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好きな子って苛めたくなるよね

「ちょっとあんた!何があったか知らんけどいい加減部屋から出てきなさい!餓死するつもり!?」

 そして春休みが始まって、俺は3日ずっと部屋から出ていない。

 何もかもが虚しくなって、自分の人生は何だったのかという気持ちになって、俗に言う引きこもり状態。

 このまま死のうかとも考えていた。ただ飼ってるハツカネズミのハッカまで巻き添えにするつもりはなかったのでケージを部屋の外に出して、ドアに鍵をかけて、バリケードを作って、ずっとこもっていた。

 母親がどんどんとドアを叩くが、母親だって俺のやってきた事を知れば俺に幻滅するだろう。



「愛生、開けて」

「水面」

 今度は水面がコンコン、叩く音。何だか外からいい匂いがする。確かこれは文化祭の代休の時に水面が作ってくれた料理の匂いだったか。

「ほっておいてくれよ」

「駄目。死なれたら私が困る」

 おせっかいな女だ。ああ、でも死ぬ前に聞いておくか。

「水面、何でお前あそこまで尽くしたんだよ、俺みたいな屑で変態な男のために。苛めに加担して、責任まで自分でとろうとして、何で俺と奏さんをくっつけようとしたんだよ。ま、お前の頑張りも結局は無駄になっちまったわけだけどな」

 いくら何でもこいつの行動はおせっかいが過ぎる。一体何が彼女をそうさせたのか、冥土の土産にでも聞いておきたかった。



 直後、ガァン!という衝撃音。ドアががたがたと揺れる音。

 その後も何度も何度も衝撃音が響いたかと思えば、気づけば部屋の前に水面が立っていた。

 水面が立っていた、という事を認識できるということは、つまりは鍵をかけていたはずのドアもバリケードも、全てこいつが壊したということか。前から思っていたけどどんだけ力があるんだよ。水面は無言で死にかけている俺に近づくと、ものすごい気迫で持っていたおにぎりを口に押し込める。

「んっ…うおっ…んぐ」

 圧倒されてしまい、俺は水面の作ったであろうおにぎりを食べてしまう。

 3日くらい何も飲まず食わずだったせいかそれは天にも昇る味で、気が付けば俺は自分から水面の持ってきた料理にがっついていた。

 しばらく無言で料理を食べ続け、生き返った俺は水面を見つめる。水面は何故か泣いていた。

「本当におせっかいだな。体痛くないのか?つうか何で泣くんだよ?」

 多分ドアに何度も体当たりをしたのだろう、右腕がかなり腫れていた。



「おせっかいじゃない!私は!愛生の事が好きなの!屑で変態でも!だから、だから死んだら嫌なのよ!」

 水面はそう言って、すがりつくように俺を抱きしめる。

 …え?今なんて?

「み、水面が?俺の事を?」

「そうよ!私は愛生が好きなの!」

 子供のように泣きじゃくりながら水面はそう告白した。



 ああ、俺は何て馬鹿だったんだろうな、チルチルとミチルを馬鹿にできないな。

 こんなに俺の事を想ってくれる人に気づきもせずに。

 俺も気づけば子供のように泣きじゃくって、水面を抱きしめていた。





 春休みが終わって今日から俺達も高校2年生。

 始業式に行くため俺と水面は二人で家を出て学校に行く。

「お、久々だなお前ら。おいおい、手をつないで学校行くとかバカップルにも程があるぜ」

「ようやくくっついたんですね、おめでとうございます」

 途中でさなぎさんと桃子さんに祝福を受けた。

「おはよう、さなぎさんに桃子さん。…桃子さん、その指輪」

 桃子さんの手には綺麗な指輪がつけられていた。

「えへへ、彼氏に貰ったんですよ。自分でアルバイトして買ったんですって、自慢の彼氏です」

 嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねる桃子さん。それじゃあ、と二人の通う高校の前で別れる。



「あ、葵さんに正留さん、おはようございます」

 T字路にさしかかると、奏さんが立っていた。

「おはよう奏さん。その、俺達付き合う事にしたんだ」

「そうなんですか、おめでとうございます。それじゃあ、私は久我君ここで待ってるので。同じクラスになれるといいですね」

 奏さんとひとまず別れて、高校に向かう。



「葵愛生です。ダブルブルーと呼んでください。1年の時同じだった奴は今年もよろしくおねがいします。あ、それと、水面と付き合ってます」

 始業式の後、自己紹介で出席番号1番である俺がそう言うと拍手とヒューヒューという冷やかしが聞こえる。

「奏加奈子です。ちょっと内向的な所もありますがよろしくお願いします。久我君と付き合ってます」

「久我真一です。その、よろしく。あー、さっき加奈子が言ってたけど、付き合ってます」

 二人の自己紹介も同様に拍手と冷やかしが聞こえる。俺は今回は心から二人を祝福した。

「ま、正留水面です。その、よろしくお願いします。その、愛生と、付き合ってます」

 水面も拍手とひやかしに包まれた。



「いやー、同じクラスになれてよかったよかった」

 帰り道、俺と水面は二人で下校する。

「そうね。…全く、愛生があんなこというから私もカミングアウトする羽目になったじゃない」

「わりーわりー…とみせかけてうりゃっ」

 俺は水面の後ろに回り込むと、水面の脇をくすぐる。

「…っ、ひゃ、や、だめ、あ、ちょ、調子に乗るな!」

 気持ちよさそうな顔をするも、水面は顔を真っ赤にして俺を突き飛ばす。

「いやー、不意打ちが一番気持ちよさそうだからさ」

 水面は脇が弱点なのだ。

「だ、大体、こんな道端でするなんて何考えてんのよ。…その、続きとかなら、私の部屋でさせてあげるから、来るでしょ?」

 水面がおねだりをするように、子犬のように俺を見つめてきた。心配しなくてもちゃんと苛めてあげるって。



 好きな子って、苛めたくなるよね。

最後まで読んでくれた方、本当にありがとうございました。


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