「皆が大好き」と彼女が言ったから(後日談短編up)
――――ガルシアン王立第一学園のある昼下がり。食堂ではある令嬢の声がモザイク模様のガラス窓を揺らしていた。
「ひどいです!私‥‥そんなつもりじゃなかったんです!!」
ハニーブロンドの緩く編み上げた髪から一筋がはらりと落ち、しっとりと濡れた睫毛を震わせるのはモニカ・バッケン男爵令嬢である。
編み込んだリボンは子爵令息から、胸元で煌めかせたブローチは伯爵令息から、ブラウスの下に隠したネックレスは公爵家の次男殿からの贈り物である。そのどれもが彼女への寵愛の証であり、令息達から“人気者のご令嬢”と呼ばれる所以であった。
しかし彼女に向かい合う令嬢たちの視線は冷ややかなものだ。その筆頭、公爵令嬢フィオレラ・モーウェンは冷酷な表情を隠そうともしなかった。
モニカは尚も言う。
「私はただ、皆さんが優しくしてくださるからご一緒してただけで‥‥。誰かを狙ってるだとか、品定めしてるとか、そんなのは誤解です!」
「それでも婚約者のいる令息との近しい距離感は令嬢達に不快の念を与えるものですよ。それに貴女がどの令息をお選びになるかで暴力沙汰も起きたとか?退学者が出る前に行動を改めてもらいたいと思うのは当然ではなくて?」
「それはその、男爵家ではほとんど平民みたいな暮らしでしたから‥‥このくらい普通だと思って。それに誰かを選ぶつもりなんてないんです。私は本当に、皆が大好きだから!」
―――まぁ。と後ろの令嬢達がさざめいた。
「ずいぶん奔放でいらっしゃるのね」「はしたないこと」
するとそこに、まるでこのタイミングを計ったように数名の令息達が進み出た。
「悪口は控えてもらおうか。本人も言っている通り、彼女は周囲の者に平等に接しているにすぎない。学園で知り合った友と交流することの何が悪い。」
「君たちみたいに派閥の者同士で固まって、複数でなければ行動できないような人間ではないんだよ彼女は。」
「複数名で一人のご令嬢を非難するなど、はしたないのはどちらだ?」
いずれも高位貴族の令息達であるが、あまりの言い草に令嬢たちは不満を露わにする。
公爵令嬢フィオレラは、この場を収めるべき人物に視線を送った。婚約者のヒューバート第一王子その人に。
するとそれに倣ったように数名がヒューバート王子へと視線を向けた。促されるようにして、ヒューバート王子が口を開いた。
「まぁ‥‥交友関係が広いのは結構じゃないか。これが婚約者のいる者に横恋慕でもしているのなら褒められたことではないけれど。モニカは今後、貴族令嬢として振る舞いを学ぶように。といっても、急にに友人たちと疎遠になるようなことは必要ないだろう。ここは学園なのだから」
「さようでございますか」
フィオレラが是とも非とも言わぬ返答で応じると、もう話すことはないとばかりに王子と令息達は場を離れた。モニカは彼らに手を取られフィオレラに背を向けて去っていく。最後まで謝りもせず、挨拶の一つも残さぬままに。
「『皆が好き』とは、いったいどうしたものかしらね」
フィオレラの呟きは、喧騒にかき消された。
*****
一人の男爵令嬢が学園で令息達を侍らせている。その中に、第一王子も含まれている。
―――そんな噂は社交界を賑わせて、ある所では「学生の本分を逸れた愚か者たち」と囁かれ、またある所では「男は誰しも似たような道を通る」となどと捨て置かれた。
学園では身を寄せ合い、放課後はカフェに繰り出し、頻繁に手紙や贈り物も交わす。
婚約者のいる令息達は、決して褒められたものではないその行為を両親や教員たちから咎められることもあった。しかし決定的な不貞には至らず大きな問題にはなっていない。
ただ令嬢たちが静かに怒りを募らせていた。
低位貴族の令嬢達は、モニカの物を隠したり捨てたりと程度の低い嫌がらせをして問題となることもあったが、所詮は子爵家・男爵家の者たちが集まる学級で起きた出来事に過ぎない。即時に対応・処理され必要な物品があれば与えられた。
フィオレラ達高位貴族の令嬢達はモニカごとき娘に自ら直接手を出そうという者はおらず、また公爵令嬢であるフィオレラが静観しているのに倣い、ひとまずは無関係を貫いた。
それでもモニカをめぐる諍いや軋轢は無視できないものになっていく。
彼女は言った。
