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好きな子がカンニングするはずないだろ!

「終わったー!」

 教室でテスト終了の鐘が鳴ると同時に俺、葵愛生は叫んでしまい周りの失笑を買う羽目に。

 幼馴染の正留水面は何やってんだか…といった感じにジト目で俺を見るし、

 俺の好きな奏さんは笑いをこらえている。可愛い。

 しかし叫ぶのも仕方がないだろう。夏休み前の関門・期末テストの全日程が終了。

 明日は土日で、その次の月曜日には採点結果が帰ってきて、水曜日から夏休み。

 採点結果が返ってくるという鬼門はあれど、ようやくテストから解放されたのだ。



「奏さん、テストどうだった?」

 皆が帰り支度を始める中、隣の席(テストでは席順は出席番号。「あ」の俺と「か」の彼女は幸運にも隣同士なのだ!)の奏さんに出来を伺う。彼女は笑いながら、

「はい、結構自信ありますよ!」

 と答えてみせる。一緒にテスト勉強した甲斐があったというものだ。

 俺達が通っている高校、あまり偏差値の高い所ではないがその中でも俺も奏さんもあまり出来のいい生徒ではない。しかし水面の力も借りて1週間真面目に勉強した結果、なかなかの手ごたえを感じた。

「そうだ、これから打ち上げしない?ゲーセンでさ」

「いいですねそれ。私もたまにはパーッとしたいと思ってたんです」

 よし、奏さんの了承は得た。後は…



「おーい、水面」

 既にカバンを持って教室を出ようとする水面に声をかける。

「…何」

「これからゲーセン行かない?打ち上げってことで」

「奏さんと2人で行ってくれば?」

 ひょっとして気を遣っているのだろうか。しかし水面には今回本当に世話になったのだ、水面をほっておいて俺だけ楽しむというのは流石に後味が悪い。

「正留さんも行きましょうよ、一緒に勉強したじゃないですか」

 奏さんも誘いにかかる。多分奏さんが「マサル」と上の名前で呼ぶたびに水面はイライラしているのだろうけど、昔と違って高校生、それくらいで俺以外にキレたりはしない。

「…わかったわ」

 2人の懇願の甲斐あって水面は折れ、3人でゲームセンターへ。



 高校から近いゲームセンター、テスト帰りのウチの高校だけでなく、焔崎の生徒も今日がテスト最終日だったようでにぎわっている。

「人が多いですね…私あんまりゲームセンターって行ったことないんですよ」

 奏さんはゲームセンターに興味津々のようだ。

「…うるさいわね」

 水面はこういうところはあまり好きではないらしい。

 とりあえずUFOキャッチャーやってみたり、太鼓を叩いてみたり、ホッケーをやってみたり。

 失敗だったのはゲームセンターのゲームは大抵1~2人用だということだ。

 3人だとどうしても1人(主に水面)があぶれてしまう。

 水面の言うとおり2人で行った方が良かったのかもしれない。



「お、ゴミクズじゃん」

「こんにちはゴミクズさん」

 奏さんと水面がゾンビを撃つのを見守っていると、声をかけられる。

 振り返るとお馴染みさなぎさんと桃子さん。今日は背の低い男もいる。

 恐らくは彼がなぎさちゃんだろう。

「やあ貴様ら、この間はよくもボコボコにしてくれたな」

 1週間前に俺はこの2人にリンチを受けたが、未だにその理由がわからない。

「本当はまだ殴り足りないんだけどな、今日はちゃんと一緒に行動してるみたいじゃねえかよ、許してやるぜ。んじゃ、俺達は帰るからな。あばよゴミクズ」

「それではごきげんようゴミクズさん」

 俺に勝手にゴミクズと言うあだ名をつけながら、彼女達はゲーセンを出ていく。

 女の子はよくわからないが、もっとわからないのは奏さんがゾンビ撃ちが上手かったことだ。



「うーん、今日は楽しかったです。それじゃあまた来週」

 ゲームセンターでたっぷり遊び、奏さんと別れる。

 それにしても奏さんにガンシューの才能があったとは驚きだ、ギャップにときめいてしまう。

 奏さんの姿が見えなくなるまで見送った後、俺と水面は互いの家へと歩く。

「楽しかった?俺は楽しめたけど」

 俺は奏さんと一緒に遊べただけで楽しかったが、水面はどうだろうか。

 気まずい思いをしたのだろうか。だったら本当に申し訳ない。

「私も楽しめたわよ」

 水面はそう言うが果たして本心なんだろうか。俺はまだまだ水面の事がわからない。

「ところで水面、もうすぐ夏休みでしばらくは逢えなくなるから、その前に奏さんの好感度を上げようと思う。そのためには自作自演も辞さない。何かいい案はないか?」

 そうなのだ、夏休みなのだ。漫画やアニメじゃあるまいし、そんな簡単にプールに誘うとか知り合いのお金持ちの別荘でキャンプするとかそんなイベントができるとは思っていない。

