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好きな子がお見舞いにきてくれるなんて

 この夏、空前の大ブーム!君も乗り遅れるな!



「げほっごほっ…さ、寒い…」

 インフルエンザに。

 俺、葵愛生は自室のベッドで悪寒と戦っていた。今年のインフルエンザはかなり凶悪らしく、予防接種を受けていたにも関わらずあっさりと発症してしまった。


 土曜日に発症して寝込んで、今は月曜日の朝10時。インフルエンザは公欠扱いなので、俺にはまだ皆勤賞のチャンスが残っている。それだけが救いだ。

 早く治して学校に行って、奏さん…俺の好きな人の顔が見たい。親の作ってくれたおかゆを食べ終えた俺は眠りにつく。




 目が覚めると、奏さんの顔がそこにあった。ベッドで寝る俺を心配そうに覗き込んでいる。

「うおっ!?」

「ひゃっ!?」

 俺がびっくりして声をあげるのにびっくりしてしまった奏さんはその場に尻もちをついてしまう。

 辺りを確認するが、ここは俺の部屋。ど、どうして俺の部屋に奏さんが?

 そうか、うん。夢だな。夢ということは何やってもいいよね。

 俺はベッドから起き上がると奏さんに抱きつこうと飛びかかる。


「夢じゃないわよ」

 しかし突然現れた幼馴染、正留水面によって止められてしまう。

「夢じゃないのか!?」

 ほっぺをつねる。確かに痛い。なんてことだ、現実だったのか。危うく現実の奏さんに襲いかかってしまうところだった、ありがとう水面。



「…で、何で二人とも俺の部屋にいるの?」

 これが現実であることはわかったが、俺の部屋にいきなり女の子が2人もやってくる理由はよくわからない。夢だと思ってしまうのもおかしくないだろう。


「…お見舞いよ、私が奏さんを誘ってね」

 水面がそう言いながら朝食べたおかゆのお皿を持って部屋を出ていく。片づけてくれるのだろう。

「ま、正留さんに葵さんが寝込んでるから放課後にお見舞いに行かないかって誘われて、いつもお世話になってるしお見舞いに行った方がいいのかなって私も思って…お、お邪魔でしたか?」

 グッジョブだ、水面。お前はなんて素晴らしい幼馴染なんだ。


「…お見舞いに来たはいいけれど、どうしましょうね。とりあえずプリンとかりんごとか、それっぽいもの買ってきたんだけど」

 水面はそう言ってスーパーの袋を部屋に置く。ああ、なんて出来た幼馴染なんだろうか。

「ああ、水面も奏さんも、お見舞いに来てくれるだけで嬉しいよ。でもあんまりいたら二人にもうつっちゃうんじゃないの?」

 お見舞いに来てくれるのは嬉しいが、二人にインフルエンザをうつしたくはない。


「病人がそんな事気にしないの。私はりんごでも剥いてくるから、あんたは横になってなさい」

 そう言って水面は再び部屋を出てしまった。ひょっとして気を遣ってくれたのだろうか。

 しかし気を遣ってくれたのは嬉しいが、部屋に奏さんと二人きりというのはちょっと今の俺には早すぎるんじゃないかと思う。

 俺はパジャマを着ていて汗まみれなのだ、好きな子にそんな姿を見せられたくない。

 病気で頭が参っているのか、女の子みたいな思考になってしまった。

 言われた通り再びベッドの中に入り込む。


「き、今日クラスでも、半数くらい休んでましたよ。今回のインフルエンザは相当強力なんでしょうね。だから私も正留さんもそのうちかかると思います。だから葵さんが気にする必要はないんですよ?」

 奏さんが俺の熱を測ろうとおでこをくっつけようとしてくる。ちょっと大胆すぎやしないだろうか。

 あれかな?奏さんはひょっとして誘っているのかな?熱があがっちゃうよ。

 そして病気で弱っている時でも身体の一部、布団で隠された俺の下半身は反応してしまうらしい。

 仕方のないことなのだ。

「あ、そうそう。今日の授業をまとめたプリントとか、机に置いておきますね。といっても生徒の休みが多かったからほとんど授業は進んでないんですけど。どうせなら学級閉鎖にしてほしかったですね」

 奏さんはカバンからプリントを数枚取り出すと俺の机にそれを置く。

 なんて優しいんだ、奏さんは。最初見た時は庇護欲がそそられるなあと思っていたけど、しっかりした子じゃないか。



「あれ?ベッドの下に何か本が落ちてますよ?」

 ドキリ。ここにきて俺は重大な問題に気づく。男子学生なら誰しもがベッドの下に隠している、いわゆるエロ本が例にもれずベッドの下にあるのだ。

 そして不幸にもベッドから本の一部がはみ出しており、それを奏さんが見つけてしまった。

 まずい、流石に女の子にあれを見られるわけにはいかない。

「そ、それは気にしなくていいよ。そ、それより机にある本取ってくれないかな」

 なんとかして別の事に興味を向かせようとする。

「あ、はい。この本ですね、どうぞ。…やっぱり気になりますね。個人的に床に物が置いてあるのが許せないんです」

 しかしそんなものは一時しのぎにしかならなかったようだ。お見舞いに来てくれた女の子にエロ本見られるなんて、俺の人生もうおしまいだ…



「りんご、むいたわよ。食べさせてあげて」

「ひゃっ!?ま、正留さんいたんですか?」

 しかしそこに俺の幼馴染という最強の味方が割って入る。水面は奏さんにりんごの皿を手渡すと、ベッドの下にあったエロ本を奏さんに見られることなく俺の机に隠してくれた。

 まったく水面には感謝してもしきれないな。


「はい、あーん。…こ、こういうのって何だかすごく照れますね。自分で言ってて恥ずかしくなっちゃいました」

「あ、あはは…」

 顔を赤らめながらあーんをしてくる奏さん。可愛すぎるだろ。

 病人らしく甘えることにして、りんごを食べさせてもらう。うん、美味しい。

「このりんご美味しいね。きっと青森県の上等なりんごに違いない」

「鳥取県の梨だけど?」

 まさかりんごじゃなくて梨だったとは。水面に騙されてしまった。

 たまにこいつこういうお茶目な所があるよなぁ。



 その後おかゆを作ってくれたり、氷嚢を取り換えてくれたりと至れり尽くせり。

 ああ、なんて俺は幸せ者なんだ。

「さて、もうすぐ8時ね。あんたの両親もそろそろ仕事から帰ってくるでしょうし、そろそろお暇した方がいいかしら」

 時計を確認した水面がそう言ってカバンを手に取る。

「今更だけど、どうやって家に入ったんだ?鍵かかってただろ?」

「おばさんに頼まれたのよ、看病お願いねって」

 随分と水面は俺の母親に信頼されているようだ。

「…ところで奏さん、さっきから静かだけど」

 奏さんの方を見ると、なんとすーすーと寝息を立てている。

「疲れて寝ちゃうくらい看病してくれるなんて、愛生の事本当に好きなんじゃないかしら」

「そうかなあ、奏さんは誰にでも優しい気がするよ」

 このまま寝かせてやりたいけれど、両親が帰ってきた時に水面以外の女の子が部屋で寝ているとバレたら何を言われるかわかったもんじゃない。水面は奏さんを起こして彼女の家まで送り届けに行った。


 二人のおかげで随分と楽になった気がする。

 病は気から。この分だと明日には完治しているかもしれない。

 二人に改めてお礼を早く言うためにも、早く治そう。俺は再び眠りについた。

 夢の中にナース服を着た奏さんと水面が出てくる。欲求不満なのだろう。ずっと寝込んでいて抜いていないしね。

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