精霊祭、ローグ砦組
場所
ローグ砦
この世界には契約魔法という権力者にとって非常に便利なものがあるために、先の魔族との大戦から約500年間もの永きにわたってほとんど身分が入れ替わらなかった。
俺はロンバルト男爵嫡男としてノルン王国に縛られ、ローグ帝国伯としてノルンの上位の帝国の家臣となったからには俺に爵位を与えてくれた皇族に支配される。
それから逃れるには、皇族から直接お前入らないといってもらう必要があった。
そのため皇子が飽きるまで牢獄に入っていたとの体裁をとってみたものの…。
俺はほんとに長い間閉じこもっていた。
何もしていなかったのじゃなく、俺の中にある大魔王と呼ばれたものと向き合っていたのだ。
魔法の研究はあくまでもそのついで。
しかし俺が学校で学んだのは原理だけ、ならば応用は自分でするしかないと、応用を考えだしたら、面白くて仕方がない、それでつい呼び出しを受けるまでこもってしまっていたのだ。
まず監視の目を欺く魔法を構築し、次に外界との連絡を可能とする術を考え出す。
狭い独房を空間魔法で押し広げ快適な生活が出来るように家具を作る。
食事は出された物が毒じゃない限り食べることにしていた。
俺は牢獄で閉じこもっている間、公式には教員として採用されるために学園長の出した課題をしていることになっていた。
実際は皇子の側近として採用されるためマリウスが作った試練を受けていたのだが、俺が反逆罪で捉えられたと聞いて、釈放嘆願書の署名を集めかけたミッチェル先生や、俺の家族をそう言って黙らせたのだ。
学園からの公式発表によって学園での俺の地位は保たれており、マリシアやラシュエルは普通に学園生活を続けていた。
前回魔王が現われた日がどんどん近寄ってきているが、俺の周りの世の中はほとんど変わっていないとも言える。
俺が帝国伯爵になって一番影響を受けたのはラシュエルである。
繰り上がりでロンバルト家嫡男となり、知らせを聞いてすっ飛んできた親父に、俺の子を産む事を了承させられた。
夜の一族といわれるロンバルト家の血を引くものは俺しかいないからだ。
そのためには嫁がいることが前提なので少し年上だが同じ男爵家のシャロンと俺にも知らせず一緒になっていた。
親父はたまたま遊びに来ていたメグに目をつけたのだが、従者であるシャロンが体を張って親父からメグを守ったのだ。
年が多少上であろうと、ベレス王国のれっきとした騎士であるシャロンに文句があるはずがない。
そしてこの二人が以外と似合いの夫婦になって俺が帰ってくるのを待っていた。
俺に関係なく変わったのはロビンで、レオナ一人をつれて修行の旅に出てしまっていた。
俺とマリウスの試合を見て思うところが有ったらしい。
俺自身は学園で初級魔法原理と初級治癒魔法実技を教え、ローグ砦でミッチェル先生の精霊術の助手をすることになった。
それと、俺の支配下にない砦だけのローグ領も何とかせねばならない。
ローグ砦の横に新しい拠点を作る必要があったのだが、まずは砦の皆さんに挨拶を兼ねて全員でロ-グ砦に来ていた。
全員には帝都に来ていた俺の親父も含まれる。
俺が世話になる方々に自分も挨拶せねば、とか理由をつけていたが、果たしてそれだけなのだろうか。
いかつい司令官は、かわいい少女の姿の白い花の精霊を肩に乗せ、俺たちを歓迎してくれた。
ローグ砦の司令官も帝国伯に昇進し、栄転による異動の話もあったがそれをことわりここに残ったと伝え聞く。
「クリス~」
ピンクの花の精霊を頭に載せてルーが走ってきてぴちゃっと俺に抱きつく。
キャーかわいい!との女性の嬌声に混じって野太い男のそれが混じって言ったのは聞き間違いだろうか。
ボク、シェリーは自分の相棒になった花の精霊相手に人差し指で戦う真似事をしていた。
新しく仲間になったルーという少女が連れていた精霊を見て、他の仲間達も欲しがったため急遽みんなで精霊を呼び出して契約することになっちゃった。
いつの間にやら、自分も真っ赤な花の精霊を呼び出して契約してた。
精霊にも個性があるのか、ボクのはかなりのおてんばさん。
花の精霊なんか何の役にも立たないと思ってたけど、とにかくかわいい。
あのロンバルト男爵様、つまりクリス様のお父上も花の精霊だった。
ミッチェル先生に聞いたら、なんでも”花の精霊は強き者にのみに現われ守護する”だって。
それなら、あのかわいらしいルーになぜ、とルファが質問したが、ボクには答えがわかってた。
あの少女は見た目どおりのものじゃなく、正真正銘の化け物だって。
そういうボクも化け物なんだ。
遠い日、回復魔法が使えたボクは、あこがれていたアーサーに誘われて旅に出たの。
剣を振ること以外何も出来ないアーサーを全面的に支え、いずれ自分はこのまま彼の妻になるんだと思ってた。
ボクが彼の本性に気付いたのは、怪しげな巫女の神託に従って、暗殺者を雇うために売り払われてからだった。
ボクが入れられた檻の前で、笑顔で金貨を数えるアーサーには言葉を掛ける気力もなかった。
そして改造され、ははは、大失敗で人間やめちゃってました。
そのおぞましい姿で、ボクははっきり聞いたんだ。
クリス様の初恋の人がボクだって。
いったいいつボクはクリス様に会ったんだろう。
クリス様が、ボクを人間に修復するために使った素材があのアーサーだからいまひとつ考えるのが苦手になっちゃった。
とにかく、ボクの初恋は終わっちゃったけどクリス様の初恋がかないますように。
