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好きな子はトイレで水をかけられたらしい

 お弁当に砂を入れた翌日。設定上俺と水面は対立しているため、朝一緒に登校することもない。

 なので水面は10分程俺より遅れて家を出ることに。

 いつも水面と一緒に登校していたので、一人で家を出て学校へ行くのは久々だ。



「お、ゴミクズじゃん。ハムスターちゃんと育ってるか?」

「今日は彼女さんと一緒じゃないんですか?」

 久々に別の高校に通う女子高生、さなぎさんと桃子さんに出会う。

「おはようさなぎさんに桃子さん。ハツカネズミは順調に育ってるよ」

 この二人が、俺達の計画を知ったらどんな顔をするだろう。

 水面だけに水面下で卑劣な計画を遂行していることも知らず、二人は焔崎高校へつくと手をふり別れる。



 自分の高校について、教室に入る。

「……」

 活発な女子グループのうわ、嫌な奴がやってきた、と言わんばかりの視線。

 あれだけ昨日大々的に女子に反発したのだ、空気の読めない男と陰口を叩かれているだろう。

 自分の席につくと、また軽蔑するような視線を感じる。隣の久我だ。

 まあ、表向きは奏さんをかばっておきながら裏でお弁当に砂を入れるんだから、軽蔑されて当たり前か。

 10分程経って、水面が教室に入ってくる。

 俺に挨拶をすることなくスタスタと自分の席へ行き、座って本を読みだす。

 ちょっとウインクしてみよう、とこっそりパチリとウインクをしてみたが、気づいてもらえなかった。

 なんだか本当に水面と喧嘩してしまったみたいで嫌だなあ。



 朝のHRが始まる直前、教室の後ろのドアから奏さんが入ってくる。

「うーわ、朝から嫌な奴見ちゃった。さいあくー」

 女子の一人がわざとらしく、嫌味ったらしく言う。

 奏さんは下を向いてプルプルと震えながら、自分の席に向かい、

「…!うっ、うっ…」

 突然泣き出す。何事かと思って近づいてみると、彼女の椅子には接着剤が塗られていた。

 俺は無言でポケットからティッシュを取り出して、その接着剤を拭く。

「あ、葵さん…おはよ、ございます…」

 こんな時でも精一杯強がって挨拶をする奏さん。なんて愛らしいのだろう。

 接着剤をとりあえず拭いてみたが、まだ少しべたつく。

「俺の椅子、代わりに使いなよ」

 俺は自分の席から椅子を持ってきて、有無を言わさず奏さんのと交換した。

「あ、ありがとうございます」

 本当に感謝なんていいよ、種をまいたのは俺だしね。



 ちょっとお尻の辺りがべたつくなあと思いつつ授業を受けて、お昼休憩。

 俺はいつも通りそこそこ仲のいい友人連中と飯を食おうとしたが、

「悪いな、俺達も女子連中に嫌われたくないんだよ。奏さんと食べるんだな」

 と、それまで仲の良かった連中にあっさりと切り捨てられてしまった。

 人間の本質はこんなものなのかと悟りながらも、言われるがままに奏さんの席まで行って、ずっと暗い表情のままだった彼女に、

「良かったら、一緒にご飯食べない?」

 と誘ってみる。奏さんの表情がぱあっと明るくなって、

「わ、私で良ければ!是非!」

 と微笑んでくれる。

 椅子を奏さんの机の所まで持ってきて、周りの雑音など気にせずお弁当をつつく。

「葵さん、私のせいで本当にごめんなさい、水面さんとも何だか仲悪くさせちゃいましたし…」

 奏さんは、終始自分のせいで俺にまで被害が及んだと自分を責めていた。

「奏さんのせいじゃないよ、奏さんが文化祭のセット壊すはずないのに、きっとすぐに誤解が解ける、それまでの辛抱さ。水面なんて知らないよあんな奴、正直幻滅したな」

 奏さんを慰めて、ついでに水面を扱き下ろすことで別に俺と水面は何でもありませんよアピール。

 水面が物凄い勢いで殺気を放っている気がするが気のせいだろう。

「あ、私ちょっとトイレ行ってきますね」

 奏さんが立ちあがってこそこそと教室を出て行く。

 それに続いて、活発な女子グループの2名がくすくすと笑いながら教室を出て行った。