「皆さんお可哀想。婚約者に縛られて、ご令息もご令嬢も自由がないんですね」
王都の貴族はこんなに窮屈なんですね。と、悪びれもせず言ってのける彼女であったが。バッケン男爵領の民が取り立てて奔放なわけではない。異性に対して気の多い者は平民でも嫌われる、それくらいは常識だ。
彼女だけが学園生活の開放感に呑まれ、『好意』を履き違えているのであった。
同じ学級の令嬢達は奔放を通り越して無礼な振る舞いのモニカに歯噛みする思いであったが、
それもフィオレラにとっては些末な事であった。
+++++++
月に一度の茶会の席で、ヒューバートはフィオレラに言った。
「フィオレラ、くれぐれもモニカに手出しすることのないように。君が命じればモニカなど吹けば飛ぶ存在であろうが、身分の低い者には寛容であるべきだ」
「ありもしない事を想像して命じられるのは不本意ですが、寛容であるべきとのお言葉には同意致しますわ」
「分かっているなら良い」
一方的に話を切り上げるヒューバートに、フィオレラは落胆の色を隠さず、わずかに傾けた顔は無言で問い正すようにヒューバートを眺めるのだった。
どういうおつもりですの?男爵令嬢を傍に置くなど。
口に出さずとも、そんな風に問い詰められているような雰囲気に耐えられず、ヒューバートは早々に場を切り上げるのだった。
元より、二人の関係は悪いものではない。情熱的な恋愛関係はないが、優秀な王子と優秀な公爵令嬢の間に、確かに信頼関係はあった。
その信頼が目減りしていることをヒューバート自身も気づいていないわけではない。しかし咎められるのも煩わしく腹を割った会話もないまま、彼は言い訳がましい歯切れの悪い言葉だけを残すのだった。
残されたフィオレラが、件の令嬢にどう対処しようとしているか、彼は知ろうともせず。
+++++++
異変に気付いたのは、モニカが登校しなくなって五日が過ぎた頃だった。
フィオレラの元に血の気を失ったヒューバートがやってきて、フィオレラはずいぶん時間がかかったものだと呆れる心持ちであった。
「フィオレラ、彼女に何をした?」
「何を、とは?」
「ここ数日、登校していない。君や君に連なる令嬢達が何か手を下したのでは?」
「まぁ、まるで私たちが彼女を害するかのような口ぶりですわね。それは誤解ですわ」
「だったら‥‥、いや他に誰がいる。テリーが男爵家に確認をとったら家紋のない高級な馬車で彼女が引き取られたと」
「ふふ。私、彼女を助けて差し上げましたのよ?男爵家に監査が入ったことはご存じでしょう?即刻取引を引き揚げた家も数多くございましたの。爵位こそ手放さずに済んだようですが。彼女がどごぞの適当な家の後添いにでも出されることは時間の問題でしたし、いっそすぐに売り飛ばされる危険さえありましたから」
「な、なんだと」
バッケン男爵家に粉飾決算の告発があり、即刻監査が入ったのは聞いていた。尤も、ヒューバートの耳に入ったのはつい昨日のことだ。近しい令息達が男爵家に問い合わせるも、男爵自身は監査の対応に追われそれどころではなく、家の事情を安易に喋ることもできぬと断られた。使用人経由でようやくモニカが邸に居ないことを聞き出した。学園も辞めることになるであろうとも。
「モニカ嬢は大変なご状況でしたのよ。それなのに殿下も令息方も、彼女の窮地を助けないばかりか、男爵領の経営が傾いていることだってお気に留めていらっしゃらなかったようで。そうでなくても経営は火の車で。髪飾りなど贈るより援助金でも出して差し上げれば良かったのに」
「‥‥それは」
「大丈夫ですわ。彼女はちゃんと保護しましたから。でもご実家があんなことになって気落ちしておいでですよ。場所を従者に伝えておきましたから、今日にでも皆様でお見舞いに行って差し上げてくださいね?」
フィオレラが万事問題ないとばかりにゆったり微笑むと、それを見たヒューバートは理由が分からぬのに空恐ろしい気がした。
+++++++
その日の放課後、ヒューバートと数名の令息達は御者が馬車を走らせるままに市街地に出た。
普段は出向くことの無い商業地域や庶民の住宅地を抜け、薄暗い路地裏の街路下をくぐり抜けた。袋小路の奥に出ると、その先に小さな館があった。
貴族の令息達には見慣れぬ光景ではあったが、それはなんの特徴もない石造りの一軒家に見えた。
