第2部アホと憂欝
―9月の始め、夏の暑さは和らぐ気配がまったくない。ジリジリとアスファルトを照らす太陽。溶けるほどに暑い炎天下の中、ダラダラと通い慣れた道を歩く。
そう、新学期の始まりだ。休みの気分はまだ抜けない。
中学二年になっての夏休み、俺はいろいろな心境の変化があった。髪を染めてタバコを吸い始めて。休みの毎日夜中に家を抜け出して仲間と集まって、騒いで明け方帰る。その繰り返し。とくに何をしたとかは覚えていない。タダそれだけで楽しかったんだ。
毎日がキラキラしてた。何もかもがうまく行く気がしてた。
学校が始まるのはホントにだるい。朝も早い。まだ寝ていたい。休みが名残りおしい。でもこればっかりは仕方がない。
足取り重たく、学校へむかった―
俺が通っている中学は、都会でもなければ、田舎でもない。都内までは電車で1時間も走れば行ける。でもこれと言って売りもない、ごく普通の町のありきたりな場所に建っている。俺はそんな町でそれなりに不自由なく育った―
しばらくして学校につき、教室に入る。約1ヵ月ぶりの教室。木と埃の混ざったなんとも言えない匂い。見渡せば各席にはもうクラスの奴らが座っている。クラスメイトとはいえ、夏休みの1ヵ月の間、まったく顔を合わせない奴がほとんどだから、なぜかとても懐かしく感じる。
そんな中、懐かしさの欠片もない、よく見慣れた二人の男が話し掛けてきた。
『良ちゃんおはよ。』まだ声変わりをしていないような、細く高いトーンで俺を呼びながら右手を振っている。こいつの名前は『豪』名前とは逆に小さくて顔も女みたいで典型的なひ弱な感じの男だ。なぜか知らないがやたらと俺になついてくるのでなんだか憎めない奴。いつもつるんで遊んでる中の1人だ。
『あーあ、良、お前そのまま来たのかよ!アホだねー。』豪の隣にいる男が、いきなり嫌味ったらしく声を掛けてくる。そうこいつもつるみ仲間の1人。名前は『雄太』。小学校からの腐れ縁で、幼なじみというか兄弟みたいなもんだ。
"そのまま"とは俺のこの黄色い頭を指していったのだろう。夏休みにみんなで染めたのだが、こいつらはしっかり新学期前にカラス色に戻してきてた。
『お前らこそ何真面目に頭直してきてんだよ!情けねー!』俺はとりあえず納得いかず言い返した。
『情けねぇとかじゃねーよ!お前はホント馬鹿だね。どうせ教師たちにすぐ目ぇ付けられるぞ!!まぁとりあえず今日は放課後呼び出しだねー。カッコイイ!』雄太は半分笑みを浮かべた憎たらしい顔をして言った。さすがにカチンときたが、俺は言い返さなかった。
雄太は頭がかなりキレる。テストでも、勉強なんかしないで俺たちとつるんでるくせにいつも上位だ!俺が口喧嘩で勝てるわけもない。それは分かりきっている
ついでに付け加えるなら、雄太は昔からサッカーをやっいて、それが地区の選抜にも選ばれるほどの実力だ。
最近は俺たちと遊んでばかりで、部活もさぼり気味だ。しかし、それでも教師たちからの評価はたかかった。
おかげでその分俺たちの風当たりは、すこぶる悪かった。俺はそれが気に食わなかった。
"俺と雄太で何が違う。
勉強ができるだけで、部活に入ってるからって、俺らと遊んでいる時にやってることはなに一つ違わない" 別にそれで髪を直さなかったワケではないが、ただそういった価値でしか評価をしない大人たちが気に食わなかった。だから先公に呼ばれることは承知の上で、俺は俺を貫くことにしたんだ。
もう1人言い忘れていたが、仲間がいる。
そいつの名前はタクミ。こいつだけ隣のクラスなのだが、もう一言でいうとアホ!アホが服着て歩いているようなもんだ!俺もあまり人のことは言えないが。
雄太いわく、俺とタクミがタッグを組むと手に負えないらしい…。
タクミとつるむようになったのは、2年になって最初の時、原因は覚えてないが、喧嘩になり、思いっきりヤリ合ったあと意気投合という、よくありきたりなパターン。
俺たちは大体はいつも、この4人で行動をしていた。
"キーンコーン、カンコーン…"
夏休みの思い出など、くだらないことをワイワイ話しているうちにチャイムが鳴り、担任の教師が入ってきた。
あえて名前は言わないが、嫌な教師の代名詞がよく似合う男だ。
特に俺たちのような(世間から見れば、いわゆる不良)をこれみよがしに、嫌っていた。
雄太の期待を裏切ることなく、教師の鋭い視線は、まっさきに俺に突き刺し、同時にゆっくり口を開いた。『おーい、藤枝、お前これ終わったら職員室にこい!』脂ぎった太い声がやけにカンにさわる。ついでに雄太がこっちを向いて笑っているのが、これまたカンに触った。