好きな子に罪を着せるために校舎を荒らしました
文化祭は明後日。今日と明日は授業はせずに全て文化祭の準備に費やすことになっている。
クラス全員が文化祭に向けてせわしなく準備。
教室の端っこで健気に飾り付けを作っている奏さんを見つめながら、俺と水面はパンフレットの作成に勤しんでいた。
「ここんとこ登校中に奏さんを見ないと思ってたら、誰よりも朝早く来て作業をしてるらしいね」
「頑張るわね」
奏さんは文化祭を余程成功させたいそうで、ここ数日誰より早くクラスに来たり、当番でもないのに遅くまで残ったりと頑張っている。ただ、そんな健気な彼女に声をかける人は、俺くらいしかいない。
一人だけ無駄に温度が高いせいで逆に浮いてしまうのだ。
今日も遅くまで残る奏さんに付き合って、俺も水面も準備に勤しむ。
今日は力仕事があったのでそれなりに役に立ったぞ!
下校時刻まで残って、奏さんと水面と一緒に学校を出て、T字路で別れて、水面と俺達の家に帰って、今は夜。
…そうだ、やり忘れたことがあった。
俺は水面に電話をかける。
「もしもし水面、夜の学校に忍び込もうと思ったけど、一人じゃ怖いからついてきてよ」
俺の部屋の窓から見える、水面の部屋の窓のカーテンが開き、携帯電話を持った水面が姿を現す。
「…あんたの考えてることがわかる自分に腹が立ってきたわ」
翌日。
俺と水面が学校へ行き、教室へと向かうと何やら騒がしい。
中を覗くと、
「嘘だろ…?」
酷い有様だった。折角皆で協力して準備した文化祭の、お化け屋敷のセットが、壊されている。
「あ、葵さん…」
教室の入り口で茫然と立ち尽くす俺と水面に気づいたのか、既に教室にいた奏さんが涙を浮かべてやってくる。
「おはよう奏さん。一体何があったの?」
「わ、私、今日最初にこの教室、来たんですけど、その時には、もう、いぐ、えぐ」
動転して泣きじゃくる奏さん。無理もないだろう、一番頑張っていたんだから。
よしよし、と奏さんの頭を撫でてやる。
「誰がやったかはわからないが、幸いクラスの皆で協力すれば今日中に準備が終わる程度の損害だ。クラスの皆、頼む、今日一日をクラスのために、文化祭のために捧げてくれ」
クラスの委員長である男が被害状況を確認した後そう言い放つ。
言葉通りクラス全員、更に合同でやる隣のクラスからも助太刀を頼み一日中、下校時間を過ぎても教師に土下座して居残り、ようやく準備が間に合った時には午後10時となっていた。
「…すう」
疲れたのか奏さんはいつのまにか寝てしまったようだ、愛らしいね。
「それにしても誰が犯人なんだろうね、ホント許せない」
「奏さんじゃない?彼女全然クラスに打ち解けてないし、今日も第一発見者だったらしいわよ」
女子が本人が寝てるからとそんな事を話しだす。
全く許せないね、奏さんを犯人扱いだなんて。
犯人は俺と水面だってのにさ。
そうさ、昨日水面と夜の学校に侵入して、クラスの展示を壊したんだ。
「何とか準備間に合ってよかったです。それじゃ、おやすみなさい」
「おやすみ、奏さん」
「…おやすみ」
奏さんを起こした後3人で学校を出て、T字路で別れて、いつも通り水面と家へ。
「いやー、なんとか準備が間に合って良かったよ。水面を連れて行って正解だった、俺一人だったら壊しすぎて間に合わない所だったかもしれない、ありがとな」
「いい感じに奏さんも疑われてるわね」
目論見通り、クラスに馴染んでおらず、誰よりも早く教室へ来た奏さんを疑うクラスメイト。
馬鹿な連中だが、利用し甲斐があるってもんだろう。
奏さんの周りは、いよいよ敵だらけになろうとしていた。
文化祭当日。
「お、お化け屋敷やってます!どうぞ楽しんでください!あ、葵さん」
お化け屋敷の受付嬢をしており、可愛らしいカボチャのお面を被った奏さんに声をかける。
「その、もうすぐ演劇部がロミオとジュリエットやるんだけど、一緒に見に行かない?」
文化祭というテンションのあがるイベントは俺の勇気を高め、ついに奏さんを誘うという行為に至った。
「あ、葵さんとですか?で、でも私まだここにいなきゃいけませんし」
「私が代わりにやるわよ。奏さん文化祭の準備一番頑張ったもの、今日くらい楽しみなさい」
「水面さん…あ、ありがとうございます。えへへ、実は楽しみにしてたんですよね、演劇部の」
こうして俺は奏さんと一緒に文化祭を回ることに成功。かなり距離が縮んだのではないだろうか。