馬車が停まると一人の使用人らしき男が出てきて頭を下げる。家令であろうか。貴族ではなさそうだが身綺麗な格好をしている。
「お待ちしておりました、どうぞこちらへ」
案内に従い玄関扉をくぐり抜けると見た目にそぐわず中は広い。採光の良い廊下を通り居室に通された。燭台も使われている蝋燭も王家のものとは比べ物にならぬほど小さく照明は薄暗い。そして嗅ぎ慣れぬ花の香りが漂っていた。
部屋の中央にソファに座る、モニカの姿があった。
「ヒューバート様!ジョージ様、アベル様、テリー、皆!来てくれたのね!」
「‥‥モニカ、一体どうしたんだ。ここで何を」
ヒューバートは訳も分からず部屋を四方八方見渡す。他に家人がいる様子もなく、しんとしている。
「分からないわ。私、ここで待つように言われて。」「でも皆が来てくれて嬉しい!このドレスも着せてもらったの。でも‥‥もう知ってるかな。私、家があんなことになってしまって。私‥‥」
モニカが泣き出したところで使用人がヒューバートにスッと近寄り、一枚のカードを差し出した
『私からの贈り物です。皆様で素敵な夜を過ごされますように』
紺黒のインクで書かれた秀麗な筆記は、フィオレラの文字であった。
男が言う。
「皆様のご家族には親しいお仲間同士で交流会が催されるため、帰りは明日になるとご連絡しております。皆様のご婚約者様もご承知のうえで、どうぞご自由にとのことです。軽食をご用意させていただきました。追加でお料理やお飲み物がご入用でしたらベルでお知らせください。奥に中広間と客室がいくつかございます。ご用命がなければ入室致しませんので皆様、今晩はごゆっくりなさってください。」
「素敵な夜を」――― そう言い残して男は退出した。
交流会?一体何のことだ。何も聞いていない。今日はここで過ごせということか?まさか
今夜ここで、一晩‥‥?
ヒューバートがその言葉の意味するところに気付いたとき、サッと血の気が引いた。
「‥‥私は今日は所用があるから失礼する。皆で楽しんでくれ」
そう言い残して逃げるように退出した。
去り際に、アベルとロジェがモニカの方へ一歩、二歩と誘われるように近寄りかけていた。
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「贈り物はお気に召しませんでした?」
脱兎のごとく場を辞して先ぶれも出さずに公爵家に駆け込めば、まるで来るのが分かっていたかのように茶の席が設けられた。
程なくして現れたフィオレラは、少し困ったように眉尻を下げている。
「‥‥どういうつもりなんだ」
「どういうつもりと言われましても。殿下にも皆様にもお喜びいただけると思って手配させていただきましたのよ。それにモニカ嬢も慰められますでしょう?」
慰める、とフィオレラが口にした瞬間、ヒューバートの耳の後がカッと燃えるように熱くなった。
―――彼女は男が女をいかにして慰めるのか知っているのか。一体どんな行為を指してそれだと言うのか。
「君は、私と彼女を‥‥ただならぬ関係にするつもりだったのか。なぜ」
「あら、私はゆっくりとお寛ぎいただける場を手配しただけ。ただならぬ関係になるかどうかは、皆様のご判断でしょう?」
「そんなの詭弁だ!あんな場に置かれて、誰にも見られぬと分かったら普通は‥‥」
あの場にいる誰かが彼女に手を出すのも時間の問題であろう。一体誰が?アベルか、サミュエルか、テリーか。いや‥‥もともと複数の男が呼ばれた時点でそのうち一人しか事に及ばぬということもあるまい。まさか複数の男たちで一人の女性を拓くなど‥‥。
淫らな、しかし胃の奥底から毒が回るような想像に、ヒューバートの手が震えた。フィオレラはその震える手に気付いたが、見ぬふりをした。
「しかし殿下はあの場を辞されました。この後お戻りになることもできますし、するもしないも殿下がお選びになることですわ。‥‥それと、マーシャル伯爵令息とフォスター子爵令息もご帰宅されたそうです。他の方々は存じ上げませんが」
「君は私たちを試していたのか?不貞に及ぶか、及ばないか」
「そうではございません。私たち、本当に皆様でお楽しみいただきたかったのですよ?」
だってあの方‥‥「皆が好き」って言っていましたでしょう?
