闇から刺す光
場所
ティライア牢獄
光の全く無い独房で食事時のみはドアの下の小窓から差し入れられる椀の匂いでそれと分かる。
食べ終わるとまたもとの位置に戻さなければ次の食事は出てこない。
もちろん、椀がひとつのみで手づかみで食べるしかない。
独房内は用をたすための固定された壺が一つ。
さすがにこれには浄化魔法が掛かってある。
後はドアが一つきりで、寝具も何も無い。
温度変化もないのでいらないといえばいらないのであるが、床は固い。
短くしていた髪の毛はいつの間にやら肩甲骨の下あたりにまで伸びている。
これって速いのか遅いのか。
ある日そのドアが開き、俺を連れてきた看守が二人、入ってきた。
「ついて来い」
廊下に出て階段を上がり豪華な扉の前で、入るように促された。
看守達は入ってこない。
「跪け」
俺は素直に従った。
「狂わ無かったのはさすがだが、でてこれなかったのは残念だ」
よく知らないが、おそらく帝国の皇子の一人だろう、俺とさして歳の代わらない皇子が一人、後ろに二人。
一人は中年の今跪けといった男、もう一人はマリウス伯。
姿を見せないがもう一人。
「そなたがいつ出てくるか学園長と、マリウスと賭けをしていたんだけど、見事に負けたよ。マリウスはすぐにでてくる、私は三日前後で出てくる、そして学園長は出てこれない」
学園長の顔は初めて見るがこの中年男なんだろう。
「レムルシアスを副学園長にすれば優れた配下が手に入ると神託が有ったのだが、どうやら外れたみたいだな。そこそこ術は使えるようだが失望したよ。お前には気骨が足りない。マリウスは腕を食いちぎってでも出てきて不当な扱いに抗議すると予想していたのだがな」
また神託…か。
「お前は我が必要とするほどのものではなかった。好きにしてよい。だが帝国伯には叙したので爵辺境ではあるがローグ周辺の土地を伯爵領とする。ただし砦の指令権はない。もうよい、行け」
おれはおとなしく部屋を出て行こうとしたが、目の前に小柄な人物が立ちふさがる。
「伯爵様、こいつ汚れておりません」
うっかりしていた、水浴びもせずに暮らすのは耐え切れない。
これはマリウスの部下だろうか、よく見ている。
「それがどうしました?身だしなみに気を配っているだけのことですが。そこをどいていただけますか、帰りますので」
「まて!お前、魔法が使えるのか?」
学園長の驚く声に、俺は黙って槍を召喚した。
手枷も床に落ちている。
「お言葉通り、自由にさせて頂きます。賭けは、本来殿下の勝ちでしたよ。家族が逃げたころあいでこのドアの外まで来ましたから」
「そなた我の配下になるのが嫌で今まで牢に入っていたというのか」
「はい。私も仕える主は選びたいと思いますので。このような試され方は嫌いです。我に仕えよとだけおっしゃればよかったのですが」
「巫女は牢に入れると同時に家族を捕縛せよといったのだがな、我は奴隷は欲しくなかったのだ」
「そうすれば、何も手に入らなかったと存じます、では。」
帰りかけたがマリウスに呼び止められた。
「待て、私と賭けをしようじゃないか。去年引き分けた勝負の続きをしよう。負けたほうが部下になる。これでどうだ」
「負けたら殿下公認で奴隷、なら承りますが。それと勝負の公正さが損なわれた場合、損なったものにはそれにふさわしい罰を受けてもらいます。もう一つ、この勝負は非公開で」
「非公開にする意味は?」
「マリウス様の体面にかかわりましょう。負けたら公式には死亡したということで」
「よかろう」
「マリウスそれで良いのか?」
「はっ、この一年の修練、お見せいたしたく存じます」
「うむ」
護衛の女の歯軋りがここまで聞こえてくる。
それじゃぁだめなんだよ、護衛としては主人を体を張っても止めないと。
貴賓席に殿下と学園長しかいない闘技場で、試合開始の鉦が鳴り響いた。
その音が消えるまでに、俺は暗殺者の技を使って気付かれずにマリウスの背後に回りこみ、首筋に槍の柄を叩き込んだ。
そしてそのまま後ろに。
護衛の女が吹っ飛んで気絶する。
「悪いね、俺は魔法剣士の戦い方はほとんどしたことが無いんだ」
そのまま二人を放置して貴賓席に向かう。
「ローグ伯はあの二人には何もせぬのか」
「誇り高きものほど何もされぬことはこたえます、おそらく…」
そのような会話が聞こえてくるが、どうだろうか。
「ローグ伯、学園に残ることを許そう。教えるもよし、学ぶもよし好きにせよ」。学園長もそれで良いな」
「ありがたく存じます」
「はっ」
貴賓席にいた二人にとって一連の出来事は全て終わった。
マリウスは確かに良い人材だがぜひとも必要というほどのものでもない。
皇子としては、後ろに控えるマリウスのほうが目立つのでむしろ邪魔だったくらいだ。
結局マリシアもラシュエルも逃げずに普通に学園に通っていた。
”クリスは何も悪いことをしてないんだからね”
ということらしい。
まったく。
マリウス伯は姿を消し、病死が発表された。
負けたのと部下の不始末で人知れず自害したと皇子は思ったらしい。
しかし契約魔法は発動していた。
倒れた二人の肩に奴隷紋が浮かび上がり、俺はそれをすぐに見えなくしたのだった。
「マリー、今夜はマリシアの相手を務めろ」
新しい侍女はその美しい顔を真っ赤に染める。
俺はロンバルト家の血筋を絶やさないため、嫡男となったラシュエルに種付けしないといけないのだ。
俺を攻略すると漏れなくマリシアが付いてくる。か。
それは正しかった。
そしてマリウスの護衛は心から主と一つになることを望んでいた。
かなり違う状態になったが本望だろう。
俺 クリス ローグ帝国伯
皇子 ティラノス帝国第3皇子
マリウス 帝国伯 魔法剣士
マリウスの護衛 女
学園長 ティライア中央学園学園長 中年男
マリシア 俺の嫁 もと神官見習い
ラシュエル 俺の妹 元リリエル姫
ダルカン 俺の使い魔
ルー 俺の使い魔
マリー 新しい奴隷 融合されているが女性形態のみ
巫女 ?




