三本目の小さな角
場所
ティラノス帝国ローグ砦
負けたくなければ勝てる相手とだけ戦えばよい。
敵とこちらよりはるかに数が少ない場合多少相手が個々に強くてもばらばらにして各個撃破していけばよい。
俺たちは村から食糧確保に出る小鬼たちを執拗に狙った。
小鬼たちは人間よりはるかに強い分、必要なエネルギーも多い。
村の近くの獲物はすぐに狩り尽し、食べられる木の実や植物もすぐ採り尽くす。
そして小鬼たちに勝てない一般兵士も小鬼の食料となる植物を焼き払い、獲物になる動物を小鬼の村から離れる方向に追い立てるのは容易だ。
小鬼たちの狩場は自然と村から遠く離れたところになり、そこで待ち構えた兵士たちに襲撃される。
襲撃にはもちろん俺も治癒士として参加しており、負傷者や死者を一人も出していない。
そして兵士たちはふり返って俺の姿を確認した後、磐石の信頼を俺に託して捨て身で突撃していく。
彼らを死なせないのが俺の務めだ。
小鬼の攻撃を魔法でずらし、防御して、怪我は速やかに回復させる。
その繰り返しによって、下働きの小鬼どもはどんどん数を減らし、残りは中核となる紋章を付けた小鬼ども約30体だけになった。
下働きしていた小鬼たちはもともと身分が低かったか元砦の兵士であった者たちなのだろう。
たまに混じっていた二本角も罠に嵌め殺すことができた。
中核となる小鬼たちはもとが貴族だったためか生活力が無い。
飢えてくれば、多少危険でも食料が確実に有ると分かっている場所に出てくる。
つまりローグ砦にだ。
襲撃は夜明け前にあり、夕方には今俺たちが追い立てる2体のみになった。
片方が振り向き剣を向けてくる。
真正面から俺の使い魔の2本角が向かって行った。
「ここをお願いします。あれを追いますので」
「任された、早く行け」
逃げたのは兵士を小鬼にかえたやつらの指導者だった。
鬼はやっときれいな清水が湧き出している泉の場所まで逃げて来て大事に抱えていた包みを下ろす。
泉の水を飲もうとして手を水につけたとき、水面に移る自分の首から黒い槍がはえているのを見た。
投擲した槍を呼び戻すと鬼は泉の中に崩れた。
それとほぼ同時に遠くで任務完了ののろしが上がる。
先ほど分かれた部隊が上げたものだ。
俺も同じのろしを打ち上げると砦のほうで帰還を促すのろしが。上がった
完全な勝利なのだが気が重い。
彼らはただ政争に敗れて逃げてきただけだったのだ。
しかも…。
俺は残された包みに向かって槍を構えた。
かわいらしい赤ちゃんが何も知らずにすやすやと眠っている。
だが額に小さな一本の白い角。
俺の気配で目が覚めたのか、つぶらな瞳でまっすぐ見つめ、にっこり笑って両手を伸ばしてくる。
困った。
砦に戻ったとき俺の使役する小鬼には小さな3本目の角が生えていた。




