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好きな子じゃないけどデートに誘ったよ

 夏休みが始まった。

 恋愛もので夏休みといえば女の子とプールや海にいったり合宿をしたりと最高のイベントだが、

 現実はそんなものはない。自分は話としての恋愛ものが嫌いだったりする。

 だって女の子とプールや海に行く時点でデートじゃないか。普通は付き合った男女の行う行為だろう、現実のカップルよりも余程お前たちはいちゃついているのに友達以上恋人未満な関係のまま続けていくのは無理があるだろう、というのは俺、葵愛生の価値観が遅れているからだろうか。



 そりゃあ俺だって奏さんをプールやら海やらに誘いたいよ。

 でもテスト勉強や打ち上げの誘いならともかくプールや海に遊びに行こうなんて、

 俺が奏さんを好きなのがばればれじゃないか。というのは俺の価値観が遅れているからだろうか。

 怖い、怖いよ。奏さんにプールに行かない?と誘って、

「え、何で…?」

 みたいな反応されるのが。彼女のお見舞いに行かなかったのもそういう俺のチキンさが原因だ。

 願わくば、彼女の好感度を稼ぎに稼いで彼女の方から告白してくれればなあと思っているのだけど、

 やはり虫が良すぎる話なのだろうか。



 しかし夏休みは暇だね。こんな事なら奏さんに赤点取られて自分も赤点取って夏休みに一緒に補習を受けようとかそんな作戦を考えておくべきだったか。

 恋愛ものではやはり夏休みといえば超重要な期間かもしれないが、現実には40日もある夏休みのうち語られるのは海に行く、知り合いの金持ちの別荘で合宿、夏祭り(もしくはコミケ)、登校日…そういうイベントでたかだか10日程度だろう。

 そして俺に至ってはもう夏休みは半分終わっているのに奏さんとの恋愛イベントは1つもない。俺に海へ誘う勇気はないし、知り合いに別荘を持っている金持ちなんていないし、やはり祭りやら花火やらに誘う勇気はないし登校日なんてものもない。精々メールのやりとりくらいだ。

 しかも俺がうだうだやっている間に奏さんは母親の実家に帰省してしまった。こちらに戻ってくるのは夏休みが終わる頃らしい。



 夏休み明けの教室を想像する。彼女と海に行っただの、日焼けしたねーだの、コミケで同人誌1冊も売れなかっただのそんな会話が聞こえてくる。

 そしてリア充が俺に問うのだ。夏休みは何してた?って

 何もしていない、強いて言えば毎日規則欠かさずオナニーしてました。そう言ってリア充の笑い者にされる自分が容易に想像できる。辛い。

 奏さんはこの際関係ない、このまま夏休み何もせずに過ごすのは勿体ない。



「デートしよう」

 だから隣の家を訪ねて出迎えてくれた幼馴染、正留水面にそう言った。

「…どこへ行くの」

 久々に水面の私服を見た気がする。クールなイメージを持たれている彼女だが、結構可愛い系が好きだったりする。似合わないけど。

「随分あっさりと受け入れるんだね」

「どうせデートの予行演習だとか、夏休み何もしないのはちょっと寂しいからとかそんな思い付きでしょ」

 流石は幼馴染、何でもお見通しってわけか。

「どこに行くかとか決めてないんだよね、どこか行きたいとこある?」

「…今日は映画を見に行くつもりだったのよ、恋愛もので愛生好みじゃないと思うけど、一緒に見に行く?」

「オーケー、恋愛ものの映画を見るなんてデートっぽいじゃないか、十分予行演習になる」

「それじゃあ私は準備してくるから。30分後に迎えにいくわ」

 というわけで今日は水面と映画を見にいくことに。



「おまたせ」

 きっちりと30分後に俺の家にやってきた水面。

「あれ、さっきみたいな可愛い服じゃないの?」

 俺が水面を訪ねたときは結構ファンシーな服装でスカートだったのに、今の水面の服装は無地のシャツに黒のジャケット、青のジーパンとクール系。

「…似合わないの自分でもわかってるから。家で着れればいいの」

「だからって俺とあまり変わらないじゃないか…」

 そう、俺も無地のシャツに黒のジャケット、青のジーパンなのだ。結構多いスタイルだから仕方がないがこれじゃペアルックだ。

「可愛い服が見たいなら奏さんにでも頼むことね」

 水面はそういってさっさと駅へと歩き出す。おいおいデートなのに置いていくなよ。

 それにしても結構似合ってると思うんだけどなあ、水面に可愛い服。幼馴染補正なのだろうか?



 駅について、電車に乗って、市内の駅につき、映画館に到着。

 ほとんど一緒に登下校しているがそれほど喋らない俺達は、デートでもやはりあまり喋らない。

 そして周りの人にやはりペアルックだと笑われた。

「この映画を、見ようと思って。前作があるけど、多分今作だけ見ても大丈夫と思うわ」

 そう言って水面が指差した映画のポスター。『アナウンスせよ!放送部』というタイトルだ。

 どうやら放送部を舞台にした恋愛ものらしい。

「わかった、丁度後10分で上映だね。チケット買ってくるよ」

「私の分は私で払うわ」

「え、奢らせてよ。デートなんだし」

「デートでもなんでも自分の分は自分で払いたいのよ、大体奢るとか言う前にこの間借りたお金返しなさい」

 ごめんなさい、そういえば5000円借りたの忘れてた。今は手持ちがないのでまた今度返します、でもまた忘れそうだなぁ…



 映画の内容は、アマチュア無線部と合併した放送部の部員によるラブコメものだ。

 俗にいうハーレムもので、主人公は4人のヒロインからアプローチをかけられているのにまったく気づかない。

 対比的に、前作の主人公とヒロインで、元アマチュア無線部の二人はいちゃいちゃしている。

 映画の内容は大体4分割されて、各ヒロインのエピソードに割り当てられる。

 結局主人公はだれと結ばれることもなく、こういう日常が続いていくのでしょうというナレーションが締めてエンド。



「すごくつまらなかったね、主人公が鈍感すぎていらいらしたよ」

 映画を見終えた後、近くの喫茶店で軽食をとる。

 主人公が誰かと結ばれたら話が終わってしまうので仕方がないのかもしれないが、主人公がただの鈍感で嫌な奴になってしまい、何故モテるのかもわからない。だからこそモテない人に人気なのかもしれないがというのは、俺がひねくれ者だからか。

「…実際のデートじゃ嘘でもいいから面白かったよって言う事ね、今日みたいに女の子に誘われてみた映画を貶すなんて、相手のセンスを否定してるようなものよ」

 コーヒーを飲みながら水面はそう忠告する。流石は水面、自分のセンスを否定されても怒らずにアドバイスまでしてくれるとは。



「んじゃ、映画も見たし帰ろうか」

 喫茶店を出た後水面にそう言う。

「…そうね」

 何故か水面は不満そうだが、電車に乗って最寄りの駅まで移動して駅を降りて俺たちの家へ。

 あまり会話がはずまないし、水面の機嫌も悪そうだ。

 やっぱり水面とはいえどセンスを否定されて怒っているのだろうか。悪いことをしたなあ。



「それじゃ、また」

 水面に別れの挨拶をして自分の家に戻ろうとする。



「…来週、夏祭り一緒に行かない?」

 水面はそんな事を言い出した。

 …え?

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