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人付き合いが嫌いで苦手な高校生の剣術師範  作者:


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8/9

招かれざる客

 家に帰り、いつもの稽古をして、夕食の準備をする。

 まず油汚れと経年劣化が目立つガスコンロに火を入れ、鍋を温める。

 湯が沸く音に混じって聞こえるトラックの音が、やけにうるさい。

 こんな駅から遠い場所にトラックなんて滅多に来ないのに。

 少しだけ気にかかったが、それより今は夕食の味噌汁が大切だ。具はなめことネギ、僕の大好物だ。安くてぬめぬめして体が温まる。

 寒い日、父さんの帰りが遅い日は母さんがよく作っていた。

 稽古をしているうちにだいぶ遅くなったのか、古びた窓ガラスから差し込む西日に目を細める。

 ふと、玄関のチャイムが遠くから聞こえた。隣の家かもしれない。

 お湯が沸いてきたので出汁の素を入れ、味噌汁の具を切る。

 具を入れたところでまたトラックの音がする。さっきよりも近い。

 バックします、という音が止みエンジン音が止まる。

 今度はチャイムの音が連続して聞こえた。

 そこまでして、やっと気が付く。

 この音、僕の家だ。

 宅配サービスも使用しないし家を訪ねてくる友達もいないから、チャイムの音を忘れていた。

 僕の家に来るとしたら役所の人か、不動産屋さんしかない。インターフォンを取って確認するのも面倒くさく、僕はとりあえず火を止めて玄関へ向かう。

 思い当たる客、どちらも僕にはいい思い出がない。

 でも無視をしても彼らは再びやってくるから、あしらうしかない。

 僕は憂鬱な気持ちでドアを開いた。



「グーテ・ナハト。こんばんは」

 ドアを開くと、そこには大きなキャリーバックを抱えたアレクシアさんが手を振っていた。長袖の白のブラウスにエメラルドグリーンのフレアースカートが、金糸の髪によく似合う。

 昼間は空の青に映える金髪は、今は蘇芳色の夕日に溶け込むように染まっていた。

「何回チャイムを鳴らしても反応がないから、留守かと思いましたヨ」

 アレクシアさんは腰に手を当ててぷりぷりという擬音がぴったりな感じで怒っている。人によってはわざとらしい仕草も、彼女がやると自然に見えた。

「一体、何しに来たの」

 お約束な展開にあまりに野暮な突っ込みかと思ったけど、あえて聞いた。

「今日から、あなたの家でホームステイさせていただきまス。中島さんの家にはお断りを入れましタ。そのために今日は早く帰って荷造りをし、配送業者の手配までしたのですかラ」

 さっき聞こえたと思われるトラックの荷台が開かれ、僕の私物の数倍はあろうかという量の家具が運び出されている。

 その行動力に感心すると同時に、呆れてしまう。

「ずいぶんと急だね……」

「即断即決がワタシの信条でス。我が国はブリッツクリーク(電撃戦)の国ですシ」

 すでにホームステイすることが決まっているかのような言い方だ。

「なんでこんなことを?」

「あなたの剣さばきをみて、只者ではないト感じたのもありますガ。何よりこっそりと見ていたはずなのに、あなたには気が付かれましたシ」

 アレクシアは笑みを浮かべた。クラスメイトと話しているときの少し不自然な笑みとは違う。

 誕生日のケーキが欲しくて町中を歩き回った子供が、最後の一軒でやっと見つけられたような、探し求めていたものにやっと会えたという感じの笑み。


「何よりあなたの正座の仕方、あれはサムライの座り方でス」



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