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好きな子の靴に画びょう入れました

 夏休みも終わり、9月になった。

「はい、これ田舎のお土産です」

「ありがとう、奏さん」

 始業式の後、奏さんにもらったトロール人形(彼女の田舎はどこなんだ?)を鞄に入れる。

 お土産をくれるということは望みがあるということなのだろうか?うーん…

 まあ夏休み逢えなかったことで逆に俺と奏さんの仲は進展したはずだ、多分。

「ところで葵さんは、夏休み何してましたか?」

「えっ?な、何もしてなかったよ…」

 水面とデートの予行演習してましただなんて好きな人あいてに口が裂けても言えない。

 なんだか水面が俺をにらんでいるような気がする。



 そして俺の日常がまた始まる。

 朝は水面と一緒に学校へ行き、教室で大抵一人で本を読んでいる奏さんを眺め、

 授業中も奏さんを眺め、お昼休憩は友人とお弁当を食べながらも一人で可愛らしいお弁当をつつく奏さんを眺め、体育の授業では二人組が作れずにおろおろしている奏さんを可愛らしいなあと眺め…

 ん?何か違和感を感じる。奏さんには何かが足りないのではないだろうか。



「それじゃあ、また明日」

「それじゃあね、奏さん」

「また明日」

 その日、俺と水面と奏さんの3人で学校を出て分かれ道まで一緒に行ってそこで別れる。

 奏さんを見送った後、疑問を水面にぶつける。

「なあ水面、奏さんは何か女子高生として足りないものがあると思うんだけど何だと思う?」

「…友人じゃないの」

「それだ」

 そうだ友人だ。よくよく考えてみれば奏さんはいつも一人でいることが多い。

 俺や水面以外と喋っているところを全く見ないのだ。

 寂しげな奏さんも可愛いけど、やっぱりなんだか可哀想だ。

「水面、奏さんに友達紹介してくれよ。水面は人気者だしさ」

 水面は男女共に人気が高かったりする。女子からは頼られるし男子にもそれなりにモテるようだ。

 奏さんは自分から他人に話しかけられないから友人ができないけれど、水面の顔の広さを活用すれば奏さんと気の合う仲間もできるだろう。



「…本当にそれでいいの?」

 水面は冷たく、そんなことを言った。表情も冷たい。

「へ?」

 奏さんに友達ができる、それの何がいけないのだろうか。

「あんた当初の目的忘れてない?奏さんを陥れてまでも自分への好感度を稼ぐって言う。奏さんに友達ができて、友達と帰るからあんたとは帰れなくなったりしていいの?彼氏ができてもいいの?」

「だ、だめだ、それは困る」

 水面に言われるまですっかり忘れていた、奏さんは孤独でないといけないのだ。

 むしろ虐げられなければいけない、それで俺に依存してくれないと。

 好きな人に依存してほしい、誰がこんな俺の考えを否定できるっていうんだ!



 翌日、朝早く学校へ来た俺は奏さんの上履きに画びょうを仕込む。

 下駄箱付近に隠れて奏さんが悲鳴を上げるのを待つ。

 奏さんがやってきた。いつものように下駄箱で靴を脱いで上履きに履き替えようとする。

「…ああっ!」

 直後、悲痛な叫び。右足に画びょうが刺さったのだ。

 俺は待ってましたと言わんばかりに奏さんの所へ駆けつけた。

「どうした、何があったんだ奏さん!」

 遠くからこの茶番を眺めている水面は白々しいと思っているだろう。

「あ、葵さん…足に何か刺さって…」

「…これは画びょうだ。血が出てる、保健室に行こう」

「は、はい…」

 画びょうを抜いた後、俺は奏さんに肩を貸して保健室まで連れて行く。

 奏さんは自分に向けられた悪意に怯えていた。

 実際には悪意ではなく歪んだ好意なのだけど。



「はい、これで大丈夫だと思うよ」

「ありがとうございます」

 保健の先生はいなかったので、画びょうの刺さった場所にテープを貼る。

 奏さんは今にも泣きだしそうだ。痛みで泣き出しそうなのではなく、

「…私、何かしたんでしょうか…?」

 靴を隠されるとか生易しいものでない、画びょうを仕込まれるというのは明確ないじめだ。

「犯人に、心当たりはないの?」

「…いえ、まったく…」

「そっか。そろそろ授業が始まるから戻ろう。もし今後もこういう事があったら相談してよ。力になるからさ」

「あ、ありがとうございます!」

 この時の俺は奏さんにとってみれば天使のように見えただろうか。

 実際は悪魔すら生ぬるい地獄の帝王だ。



 その日の放課後の帰り道、俺は水面に戦果を報告する。

「っていう具合だ、いい感じじゃない?」

「そうね、奏さんの信頼はばっちりみたいね」

 順調に計画は遂行できている気がする。ただ問題点があるとするならば、



「…もし水面が奏さんに疑われたりしたら、ごめんな」

 これに尽きる。学校で奏さんと交友しているのは俺と水面くらいなものだ。

 奏さんは俺が犯人だなんて微塵も思っていない。犯人に心当たりはないと言っていたが、水面が犯人だと疑っていてもおかしくはない話だ。

 特に奏さんと水面の関係は友人の友人という中途半端な関係。

 水面が俺の事を好きで奏さんに嫉妬して画びょうを仕込んだ、なんて考えているかもしれない。



「疑われる?私も共犯だから」

 水面はそう言って自嘲気味に笑った。

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