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好きな子のお見舞いはしたいけどさ

 インフルエンザが完治した俺、葵愛生はその翌日に一人で学校へと行く。

 俺を看病してくれた幼馴染の正留水面はうつされたのか今は家で寝込んでいる。

 多分俺のせいなんだろう、いつも迷惑かけてばかりだ。



 俺のちょっと前を桃色の髪の美少女、桃子さんが歩いている。

 どうやら彼女も相方の金髪の美少女をインフルエンザという魔物に誘拐されてしまったようだ。



「やあ、おはよう」

「ひぇ?な、なんでしょうか」

 暇だったので彼女に声をかけてみることにする。突然話した事もない、せいぜいたまに見かける程度の男に話しかけられて彼女はかなりびっくりしている。いいねこの反応、奏さんみたいだ。

「相方がいなくて寂しくてね、何か話さない?」

「は、はぁ…構いませんけど」

「なんだか男に慣れてないっぽいね。焔崎は共学だろう?君見た感じすごく男に言い寄られてそうだけど。あ、もしかしてズーレー?いつも金髪の子と一緒にいるし」

「ズーレーじゃないですよ…男共は私にすぐに告白して撃沈して、その後は遠くから眺めるだけなんです。情けないですよね、友達からはじめてください!とか言ってくれれば私だって無下にはしませんよ、なのに男ときたら…入学して3ヶ月が経ったのにまともに喋れる男の人1人しかいないんですよ、しかもどうしようもないチビで変態で…すいません、なんかいきなり愚痴ったりして」

「あはは、まあ俺でよければ愚痴を聞いてあげるよ」

 そうですか?じゃあお言葉に甘えて、と桃子さんはたまっていたものを吐き出す。

 話を聞く限りじゃ桃子さん、チビだの変態だのとけなしているなぎさちゃんの事を好きなんだと思うけど、それは黙っておこう。



「ふぅ、やっぱり愚痴を聞いてもらうのはいいですね、すっきりしました。ありがとうございます」

 いまどきの女の子はやっぱり他人に愚痴を聞いてもらうのが大好きみたいだ。水面や奏さんが愚痴を言うイメージが湧かないが。

「いえいえ、ついでに俺の相談も聞いてくれないかな。相方…幼馴染が俺がインフルエンザで寝込んでる時に看病してくれたんだけどさ、今度はそいつが寝込んでるんだよね。看病しにいくべき?」

「当たり前じゃないですか、看病しないなんて選択肢があるんですか?」

「だってさあ、幼馴染も俺の両親に頼まれて看病しにきたってだけだし、シチュエーション的にもどうなのよ。男と女が逆になっただけで色々問題があるでしょ、桃子さんも寝込んでる時に突然そのなぎさちゃんが家にやってきたらどうする?なぎさちゃんが桃子さんの事を好きだから看病しに来ましたって」

「追い返しますね。人が弱っている時につけこもうとする男は死ぬべきです」

 即答しやがった。なぎさちゃん頑張れ。

「だよね、やっぱり行かない方がいいよね」

「うーん…まあ私の事情は別にして、あなたは行った方がいいと思いますよ?ていうか、てっきりあなた達は恋人だと思ってたんですけど」

「いやいや、あいつはただの世話焼きな幼馴染だよ。俺は別に好きな人いるし」

 気づけば焔崎高校の前に来ていたようだ。桃子さんはそれじゃあ、と焔崎の中に消えて行った。

 これだから鈍感な男は…と言っていた気がするがなんのことやら。



 自分の教室に入り、辺りを見渡す。なるほどインフルエンザの流行は確かなようで、半数程度が休んでいる。

 俺の好きな奏さんもやられてしまったようで、授業が始まっても彼女は学校に来なかった。



 さて、奏さんは休みか。お見舞いに行くべきなのだろうか。

 そもそも俺は奏さんと恋人でもなんでもない、ちょっと彼女に信頼されているだけだ。

 この間お見舞いに来てくれたのも世話になってるからという理由だった。

 いくらなんでも俺がお見舞いに行く理由がみつからないのだ。

 大体俺はいまだに彼女の住所を知らないし。



 と、ここで携帯が震える。確認するとどうやら水面からのメールのようだ。

 メールの本文を確認する。

『昨日の時点で奏さんかなり苦しそうだったから多分今日休みでしょ?

 そんなわけでこれ、彼女の住所だから。お見舞いに行ってあげなさい』

 そんな文章と住所が記されていた。自分も風邪で辛いだろうに、どうして水面は俺のためにここまで。



 でも、でもな?水面。

「俺はチキンなんだよ」

「…本当に馬鹿ね、あんた」

 放課後、俺は水面の部屋にいた。

 お膳立てをされても、やっぱりそこまで仲良くなれてない女の子のお見舞いするのはおかしいじゃないか。

 だったら気軽にお見舞いできる水面の方を選ぶね。

「まあ、奏さんにはメールしておいたしさ、早く元気になってねって」

「だからって…折角のチャンスなのにもったいないわね」

「近い将来お見舞いできる時が来るかもしれないし、とりあえず今日は水面で練習ってことで、はいりんご」

「…これトマトじゃないの」

「トマト好きだろ?小学校の頃勝手によその畑のトマト盗んでまるかじりしてたじゃん」

 水面程じゃないが、俺もこいつのことはある程度理解しているつもりだ。

 今日は水面の親が遅くまで帰ってこない、弟の水瀬もバイトでいないから一人だということ。

 水面の家の鍵が鉢植えの下に隠されていること。

「思い出さないでそんなこと。…ありがと」

 そういって水面はトマトを齧る。熱が酷くなったのか、かなり顔が赤くなっていた。氷を取ってこないとね。

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