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好きな子じゃないけどデートに誘われたよ

 夏休みももうすぐ終わり。夏休み最後にして最大のイベントがこの夏祭り。

 そんな夏祭りを、俺、葵愛生は幼馴染の正留水面と一緒に過ごすことになった。



「…来週、夏祭り一緒に行かない?」

 先週デートの予行演習と、夏休み何もないのは寂しいという理由で水面の映画についていった帰り、水面はそんな提案をしてきた。

 何故?水面が俺に?デートの誘いを?

 俺は必死に理由を考える。そうかわかったぞ、水面もデートの予行演習がしたいんだな。

「いきなりだな。まあ、いいぜ」

 うんうん、いつもお世話になっている水面のためだ、今日は彼氏になったつもりでデートを楽しもう。

 奏さんはまだ田舎にいるみたいだし、誤解されることもないだろう。



 というわけで、お祭りの入り口となる神社への道の鳥居で待ち合わせ。

 家が隣同士なんだからそこから一緒に行けばいいじゃないかと尋ねたが、

「ムードよ」

 と言われてしまった。そういうものなのか。



 待ち合わせ時間から10分、水面がやってきた。

「ごめんなさい、着付けに時間かかっちゃって」

「似合ってるね」

「…ありがとう。愛生も、似合ってるわよ」

 水面は赤をベースとした花柄の浴衣に身をくるんでいた。すこしドキッとする。

 浴衣って、やっぱり特別だよなあ。

 ちなみに俺も祭りということで親の甚平を着てきたのだが、似合ってるなら良かった。

「とりあえず、どうする?」

 俺はプランを考えていない。この間読んだ本によると、例え女の方からデートを誘ってきてもプランは男が練るものらしいが、そうなんだろうか?

「花火大会まで3時間くらい、ぶらつきましょ」

「3時間もぶらつけるかなあ」

「案外すぐよ」

 そんなものなのか、適当に水面とその辺をぶらついて回ることに。



 まず目に入ったのは、りんご飴の屋台だ。

 りんご飴にみかん飴、ぶどう飴にパイン飴、しばらく行っていないうちに、随分と派生したものだ。

「水面、りんご飴食べようよ。おごるからさ」

「自分で出すわよ。それよりいい加減5千円返しなさい」

「…ごめんなさい。利子ってことで、おごらせてよ」

「それなら、まあ」

 今日はお金を大目に持っていたのできちんと5千円を返し、ついでに赤いりんご飴を買って手渡す。

 俺は青いリンゴ飴。葵愛生が青いリンゴ飴を買う、良い響きだろう?

 しかし、こうしてみるとりんご飴って食べづらいよね。基本りんご丸1つだし。

 おまけに周りがべっこう飴で固められているからべたつく。

 女の子にはパイン飴とかにした方がいいかもしれない、予行演習した甲斐はあった。

「水面、舌見せてよ」

「…はい」

 水面はベーしてくる。りんご飴を食べ終わった水面の舌は真っ赤だ。可愛らしい。

「それじゃあ俺も」

「…毒々しいわね」

 お返しとばかりに俺も舌を見せるが、青いりんご飴を食べた後の舌は余程ショッキングだそうで。

 というか、青りんごは緑なんだからべっこう飴も緑で固めるべきじゃないのかな?

 基本的に青い色って食欲なくすと思うんだけど。



「おう!お前らデートかよ!ひゅうひゅう!」

 その後二人でまたぶらぶらと歩いていると声をかけられる。

「やあ、さなぎさん」

 毎度お馴染みヤンキー少女のさなぎさんだ。今日は浴衣に鉢巻姿で咥えているチョコバナナがエロス。

「そうだ、出店やってるんだけど遊んでけよ」

 こういうところの出店ってアレな人がやってると聞いたけど、彼女もそうなのだろうか。

「いいけど、何やってるの?」

「ハムスター釣り。ひまわりの種を餌にハムスター釣るんだ」

「……」

 俺も水面も絶句。まだ飼いやすい金魚や亀はともかく、ハムスターって。

 問題にならないのだろうか。

 しかしまあ、興味はあるので彼女についていく。



 ハムスター釣りのコーナーへ。

 大量のハムスターがうごめいている。可愛いのか気持ち悪いのかよくわからない。

「これを、こうやって、あ」

 お手本を見せようとさなぎさんはハムスターを釣りあげようとするが、ハムスターは途中で落ちてしまった。

「大丈夫大丈夫、受け身ができるし下はふわふわな素材だから骨折とかしないよ」

 だけど可哀想だ。ハムちゃんを救ってあげたくなってきた。

「うーん、まあやってみるか。水面は?」

「私もやってみるわ」

 まあ、多分飼えるだろう。こういうところの生き物ってすぐ死ぬかもしれないけど。

「まいど!一人400円になりやす!」

「400円?随分と安いんだね」

 水面の分も合わせて800円をさなぎさんに手渡す。

「そのかわりゲージとかエサとかで儲けるんだよ」

 なるほど。うまい商売だ。

 餌をつけた糸を垂らすと、ハムスターが寄ってきてそれを口に含む。

 食べ終えないうちに、落とさないようにそーっと釣り上げた。釣り成功だ。

「やった。ねえさなぎさん、これなんてハムスターなの?」

「ハツカネズミだよ」

「……」

 ハムスターじゃないじゃん…まあ可愛いからいいけどさ。

 隣を見ると、水面も無事にハムスターを釣れたようだ。…ハムスター?

「水面のそれ、でかすぎやしないか?」

 水面の釣ったそれは20cmは超えている。とてもじゃないがハムスターの大きさじゃない。

「そうね、本当にこれハムスターなの?」

「おお、良かったな、大当たりだぞそれ。クロハラハムスターっていうんだ」

 さなぎさんはカランコロンとベルを鳴らす。大当たりはいいが飼えるのかなこんなの。

 その後ゲージと餌をおまけで貰い、花火が終わった後に引き取りに来るということでその場を後にした。



 そして型抜きをやったり(俺は苦手だが水面は得意らしく荒稼ぎしていた)、射的をやったりとお祭りを楽しみ、

 もうすぐ花火大会の時間だ。

「そういえばかなり昔、こうやって二人でお祭り行った時迷子になったよね、あの時かなり花火がよく見える場所にたどりついたっけ」

 小学校の頃だろうか?

「…場所は覚えてるわ。そこに行きましょ」

 水面はそう言ってほほ笑み、俺の手を取る。

「ちょ、水面」

「いいじゃない、予行演習でもデートなんだから、これくらいはしないと」

 水面は俺の手を引っ張って、森の中へ。

 5分くらいでその場所へとたどり着く。

 丁度花火が始まったようで、ヒュー、ドカーンとキラキラした花火が打ち上げられる。

「なんというか、昔は花火見るだけでわくわくしたけど今は全然だね。何が楽しいんだろう花火って」

 ムードをぶち壊すようで悪いが、正直花火を見てもあまり楽しくない。

「こういうのは、好きな人と一緒に見てこそ楽しいものよ」

 水面はそう言う。好きな人と一緒に見てこそ、か。

「それじゃあ俺も水面も楽しくないってことか」

「…そうね。…ばか」

「何か言った?」

「何でも」

 何だか水面は機嫌が悪そうだ。そんな状態の水面と一緒に花火を見届ける。

 次は奏さんと一緒に行きたいなあ、水面も好きな人と一緒に行けるといいね。



 ハツカネズミにはハッカと言う名前をつけた。長生きしてくれよ?

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