好きな子が他の子と付き合いました
「…奏さんに、告白されたんだ」
終業式の先日、さあ明日俺は奏さんに告白するぞと意気込んでいたその日の放課後に久我は体育館の裏に俺を呼び出してそう告げた。
「…は?」
こいつが何を言っているのかわからない。奏さんに?鯉こくを勧められた?
「俺もびっくりしてるよ。奏さんはお前に完全に心酔していて、お前の事を好きだと思っていたからな。知らぬが仏って言うし、奏さんへの嫌がらせは止んだわけだし。お前と奏さんが幸せにくっつくなら、俺はお前の悪事をばらすつもりもない、そう思っていたんだ」
久我が複雑そうな表情でそう言う。
「…お前は、奏さんの事をどう思っているんだ?」
「正直、可愛いと思ってるよ。不良屋の一件でクラスから浮いていた奏さんがどんな人かを知って、惹かれてさ。お前の自作自演に呆れて、お前に言われるまでもなく俺も奏さんをたまに守っていたんだけどな。それが原因で好かれちまったのかな」
ははは、そうか。奏さんを守っていたのは俺だけじゃない、久我もだったな。
久我はイケメンだし、奏さんも俺みたいな陰湿な人間よりも久我に惹かれたってわけか。
「俺は正直奏さんの告白をOKしたいよ。だけどお前の気持ちも理解している。お前がこんな騒ぎまで起こすくらい奏さんを好きだって気持ちを知っている。だからお前がそう望むなら、俺は奏さんをフるよ。それをお前が慰めればハッピーエンドだろう。たまたま俺の方が少し好感度が高かっただけで、奏さんは間違いなくお前にも好意を抱いているからな」
お前はどうしたいんだ、と久我は俺を真っ直ぐに見つめて言い放つ。
「奏さんを、幸せにしてやってくれ」
俺はそう告げて、逃げるようにその場を立ち去った。
これはきっと天罰なんだ、好意を得るために騒ぎを起こした俺への。
水面が責任をとったように、俺も結局は責任をとる必要があったんだ。
それが奏さんを幸せにすることだと思っていた。ただ、幸せにするのは俺である必要はなかったんだ。
久我なら、奏さんを俺よりも幸せにできる。だったら俺はそれを祝福するしかない、それが俺にできる償いなのだろう。
「私達、付き合うことになりました」
終業式の日、クラスメイトの前で奏さんと久我がそう発表する。
皆それを拍手で祝福した。俺は拍手することができなかった。
その後すぐにトイレに行って、胃液を大量に吐いた。
「なあ、俺の1年って、何だったんだろうな」
放課後、俺は水面と共に学校を出る。奏さんと久我は早速デートに行くそうだ。
俺はうつむきながら水面に問いかけるが、水面は何も答えてはくれない。
水面は俺と目を合わせようとはしなかった。