 しばらくしてその女子2名は教室に戻ってきたが、奏さんは結局昼休憩の間に帰ってこなかった。



 5時間目の授業中、奏さんの机の上に置かれたままのお弁当箱を眺めながら、奏さんどうしたのだろうと心配になる。

 メールを送ってみたが、返信がない。というか奏さんの机にかけられているカバンの中だ。

 ルーズリーフに『奏さんどうしたんだろう』と書いて折りたたんでこっそり水面の机に投げる。

 すぐに返ってきたそれには『トイレで水をかけられたそうよ』と書かれていた。

 ガタン!と俺は立ち上がり、水面を睨みつける。どうしてもっと早く教えてくれなかったんだ!

「どうした、葵。急に立ち上がったりして」

「…すいません先生、お腹が痛いので保健室行ってきます」

 教室を飛び出して、教室近くのトイレへ。

 女子トイレに耳をすますと、すすり泣く声。

 そうか、さっきの女子二人はトイレに行った奏さんに水をかけやがったんだな。

 それで奏さんは教室に戻る事もできず、ずっとここで泣いていたというわけか。

 くそ、今朝の接着剤といい、まさかこんなに早く直接的ないじめをしてくるとは思っていなかった。

 俺はクラスの女子を甘く見ていたのかもしれない。元からあの活発的な女子グループは奏さんの事を快く思っていなかったのだろう。

 幸い今は授業中、女子トイレの中には奏さん以外誰もいないだろうと踏んで、俺は女子トイレの中に入り込み、すすり泣く声の聞こえる個室に呼びかける。

「奏さん、大丈夫?」

「ひゃっ!?あ、葵さん!?な、何でここに…女子トイレですよ」

 個室の中から奏さんの声が聞こえてきた。思ったよりも元気そうな返事で助かった。

「そんな事はどうでもいいから。水かけられたんだね、大丈夫?」

「…はい、私は、ひくっ、大丈夫です。教室、戻らなくちゃ」

 カチャ、とドアが開くと、中からずぶ濡れになった奏さんが出てきた。

 程よく濡れていてセクシー、なんて考えている場合ではない。

「そのままじゃ駄目だよ、ジャージ持ってきてるよね、それに着替えなきゃ。横にある空き教室にいて」

 丁度5時間目終了のチャイムが鳴る。俺は教室に戻ると奏さんのロッカーを開けてジャージを取り出し空き教室へ。奏さんにジャージを手渡して教室の外で着替えを待つ。覗かないよ?

 しばらくして濡れた制服を手にした奏さんが出てきたので、彼女と共に教室へ戻る。

 くすくすと嘲笑する活発な女子グループ。こちらを見ようとしない大人しい女子グループ。

 活発な女子に逆らえない活発な男子グループ。やりすぎだ、しかし勇気のでない大人しい男子グループ。

 不愉快そうに窓の外を見る水面と、俺をずっと睨みつける久我。

 クラスの雰囲気からいじめがある事を感じ取るも、事なかれ主義で見て見ぬふりをする古文の教師。



「奏さん、帰ろう」

 6時間目を終え、帰りの会も終えて(担任の教師は何も言及しなかった)すぐに奏さんに話しかける。

「…はい」

 コクリとうなずいた彼女を連れて、逃げるように学校から去った。



「先生に、言うべきなのかな」

「大丈夫ですよ、葵さんの言うとおり、すぐに誤解が解けます。大事にしない方がいいですよ」

 帰り道、奏さんのこういう性格を知っていて、わざと俺は先生に言うべきか、なんて質問をしてみた。

「それより、葵さん。間違ってもかたき討ちとか、そういうことやめてくださいね。私が、少し我慢すればいいだけの話なんです。…葵さんまで被害にあわせてるのは、申し訳ないですけど」

 なんて健気な子なのだろう。

「…わかったよ。でも、辛くなったらいつでも言ってね。女子を病院送りにしてでも、奏さんへの危害はくわえさせないよ」

「もう、駄目ですよそう言うのは。あ、それじゃ私こっちなんで、また明日」

 T字路につき、精一杯の笑みを浮かべて手を振りさっていく奏さん。その姿が見えなくなるまで手を振り続ける。




 家に帰った後水面の携帯に、「何でもっと早く水の件を教えてくれなかったんだ」とメールを返す。

 メールは返って来なかった。

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