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そのミットに想いを込めて  作者: 暦海


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4/24

見学

「…………よしっ」



 翌日、放課後のこと。

 そう口にしつつ、両手のこぶしをぐっと握り意気込むわたし。……いや、別にわたしが意気込む必要はないんだけどね。ともあれ、今がいるのは――



「――キャーー、彗月はづきく〜ん!」


 すると、少し遠くからでも響く甲高い声。今、わたしがいるのはグラウンドからちょっと離れたところ。あの日の鴇河ときかわくんの言葉を受け、今から野球部の練習を見学すべくフェンスのところまで……うん、だったら早く行けって感じだよね。でも……うん、どうにも緊張が収まらなくって。




「……えっと、この辺かな……」



 それから、少し経過して。

 なるべく他の生徒がいない辺りで、フェンス越しにグラウンドを見つめる。失礼かもしれないけど、流石にあの声を近くで聞き続けたら耳が保たないと思うし……そもそも、近づく度胸なんてないし。


 ともあれ、野球部のみんなの練習をじっと見つめるわたし。……それにしても、すごいなあ。この暑い中こんなに一生懸命頑張って……うん、やっぱりわたしには無理そう。だから、鴇河くんには申し訳ないんだけど――


「―――っ!!」


 瞬間、息が止まった気がした。わたしの目には、優しいながらも力強くチームを引っ張る男の子。わたしほどじゃないけど、比較的に小さな身体からだ……それでも、その背中が誰よりも大きく見えるくらいに頼もしく、みんなが本当に深く信頼していることが外部そとからでも十分に伝わる。そんな眩しいほどに輝くその姿に、わたしはただただ見蕩みとれていて。そして――


「――鴇河くん!」


 気付けば、叫んでいた。すると、みんな驚いた様子でわたしを……うん、それはそうだよね。きっと、わたしが一番びっくりしてるし。

 ……でも、もう引っ込められないし、引っ込めたくない。一度、深く呼吸を整える。そして、みんなと同じように驚きながらも、ニコッと優しく微笑んでくれる鴇河くんへと思いっきり告げる。



「――わたし、野球部に入ります!」





「……うわぁ、やっちゃった」



 その日の夜のこと。

 ベッドにて、ごろごろと一人で頭を抱えるわたし。いや、なんであんなことしちゃったんだろ。練習が終わった後とか……もしくは、明日にでも鴇河くんのところに行って普通に伝えれば良かったよね? なのに、みんなの前であんな大声で……うわぁ、ほんと恥ずかしい。穴があったら入りたい。……でも――


「……鴇河くん、かっこよかった……」


 そう、ボソリとつぶやく。……うん、ほんとにかっこよかった。それこそ、このままずっと見ていたいと思うくらいに。わたしも、いつかあんなふうになれたら……なんて、身のほど知らずにもそんなことを本気で思ってしまって……だけど、それでも――



「……うん、頑張ろう!」

「ちょっと、うるさいわよ未来みらい! 今何時だと思ってんの!」

「ご、ごめんなさい!」


 すると、扉の向こうから響く声。……しまった、つい大きな声を……でも、お母さんの声も十分大きいと思うんだけど……でも、そう言ったらまた怒られるんだろうな。……まあ、それはともあれ……うん、頑張ろう!


 



 

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