好きな子と一緒にテスト勉強したいよね
夏休みの前に待ち構えた期末テストまで1週間。
俺、葵愛生はあまり勉強が得意ではない。
これまでは幼馴染の正留水面という優秀な家庭教師がいたからなんとかなったが、
いい加減彼女への依存もやめるべきだろう。
と、かっこつけては見たが本音を言うと奏さんとテスト勉強をしたいのだ。
だから今日学校に行く途中隣を歩く水面に、
「奏さんと一緒にテスト勉強しようと思うんだよね。彼女もあまり勉強得意じゃないらしいし。そんなわけで水面、もう俺の勉強手伝わなくてもいいよ」
と言った。
「そう」
それだけ言うと彼女はスタスタと早歩きで学校へと行ってしまう。
何か機嫌を損ねるようなことをしただろうか?
「おい、てめえ」
声をかけられて後ろを振り向くとそこにはいつも同じ時間帯に同じ道を歩く焔崎の女子高生、さなぎさんと桃子さん。二人とも俺をゴミを見るかのように睨みつけている。
「まあ、あれだな。一発殴らせろ」
そういうとさなぎさんはいきなり俺に右ストレート。長身から繰り出されるそれは俺を地面とキスさせる。可愛いからって何やっても許されると思ってたら大間違いだお前もぶん殴って顔に消えない傷負わせてやろうかと立ち上がろうとするも顔を踏まれてしまい立ち上がることすらできない。
「私は踏みますね。どうして男ってこうなんでしょうか」
この間嬉々として俺に愚痴を言っていた桃子さんが今度は嬉々として俺を踏みつける。
この女サド気質なのだろう、なぎさちゃんも大変だ。
反省してろ、と言い残して二人は去っていく。
俺が何をしたというのか。
リンチを受けたせいでいつもより遅れて学校につき自分のクラスへ。
インフルエンザブームも去ったようで皆来ているようだ。
「水面、俺が何かしたか?」
「別に」
自分の席で本を読む水面に話しかけるも相手にされない。
多分俺が悪いんだろうけど何が悪いのか。
とりあえず今日の目的は奏さんとテスト勉強をすることだ。
これまた自分の席で本を読む奏さんに話しかける。
「奏さん奏さん、放課後暇かな?」
「あ、葵さん。おはようございます。放課後ですか?特に予定はないですけど」
「だったらさ、俺と図書室でテスト勉強しない?俺勉強苦手でさ」
「て、テスト勉強ですか。そうですね、私も苦手ですし、一人より二人ですよね。お供します」
「それじゃあ放課後に図書室で」
よし、無事に約束を取り付けることができた。
今すぐに放課後にタイムスリップしたいところだがなんとかして水面との関係を修復しよう。
「水面、俺が悪かった」
「……」
相手にされない。どうしたものか。
「みなもん、ごめんなさいなの」
ちょっとフレンドリーにやってみよう。
「……」
周りの生徒は噴きだすが水面はびくともしない。
うーん、逆に考えてみよう。彼女を喜ばせるのではなく、
「おいマサル」
「…っ!」
彼女は立ち上がり読んでいた本を俺の顔に投げつけるとものすごい勢いで教室のドアを開けて出て行った。もうしらねーあんなやつ。今日は女の子に殴られて踏まれて物を投げられて厄日だ。
さっさと放課後にタイムスリップして奏さんに慰めてもらうもんね。
その日の放課後、俺は図書室へ向かう。
既に奏さんがテーブルで教科書とにらめっこをしていた。
「ごめんごめん掃除が長引いちゃって」
「あ、はい。あれ、正留さんはいないんですか?」
「あいつ?呼んでないけど」
「え、呼んでないんですか?てっきり呼んでるものかと」
「そんなことよりテスト勉強はじめようよ」
俺は奏さんの向かいに座り、英語の教科書を鞄から取り出す。
試験範囲を確認して英文を訳しようと試みるが、うまくいかない。
「奏さん、ここの和訳わかる?」
「…わ、わかりません…ごめんなさい」
数分後、奏さんもつまづいたようでしきりに首をかしげている。
「あ、葵さん。この物理の問題なんですけど」
「…わからん」
フラミンゴの法則ってなんだよこっちが聞きたいよ。
気づけば一時間が経過。全然テスト勉強ははかどらない。
わからない所を奏さんに聞いてもわからないし、
奏さんのわからない所も俺はわからない。
0×2=0なのだ。
「…はあ、どこがわからないの」
懐かしい声がしたので振り返ると、水面が呆れ顔で立っていた。
「水面様…」
「様づけしないで頂戴。わかる範囲なら教えてあげるから」
「ま、正留さん、ありがとうございます」
朝に比べると水面の機嫌は直ったようで、俺と奏さんに親切に勉強を教えてくれる。
俺はどうやらまだまだ水面に頭が上がらないし依存もやめられないらしい。