雨降って
……ところで、それはそれとして。
「……ねえ、高畑さん。聞いていいのかどうか、ずっと迷ってたんだけど……高畑さんがキャッチャーをしなくなったのって、もしかして……」
そう、控えめに尋ねてみる。……いや、尋ねられてもないかな? でも、続く言葉も察してくれたようでそっとうなずく高畑さん。そして――
「……まあ、そゆこと。この人――彗月先輩には絶対に敵わないって分かっちゃったから辞めたの。負け戦なんて趣味じゃないし」
「…………」
そう、淡く微笑み告げる。その様子に、言葉にズキリと心が痛む。……きっと、わたしには分からない。鴇河くんは、わたしにとってすっごく頼もしいキャプテンであり大切な相棒だけど……同じポジションだった高畑さんにとっては、どうしても敵わない人でもあって。
「……ほんと、どうせならすっごい嫌なヤツだったら良かったのに。だったら、思いっきり嫌いになれたのに。……でも、無理だよ。自分のこともあるのに、みんなにもあたしにもいつもあんなに気を遣って……あんな優しい人、嫌いになれるわけないじゃん」
「……高畑さん」
そう、かすかに微笑み告げる高畑さん。……うん、やっと分かった。どうして、きっと顔を合わせたこともなかった高畑さんが、あんなにもわたしのことを嫌っていたのか。きっと、高畑さんは鴇河くんのことが……まあ、流石に今それを口に出すほど野暮じゃないつもりだけど。なので――
「……まだまだダメダメなピッチャーだけど、これからもよろしくね、高畑さん」
そう、代わりに告げる。今、わたしが伝えるべきは、きっとこれくらいしかな――
「いや、別にいいかな。あんたの相手とか大変だし、今はサードの方が好きだし」
「ええっ!?」
「それに、あんただって彗月先輩の方が良いでしょ?」
「……まあ、それは……」
「ほら、否定しないんじゃん。……まあ、でも万が一にもまた機会があれば、そんときはよろしく」
「……っ!! うん、こちらこそ!」
すると、最後の方は目を逸らしつつボソリと口にする高畑さん。そんな様子が少しおかしく、それでいて嬉しくなり返事をするわたし。
……うん、一時はどうなることかと思った。もしかしたら、このままずっと溝ができたままなんじゃないかって。
でも、鴇河くんが言ってくれたようにこうして話してみたら、以前よりも少しは近づけた気がして。喧嘩なんてほんとはしたくないし、もちろんしない方がいいんだろうけど……でも、本当にたまになら、あんなふうにぶつかり合うのも悪くないのかなって。
……そういえば、なんて言うんだっけ、こういうの。なんか、ことわざがあったよね。こう、雨降って、雨降って……うん、まあいっか!




