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好きな子の体操服嗅ぎたいよね

「はぁ…そういえば体操服が破けちゃって使い物にならないんだった、買いなおさないとなぁ…もったいないけど破れたのは捨てよう」

「そういえばお兄ちゃんがこの辺りにブルセラショップがあるって言ってたぜ、どうせ桃子の体操服は捨てられてもストーカーに拾われるんだ、いっそのこと売りにいこう!」

「…縫って直そう」


 俺、葵愛生と幼馴染の正留水面。両方毎日決まった時間、それも2人とも同じ時間に家を出るタイプの人間なので、大抵一緒に登校している。

 それは向こうで下世話な話をしている2人の女子高生も同じなようで、ここのとこ毎日あの2人とすれ違う。そのためあの2人の情報も大分わかってきた。

 背の高い金髪の子はさなぎと言って、彼氏と変態の兄がいるようだ。

 背の低い桃髪の子は桃子と言って、さなぎの変態の兄に悩まされているようだ。


 あの2人の会話、特に話に出てくる変態の兄の話題は少なからず自分の考えに影響を及ぼす。

「水面はブルセラショップに行ったことある?」

「そもそもブルセラショップって何?」

「俺も行ったことないんけど、女の子の下着とか専用の古着屋みたいなもんかな」

「…そしてそれを買うのは男ってわけね。愛生、朝からそんな気持ち悪い話をしないでくれるかしら、ただでさえ今日は気分が悪いの」

 いつにもまして今日の水面は機嫌が悪い。一体どうしたのだろうか、あの日なのだろうか?




 今日は体育の時間だ。体育はそれなりに好きだ。

 昔から水面に鍛えられてきたから運動はそれなりに自身がある。

 小学校の頃は男子より女子の方が体が大きくなりがちということもあり、その頃は水面のおもちゃにされていた。当時の水面はすごく活発な子で俺に会うや否やとび膝蹴りをかますような女だった。

 いつからだろうか、俺が水面の背を抜いて、水面が大人しくなったのは。


 今日の体育はマラソン。何をするにもまずは体力が必要だというのが体育教師の持論だ。

 マラソンはあまり好きじゃない、カッコいい所を見せにくいじゃないか。

 これが野球やサッカーだったら、俺が想いを寄せる奏さんの目の前でホームランやハットトリックをかましてやるぜという気にもなるのに。

 そんなわけで高校の周りを適当に走っていると、前方に奏さんの姿が見えた。

 ちょっとブカブカな体操服が実に可愛らしい。

 息を切らしながら一生懸命走っているようだが、かなりゆっくりと走っている俺より全然遅い。

 こないだの雨の日はかなりの速度で走っていたが、持久力はないようだ。


「奏さん、大丈夫?」

「はひ、はひ、あ、あお、葵さん」

「ああ、きついんだったら無理して喋らなくていいよ」

「だい、大丈夫です。葵さんは走るの速いんですね」

 ふと思ったが、奏さんは俺を名字で呼んでいるのか、名前で呼んでいるのか。

 名字と名前が同じだと辛い。しかも発音まで一緒なのだ。

 奏さんのペースに合わせてゆっくりと走る、これではまるで競歩だ。

 体育教師が見たら真面目に走れと怒られるかもしれない。

 他人と一緒に走ることで一体感が生じペースがあがるタイプの子らしく、さっきよりも奏さんのペースは速くなっている。

 その分体力も使うようで、奏さんは汗だくだ。体操服がいい感じに汗を吸っている。

 ゴールに着く頃には顔は真っ赤、体操服はびしょびしょになっていたが、


「えへへ、自己記録更新です。葵さんのおかげですね」

 と笑みをこちらに向けてきた。マラソン大好きです!




 体育の授業も終わり、男子は教室で着替える。

 しばらくすると更衣室で着替えてきた女子がやってくる。

 奏さんも体操服を袋に入れてやってくる。

 今あの袋の中には奏さんの汗と臭いがたっぷり染み込んだ体操服があるわけだ。

 そういえば次は移動教室だったな。




「…よし」

 空き教室で戦果を確認する。

 またやってしまった。移動教室での授業が終わった後にすぐに教室へ戻り、奏さんの体操服袋を盗んできてしまった。大丈夫、お弁当と違ってちゃんと使用したら返すから。


「さぁ、嗅ぐぞ…」

 前回は奏さんの縦笛を舐めることはできなかったが、今回は体操服を堪能できる。

 やっぱり好きな人の体操服を前にすると緊張するな、うん。深呼吸しよう。

 スゥ…ハァ…。よし、やるぞ…



「ま、待ちなさい!」

「うおっ!」

 突然空き教室のドアが開かれて入ってきたのは水面。またバレてしまった。

 何やら顔を真っ赤にしてパニック状態になっているようだ。


「み、水面!た、頼む!誰にも言わないでくれ!ちゃんと体操服は返すから!」

「言わない、言わないから。とにかくそれは駄目なの、その袋をそっちに寄越して」

「何で駄目なのさ、俺が奏さんの体操服を嗅ごうと水面には関係ないじゃないか」

 まあ奏さんの体操服嗅ぐこと自体駄目だろうけどさ。


「駄目なものは駄目なの、また今度にしなさい。気絶したくなければ」

 そういうと水面はファイティングポーズをとる。

 数年前は水面に勝てなかったが、今じゃ俺の方が背も高い。

 確かに水面は武道を嗜んでいるが、俺だって水面に鍛えられてきたんだ。

 手荒な事はしたくないが、自らの欲望のためには仕方がない。

 すまない、水面と心の中でつぶやきながら、俺は水面に襲いかかった。

 絶対水面なんかに、負けたりしない!





 水面には勝てなかったよ…

 立ち上がる気力すらない俺をよそに、水面は体操服の袋を持って教室を去っていく。

 ボコボコに打ちのめされはしたがあまり痛くない、水面の情けだろうか。

 でも立ち上がる気力はない、今日はこのまま授業をサボろう。

 それにしても何で水面はあそこまで必死だったのだろうか?

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