではない。

これらの遺産はもともと、500年前に魔族に勝利した先人達が、再び起こるであろう魔族の侵攻に対して、われわれ子孫のために残しておいてくれたものだ。

それなのに、これから取りにいく品々はこれから起こるであろう魔族との戦において今のままではほとんど役にはたたなかった。

それぞれの遺跡の入り口にある領主が中に入っていた遺産を好き勝手に使用し、あるいは奪い合い、結局多くは無駄に失われてしまうのだ。

それならば俺が一箇所にまとめてもっていたほうがいい。

宝庫であった遺跡は、結局は魔族に追われた人類が最後に逃げ込む場所に使われただけだった。


 それで一応エマは納得したみたいだったが、今度はラムが質問してきた。


「その遺跡が伝説の英雄達の宝物庫のことでしたら、入り口が分かっていても中に入るのはほぼ不可能だと思うのですが。強力な守護者がいたり、罠が仕掛けられていたりすると言い伝えられていますが」

「大丈夫です、私は昔中で暮らしていましたし、私の槍は中にあったものです。ですからただ中に入って持ち出すだけの作業になります」


 結局、現状の様子見に、まず俺とシェリーが二人で行くことになった。





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