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好きな子が髪を切られた

 冬休みが終わり、また俺達の学生生活が始まった。

 冬休みというブランクで一旦落ち着いたかのように見えたいじめが無くなる事もなく、

 相変わらずクラスの女子は調子に乗って奏さんに嫌がらせをする。

 俺はできるだけ奏さんの側にいることで、彼女を被害から守っていた。

 奏さんの話を聞くにたまに久我も、影ながら奏さんを助けているようだ。

 久我は何を思い、行動しているのだろうか。



 その日の4限目にある体育の授業は、男子は外でマラソン、女子は体育館でバレーボールと別々になってしまった。

 奏さんがバレーボールをぶつけられないかが心配な俺は奏さんに見学を勧めるが、

「大丈夫ですよ。今日は何もされてませんし、休んでばかりじゃ駄目ですしね」

 と出る気でいらっしゃる。どうしようもなく心配なので俺は水面に奏さんを守ってくれ!と頼み込む。



 奏さんを心配しながらダラダラと外を走っていると、後ろから久我がやってきた。多分俺が1周遅れだ。

「よう、久我」

「……」

 声をかけるも、完全に無視だ。

「ありがとうな、奏さん守ってくれてるんだろ?」

「……」

 無視されても、それくらいは言わないといけないだろう。



 体育の授業を終えて、着替えるために教室に向かうと教室の外で既に着替えた水面がいた。

「授業中は一応ボールから守ったけど…授業が終わった後、奏さんを見失ったわ。とりあえず、私は校内を探してみる、何かあったら携帯に連絡するわ」

 俺にそう伝えると、水面は奏さんを探すために立ち去る。

 奏さんが行方不明…嫌な予感しかしない。俺はジャージ姿のまま、携帯を持って学校の外を探すことに。

 以前体操服を捨てられた焼却炉の裏…いない。花壇…いない。

 辺りをうろちょろとしていると、クラスの女子2名がケラケラと笑いながら校舎の中に入って行こうとするのを発見。俺はそいつらに詰め寄る。

「おい、奏さんはどこだ」

 女子2名のうち、髪を染めている方を思い切り睨みつける。

「えー何の事かなー、葵君。私達知らないよー?」

「とぼけるんじゃねえ!」

 そいつに掴みかかろうとしたが、髪を染めていない方に止められてしまう。

「女の子に暴力とか振るう気?サイテーだね、女の子に手を出すと後が怖いよ?」

 二人はケラケラと俺を嘲笑い、校舎の中に消えていく。

 くそ、きっと奏さんはあいつらに何かをされて放置されたんだ。

 俺はその後も学校の周りを探すが見つからない。校内を探しているであろう水面からも連絡はない。



「おい」

 ふと後ろから声をかけられる。振り向くと、ジャージ姿の久我がそこにいた。

「久我」

「グラウンド近くの、体育倉庫の中からすすり泣く声が聞こえた。行ってやるんだな」

 久我は吐き捨てるようにそう言うと、不機嫌そうに校舎の中へ入って行った。

 ひょっとして、久我も奏さんを探してくれていたのか。

 そして奏さんを見つけた後、俺に知らせたのか。

 久我に感謝しつつ、体育倉庫へ向かう。確かに中からすすり泣く声。奏さんのものだ。

 外から鍵を閉められている、どうやらあの女子に連れ込まれて鍵をかけられたのだろう。

 酷い事をする、今助けるからなと鍵を開けてやる。



「…っ、あ、葵さん…い、いや、見ないで、くだ、ください」

 連れ込まれて鍵をかけられただけならどれほどマシだっただろうか。

 ほとんど下着姿の奏さん。と言うのも、着ていたジャージがボロボロに破かれていたからだ。切り口からして、ハサミか何かでやられたのだろう。

 そしてボロボロにされたのがジャージだけならどれほどよかったことか。奏さんの綺麗な髪が、そこらへんに散乱していた。髪を無理矢理切られたのだろう。無茶苦茶な髪型にされた奏さんは、ただただ泣くばかり。

「奏さん…とりあえず、これを着て」

 俺は自分のジャージを脱ぐと奏さんに着せてやる。冬の寒さに下着姿じゃ寒いだろうし、更衣室まで出歩けないだろう。Tシャツとパンツ姿になってしまったが、寒さは耐えればいい、奏さんのためなら恥ずかしくもなんともない。

「葵さん…あり、ありがとうございます」

「とりあえずこれ着て更衣室に行って着替えてきなよ。悪いんだけど、教室行って、俺の制服取ってきてくれないかな?ここで待ってるからさ」

「はい…すぐに取ってきます、着替えるのは後でもできますから」

 俺のジャージを着たままパタパタと校舎の中に消えていく奏さんを見送る。寒いけど少しの我慢。



 すぐに奏さんは俺の制服を手にやってきた。

「ありがとう、奏さん」

 制服に身を包みながら奏さんに感謝する。

「なんで葵さんが感謝するんですか。感謝してもしきれないのは、私の方なのに」

 奏さんがちょっと笑う。泣いていた奏さんを笑わせる事が出来たのがすごく嬉しかった。

「ははは、それじゃあ戻ろうか」

 その後奏さんと共に校舎に入って、更衣室へ。奏さんは自分の制服に着替えないといけない。

 更衣室の前で奏さんが着替え終わるのを待とうと外にいたが、奏さんは更衣室に入ってすぐに出てきた。

「ごめ、ごめんなさい、葵さん…このジャージ、今日借りてもいいですか?」

 ボロボロになった制服を手に、泣きながら。



 その日の放課後、俺のジャージを着たままな奏さんとT字路で別れた後、近くで待たせていた水面と合流。

「俺が馬鹿だったんだ、ここまでエスカレートするなんて思ってなかった」

 初めは、ちょっと好きな子にいたずらしようくらいの気持ちだったのに。

 それでも、自作自演で済むならばマシだったのだろう。

 クラスメイトを巻き込んで、もう俺の手に負えなくなってしまった。

 今日だって、奏さんを守れなかった。

「水面、あの2人を俺は許さない。俺がこんな事を言う事自体許されないのかもしれないけれど。いじめを収束させるためにも、あの2人をどうにかしないといけないんだ。頼む、力を貸してくれ」

 ただ、俺が原因とはいえどあの主犯格の2人だけは許せなかった。

 水面は何も答えない。無言のまま、俺達は自分たちの家に辿り着く。



「全部私に任せなさい」

 水面はそう言って、家の中に消えて行った。

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