 だから現実的な所で彼女の好感度を稼がないといけない。

 そのためにはかつて自分がやったように、靴を隠したり傘を隠したり、不良に襲わせたりしないといけないのだ。水面にも案を聞こう。

「そうね…」

 彼女はまるで前から考えていたかのように作戦を語りはじめる。




 月曜日になった。テスト返却の日だ。

 水面はかなりの好成績、俺も何とか平均くらいの成績だ。

 そして奏さんは、

「す、すごいです!今までこんな良い点数取ったことありませんよ!葵さんと正留さんのおかげです!」

 とはしゃぐ。可愛らしい。この後襲いかかる悲劇も知らず。

「よし、それじゃあ採点に不服があるやつは個別に担当の授業の教師まで聞きにいけ。今日はこれで終わりだ。…それと奏、職員室に来い」

 テストの返却だけで今日の授業はおしまい。夏休みの予定をファミレスで立てようぜ、とかリア充達の会話が聞こえる。うらやましいことだ。

「何なんでしょうか?行ってきますね」

 奏さんは自分が呼ばれる理由がわからないのか首をかしげながらも職員室へ。

 俺と水面は教室で奏さんが帰ってくるのを待つ。



 10分後、顔をくしゃくしゃにした奏さんが教室にやってくる。

「ひっ…いぇっ…く」

「どうしたんだい奏さん」

 すかさず用意していたハンカチで奏さんの涙をぬぐう。キザすぎたかな?

「…葵さん、ありがとうございます。実は…」

 どうも奏さんはカンニング疑惑をもたれたらしい。

 お世辞にもあまり勉強ができなかった彼女がテストの結果が良かったのが不自然だったとか。

 全く許せない話である。俺は奏さんと水面を引き連れ、担任教師の待つ職員室へ。



「先生、奏さんはカンニングなんてしていません。謝ってください」

 汚物を見るような目で担任教師を睨みつける。こいつのせいで奏さんは泣いたのだ。

「葵に正留か。奏はいままで小テストでも下から数えた方が早い。それもどの教科でもだ。それがいきなりクラスで5番くらいの成績になったんだ。勿論先生は信じたくはない。しかし数名の生徒がカンニングしていたと言っているのを聞いたし、テスト中の監督の教師もきょろきょろしていたと言っているんだ」

 人間結構いい加減なもので、言われてみればそんな気がする、という事が多い。

 あの人実はゲイなんだよと言われれば、言われてみればゲイっぽい仕草をしていたとか言うし、

 あの人実はお金持ちなんだよと言われれば、なんだかカッコよく見えてきたと言う。

 確かに奏さんは周りをキョロキョロする癖があるが決してそれはカンニングではない。

 隙あらば奏さんの横顔を眺めて監視していた俺が言うのだから間違いはないのだ。

「奏さんは私と愛生と1週間前から図書室でテスト勉強をしていたんです。嘘だと思うなら図書委員にでも聞いてください、毎日遅くまで残って私が二人の家庭教師代わりをしたんです、成績が伸びたのが不自然だと言われるのは心外ですね」

 水面も教師に反撃する。俺が教師に言ってもあまり効果はないが、水面は優等生だ。水面の意見を無碍にはなかなかできない。こういう時ってステータスは大事だなと思う。

「…お前らがそう言うんならそうなんだろうな。わかった、他の疑いを持っている教師には僕から伝えておくよ。すまなかったな奏」

 俺達は職員室を出て、学校を出た。



「…葵さん、水面さん、私なんかのためにありがとうございます」

 帰り道、奏さんは俺と水面に深々と頭を下げる。

「友達がカンニングしたなんてあらぬ疑いをかけられたら反抗するのが当たり前じゃないか」

「そうよ。愛生と違って奏さんは教えていて飲み込みが早かったから、このくらいの成績はいけると確信してたわ」

 何気に俺は才能がないと言われてないか?

「…はい!二人ともありがとうございます!」

 うんうん、やっぱり奏さんは笑っている顔が一番だ。

 いつものように別れ道で奏さんを見送った後、いつものように俺達の家へ向かう。



 …もう気づいているかもしれないけど、奏さんがカンニングしたなどと悪質なデマを流したのは俺と水面だ。驚くほどうまくいった。

「いやー、流石は水面。完璧な作戦だったね」

「…そうね」

 作戦の成功にガッツポーズをする俺とは対照的に、水面は酷く不機嫌そうだった。

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