そうキッパリと告げたフィオレラの顔には何の感情も浮かんでいなかった。ヒューバートの背を一筋の汗が伝った。
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ある茶会の席で、思い詰めた様子でセレスティア・ギブソン侯爵令嬢が打ち明けてきた。「ご相談があります」と。
「実は‥‥婚約者のアベル様のことですが‥‥」
「ペダーセン伯爵令息がどうなさいましたか?」
「私は‥‥その、アベル様が恐ろしいのです」
伯爵家の嫡男アベル・ペダーセン。父は最年少で宰相に任命された実力者。息子の彼も入学試験で歴代最高得点を記録している。モニカに侍り評判を落としているが、本来は品行方正で隙の無い令息だ。
「彼は表面的には紳士的ですが、二人きりになると妙な視線を向けてくるのです。その、なんとも言い表せないのですが‥‥率直に言うと気持ちが悪くて」
変質的、あるいは嗜虐的な嗜好。
話を繋ぎ合わせると、そういうことだった。このまま行くと初夜で無体なことをされるのではないかとセレスティアは震えていた。しかし漠然とした不安感だけで瑕疵のない令息と婚約解消することはできない。いっそ専門の女性に相手を頼みたいと考えるも、未婚の令嬢がその手配をするのは難しく。
「つまりモニカ様が相手をしてくれるなら渡りに船ということですわね」
「えぇ、えぇ。そうなのです。」
そこまで聞いたとき、セレスティアがなぜこの場でこの相談をしたのか合点がいった。
「実は私もです」
「あら、ニコレッタ様も?」
「はい。あの婚約者殿は放っておくとどこで種をばら撒くか分かったものではありませんから。愛人を一人に定めてくれるならむしろ仕事も楽になるというものです」
「まぁ、貴女も苦労されるわね‥‥」
モニカを排除するのではなく、いっそ迎え入れよう。そう話がまとまると程なくして他にも手を挙げる者が現れた。
「テリー様が未亡人を堕胎させていたことが分かりましたの」「私の婚約者も平民の恋人がおりましたの」
学生の身でありながら爛れたものだ。婚約者がありながら他で肉体的な欲を満たし、学園では一人の令嬢を愛で婚約者を軽んじて精神的な優越感を得る。男たちの理解に苦しむ行動であった。
中にはこんな者もいた。
「私達はお互い割り切った政略結婚ですから。初恋のモニカ様との仲を応援して差し上げようかと」
「まぁなんてお優しいのね」「本当に」
「ふふ、恩を売っておけば私も自由にできますでしょう?」
「違いありませんわね」
最終的にヒューバート王子を含め七名の令息の名前が挙がった。彼らが『招待』を受けるメンバーとなる。
「喜んでいただけると良いのですが」
「えぇ、さぞかしお喜びでしょう」「ふふふ」
『館』に招待する令息はこれ以上増やすべきではないだろう。少なくとも今のところは。
他の令息達はもちろん、ご令嬢にも知られてはならない。口さがない連中は言うだろう。そんなことはせず、話し合いで解決する道はなかったのかと。
しかし果たして、高位貴族である彼女たちが「他の女性を愛でることをやめて欲しい」などと言わなければならないのか。
頼まなければ浮気一つ止められない男のために、なぜ女性が"おねだり"や"お願い"をしなければならないのか。それも己を大切にしてくれない男のために。
「くだらぬ火遊びはやめよ」と命じるのも悪手といえる。この国は貴族が愛人を持つことに寛容だ。令嬢たちの実父でさえ「それくらい許せ」という意見もある。
結局、必要悪として割り切るべき行為なのだ。それならば身元の知れてる娘を皆で共有するのは経済的にも理に適っている。自宅に愛人を迎え入れるより気楽なのは言うまでもない。
館と使用人を手配するのも造作ないことであった。令嬢の親達も、問題の娘を秘密裏に始末したいと言い出されるよりよほど穏便な処遇に否やもなかった。子ができぬようにだけ手配すれば良かろうと。
ヒューバートが『贈り物』に手を付けず逃げ帰ると、フィオレラはこうも言った。
