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一拍置いて





 いつの季節も白い雪を頂くその山は『不浄を葬る』場所だった。





 かつてヒトは望むままに想いをカタチにすることができた。

 深い悲しみに陥った者がいた。その者は悲しみをカタチにして、山へ棄てた。そしてその悲しみを忘れた。

 強い怒りを宿した者がいた。その者は憤りをカタチにして山へ棄てた。そして、怒りを忘れ、清々しい気持ちになった。

 やがて皆が『不浄な気持ち』をカタチへ変え、山に棄てるようになった。

 山はその『不浄』を受け取り、隠し続けた。


 いつしかそのことが当たり前になって久しくなった頃。

 神の娘がその山を訪れた。

 娘は山にねぎらいの言葉をかけた。

 そのとき、初めて山は自分の気持ちを言葉にした。


 ──皆が楽しく、嬉しく、楽になるのなら。

 それが嬉しくて皆の『不浄』を受け取ってきました。

 けれどこの身には既に抱えきれないほどの『不浄』があり、私自身はいつも腹立たしく、つらく、悲しいのです。


 娘は山を哀れんだ。

『これからは私も一緒にいてあげる』

 娘は白い鐘を捧げ、自らも山に移り住み、山のために祈った。

 永きの祈りの末、神は娘の願いを聞き届けた。

 ヒトは想いをカタチにする力を失った。

 それ以来、すべてのヒトは美しい心も醜い心も両方抱えたまま生きていかなければならなくなった。





 ──遠い遠い、白鐘町に伝わるお伽話。





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