だってクリス様、結婚しちゃってるけど、ボクより強いんだもの…。
精霊は心正しい人間としか契約しないという。
私、エマにも契約してくれる精霊がいた。
しかも、風、水、火、土、光、木の6体もの精霊が私を人と認めてくれた。
それが何よりも嬉しい。
私は、小国の侯爵家の姫として育てられた。
それがある日、私が父の血を引かないことが明らかになってしまったのだ。
古の契約によって、王家のものにしか祝福を与えない聖獣が私に祝福を与えてしまったのだ。
父に問い詰められた母は、王宮での舞踏会のごく僅かの間に、無理やり酔った王の相手をさせられたことを全て話してしまった。
相手が王であるので、父はその時は何も言わず私にも母にもいつもどおりに接してくれていた。
しかし父があやしげな宗教の儀式を行いだしたのはそれからだった。
そしてある日、父の作った新しい神殿に行くと、私に祝福を与えてくれた一角獣と母が祭壇に鎖で繋がれていた。
父の部下達に腐ったような液体を飲まされてわたしの意識は途絶えた。
そして気がついてみたものは、首のない母、そして裸の女の上に覆いかぶさる獣のような父。
父の下になっている女は信じられないことに私だった。
ではここにいる自分はなんなのだ。
そしてその血だらけの私が描いた魔方陣が光リ爆発する。
その閃光に目を閉じ、すぐに開けると山の中腹にいた。
遠くにさっきまでいた神殿が崩れ落ちるのが見えて、暫くして爆発音が響いた。
呆然としていた私は、狩人である少女達が近寄ってくるのに気がつかなかった。
彼女達にいい匂いをかがされて、まぶたを開いたら、あの店の檻の中だった。
そしてある日、私の檻の前に黒い髪の少女が立ったとき、天啓がひらめいた。
これは自分が乗せる主だ。
私を人の姿になれるようにしてくれた主は言う。
「それ、奴隷紋の効果だよ」
でも私は神のお告げだと今も信じている。
あたし、ミューとニューは双子の姉妹ですが契約できた精霊は全く違います。
あたしの精霊は翼の生えたかわいい少女の風の精霊ですが、ニューのは小鳥みたいな風の精霊でした。
ニューも満足しているみたいですからそれでいいのですけど、同じ風の精霊でもいろんなのがいるんですね。
ある日、狩りに出た山の中腹で、ぼんやりと立ち尽くしている一角獣とであったんです。
聖なる獣を狩るのはやめようとニューに手信号で合図したのですがニューは痺れ茸の胞子を風上から撒き始めました。
風上からですと大抵の獣には気付かれますから、巣穴に潜んでいる獣を眠らせるのにしか使えないのですが、このときの一角獣は胞子を吸って倒れてしまいまいた。
この近隣の諸国で一角獣を売るなんて出来ませんから、遠く離れたギルランまで箱につめて運んだのですが、ニューがやっちゃいました。
あたしはやめようといったのですが、ニューが賭け事に手をだしたのでした。
あっという間にお金も全部取られてしまって、奴隷にされてしまいました。
貴族の間ではやっているとかであたしはおっきな狼と、ニューは猫と合成されてしまいました。
尻尾とか耳とか大好きな貴族がいるようです。
もともと動物たちの特殊な能力を得るための術らしいのですが…。
エマも似たようなことを言っているのを聞いたことがありますが、ご主人様があたしの檻の前に来たときぴぴぴぴぴと神様の声が聞こえました。
このご主人様に、あたしはずっとついていきます。
私、ラムの前にころころっとした愛嬌のある動物がいます。
火の精霊だとミッチェル先生に教えていただきました。
私がどう接してよいのやら分からないのと同じようにこの子も私とどう付き合えばよいのか分からないみたいです。
お互い、何かもじもじしていて、似たような精霊だなと思ったらなんだか楽しくなってきました。
そしたらこの子も楽しくなったのか私に飛びついてぺろぺろ舐めてきます。
よく分からないですけど、ととも幸せです。
ところで、私には昔の記憶がまったくありません。
それなのに、いろいろなものを作ることができるのです。
変ですね。
座っていた私をクリス様に手を引いて立たせてもらった時から記憶が始まりますが、それでも時折、怖い夢を見ます。
そんなときはついクリス様のベッドにもぐりこんでしまうのです。
クリス様がいらっしゃらないときは、マリシア様のところに行くのですが、やっぱりクリス様のほうがいいです。
俺ことダルカンが呼び出したのは土の精霊ばかりが4体。
こんなことはきわめて珍しいらしい。
土の精霊、石の精霊。砂の精霊、宝石の精霊だとさ。
俺は辺境の山の中でならず者やはみ出し者を何人か集めて山賊のようなことをやっていた。
記憶があやふやになるのは、旅の巫女を捕まえてからだ。
巫女に命じられるままに、輿入れの途中の貴族の姫を襲い、教えられた術で融合して成り代わった。
部下達も侍女になった。
どう考えてもなぜそんな命令を実行したのかよくわからねぇ。
そのままずっと貴族婦人に化けていた。
あの巫女がいなくなったのはいつからだったろう。
とにかくある日正体がばれてクリスにとっつかまってしまった。
人間をやめていた俺はその日からクリスの使い魔だ。
ところで、最近体調がおかしい。
公爵夫人になってラシュエルを孕んでいたときと同じだ。
ダルカンになろうとしても下半身がレイリアのままもどらない。
マリシア様とはずっとご無沙汰だったので、クリス様に違いない。
なんか非常にやばい気がするが、とにかく暫く隠しておこう。
。
ローグ砦のほうに住むことになるメンバー