「心残りがおありなら早くお戻りになった方が宜しいですわ。今ならまだ‥‥乙女のままかもしれませんよ?」
「いや‥‥私は戻るつもりはない」
「さようでございますか」
「モニカと深い関係になろうとは思っていなかった。その、学園時代の一時的な交友のつもりで‥‥」
「ですが一時的でも傍に置けば彼女の立場は難しいものになりますわ。殿下が良しとしたことで助長された者もおりましたでしょう?」
「‥‥」
生徒会のメンバーがモニカを「興味深い令嬢」として持ち上げだしたとき、ヒューバートはさして咎めることもせず「あぁ、そうだな」と応じた。
その時に止めていれば。「婚約者を大切にせよ」と言っていれば、それ以上は関わらなかった令息達もいたであろうに。
この若き王子は己の言動、行動が持つ意味に鈍感すぎた。
「殿下、モニカ嬢にお会いにならぬも結構ですが、彼女の生活費の一部は殿下の私費から賄っていただきますわよ」
それとてほんの微々たるものだ。多少裕福な平民女性の一人暮らしにかかる金額など。ペターゼン伯爵家始めとする他家も予算を割くともなれば。せいぜい貴族の一回分の茶代程度のものである。
「‥‥私が軽率であった」
ヒューバートがようやくその一言を呟いたので、フィオレラは追及の矛先を収めたのだった。
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モニカ・バッケン男爵令嬢は一身上の都合で退学し、王都のどこかでひっそりと暮らすことになった。そんな情報が学園内に出回ると、モニカとかかわりのあった令息達は落胆し、反発していた令嬢たちは溜飲を下げた。しかしそんな噂も程なくして忘れ去られた。
それから――――、あの薄暗いトンネル街路の下袋小路の先にある小さな館には、出自の分からぬ美しい令嬢が一人、使用人たちに世話され暮らしている。
足しげく通う紳士たちから花やドレスを贈られて。館の主、モニカ――――今はただのモニカであるが、彼女は幸せな日々を過ごした。
俗世から離れたモニカが寂しがらぬようにと紳士たちは自らが去るときは後を任せる者を見つけ、そうやって彼女は守られ続けた。
それから月日がたち、幾年も経った。
彼女が数多の紳士たちを愛することに疲れたら、今度は唯一の存在である―――神を愛することにした。
モニカの生活を陰ながら支えたフィオレラの元に
「これからは神を愛し暮らしたい」との便りが届くと
フィオレラは彼女の変化を尊び、過ごしやすい南方の修道院へと向かわせた。
公爵令嬢フィオレラ・モーウェンは、その後も伴侶となるヒューバートをよく支え
彼はその献身に、真摯に生涯を捧げ報いたのだった。
ヒューバートは男女を密室に残して「皆で楽しんでくれ」とか心にもないこと言っちゃう困った人です。フィオレラが「戻っては?」と言ったのも、戻って令息達を諫めたりでもするのかしら?…という思惑もあったのですが、ヒュー王子には全くその発想がないです。
彼が一時的に止めたところで、後日より過酷な運命が待ち受ける危険もあるのでフィオレラも本気で「止めてこい」とは思っていませんでしたが。
令嬢の誰かが、モニカが優しく慰められるよう、鎮静作用のある香を焚いてあげました。モニカは皆のモニカなので、暴力はふるわれません。アベルは平凡な良い夫になりました。
逆ハーって何が最終形態だろう、と想像しながら書きました。その後、しばらくすると令息達はモニカを半年に一度くらい、お忍びで行けるパーティーに連れて行ってあげたりしました。(逆ハーにパーティーは欠かせないと思われます)。そこでお友達が増えただろうと思います。ちゃんちゃん。
※令息達の処遇や倫理観?等々でモヤらせてしまった方は続編と活動報告ご一読ください。それでもスッキリはしないかもしれませんが。
※コメ欄あまりに荒むようなら作品ごと消して活動報告に経緯残します。
※続編upしました シリーズリンクからどうぞ!
ありがとうございました!




