好きな子の作ったお弁当食べたいよね
「あ、お弁当持っていくの忘れてた!」
「取りに帰れば?」
幼馴染の正留水面と共に学校へ向かう途中に、親の作ってくれたお弁当を家に忘れてしまっていた事に気づく俺、葵愛生。
「今から取りに帰ったら遅刻しちゃうよ、俺こう見えて皆勤賞狙ってるんだ」
「ふーん」
しょうがない、今日は学食で食べるか購買でパンでも買おうと考えていると、
「おはようございます、葵さんと…えーと…」
偶然にも片想いの相手である奏加奈子さんが。
「…正留水面よ」
「す、すいません。人の名前覚えるの苦手で」
そのまま3人並んで学校まで歩く。
「ところで奏さんは確かお弁当だよね?」
休み時間に一人隅の席で小さなお弁当を広げている彼女をよく眺めていた。
俺にもう少し勇気があれば誘うこともできるのだろうけど、多分まだその時ではない。
「は、はい。実は毎日自分で作っているんですよ?」
「ええ!?じ、自分でお弁当作る人なんて水面以外にいないと思っていたのに」
よくもまあ早起きしてお弁当なんて作れるものである。
「へえ、正留さんもお弁当自分で作るんですか?料理好きなんですか?」
趣味の合う人を見つけたと言わんばかりに奏さんの目はキラキラしていて可愛い。
どうでもいいけど名字で呼ぶとマサルさんになっちゃうんだよな…
「…まあ、練習がてらね」
「そうなんですか、楽しいですよねお料理♪」
可愛いな、奏さんは♪
そして学校に到着し、いつものように奏さんを見ながら授業を受ける。
4時間目は移動教室。お昼のチャイムが鳴ると同時に俺は全速力で教室へ。
一番乗りだ、誰もいない。俺は奏さんの机に赴き、可愛らしいカバンをちょっと探索。
可愛らしい風呂敷包みがあったのを確認すると、それを自分のカバンの中に入れて教室を出る。
うん、誰にも見られていないな。俺は3階にある空き教室へ向かった。
「いただきます」
空き教室の机に座り、一人寂しくお弁当を広げる。
しかし、一人寂しいなんてどうでもいいのだ。
「お弁当のデザインも可愛らしいなぁ…」
だって奏さんのお弁当が食べられるのだから。
存在を主張しすぎないごはんの量、ちょっと焦げ目がついていて手作り感のある卵焼き、シャキシャキと音のしそうなほうれん草、プチトマトなどなど。栄養バランスもさることながら見た目も美しい。
さっそくおかずの卵焼きを口にする。これは隠し味に塩を入れているのだろうか、うまい!
野菜も瑞々しくてごはんが進む。ああ、幸せだ…
「はぁ…あんたねえ、流石の私も見過ごそうか迷うわ」
「うおっ!?み、水面か」
気が付くと机にはもう1つお弁当が置かれており、正面には水面の顔が。
「やるならやるでちゃんと鍵をかけておきなさいよ。ここたまにカップルが使うのよ」
自分のお弁当を食べながら水面はそう言う。
「しかしまあよくここがわかったね」
幼馴染には何もかもバレバレということか。しかし反対に俺は水面の事を何でも知っているかと言うとそうでもない、残念な事に。
「奏さんがお弁当がないない言うからまさかと思って探してみれば、案の定よ」
「頼むよ、好きな子のお弁当を食べたいって気持ちわかるだろ?」
「はいはい。で、その好きな子のお弁当は美味しい?」
話している間に小さめの奏さんのお弁当を食べ終えた俺に水面は感想を求める。
「美味しいけどちょっと物足りないなあ、男の俺には」
「盗人猛々しいにも程があるわよ、まったく…」
「水面のお弁当もちょっと分けてよ」
そう言うと水面の顔が赤くなる。一体どうしたというのだ。
「あ、あんたねえ…ああもう、好きにしなさいよ」
食べかけのお弁当をこちらに寄越すと、水面は立ちあがり、ピシャン!とかなり力強くドアを閉めて教室を出ていく。一体どうしたというのだ。
ああそういえば関節キスだったな、こないだの縦笛の件でも大分呆れられたし、流石にデリカシーがなかったか。
まあそれはともかくお腹が減ったので、水面のお弁当にも口をつける。
うん、うまい。