思ったこと
「……話って、なに?」
それから、翌日の練習後。
じっとわたしを見つめながら、つぶやくように尋ねる凛々しい女の子。だけど、目を逸らしたいのをぐっとこらえている感じで。……まあ、分かる気もするけど。
さて、わたし達がいるのは体育館の裏。今までに二回お呼び出しを受けた場所だけど、今日はわたしの方から呼び出して。そして、その理由はもちろん――
「……その、ごめんね……高畑さん」
そう、ポツリと口にする。すると、表情を変えずわたしを見つめたままの高畑さん。きっと、続きを話そうとするわたしの言葉を待ってくれているんだと思う。だから――
「……わたし、甘えてたんだと思う。わたしがどこに投げちゃっても、鴇河くんが当たり前のように全部捕ってくれるから。だから……きっと、いつの間にかそれが当たり前だと思ってた。それが……どんなボールも当たり前のように捕ることが、どれだけ難しいことかも考えずに」
そう話しながら、つい目を逸らしてしまう。いや、逸らしちゃダメなんだろうけど……でも、ちょっと怖くって。いったい、どんな反応をされてしまうのか――
「……別に、あんただけが悪いわけじゃない。正直、あんまり気は進まなかったけど……それでも、引き受けた以上はキャッチャーとして全力で捕りに行かなきゃダメだった。もちろん、手を抜いてたつもりはないけど……それでも、ちゃんと全部を全力で取りに行ってたかと言われたら、迷いなく肯定できる自信はないから」
「……高畑さん」
すると、少しためらう様子でそう口にする高畑さん。見ると、高畑さんも少し目を逸らしていて。そんな様子に、ちょっとおかしくなってしまう。……なんだ、わたしと同じだったんだ。高畑さんも、わたしと同じで……うん、せっかくなのでこの流れで――
「……それから、ありがとね高畑さん」
「……は?」
そう言うと、今度はポカンとした表情で声をもらす高畑さん。……まあ、そうなるよね。だけど、感謝には理由があって――
「……あの時、言ってくれたよね。部室の中で悪口を言われてたわたしのことを、いらなくないって」
『……彗月先輩が、何を見込んで声をかけたのかはまだ分かりません。でも、いらないってことはないんじゃないですか? 確かに下手ではありますけど、初心者なら当然だし……それに、あいつが頑張ってることは見てたら分かりますし』
あれは、入部から二週間ほど経過したある日のこと。
忘れ物のグローブを取りに部室に戻ると、室内から聞こえてきたのはわたしに対する悪口。そして、その人達に意見を求められた高畑さんの返答が上記で。
「……なんで、聞いてんのよ」
「……うん、ごめんね。盗み聞きするつもりはなかったんだけど……」
すると、少し怒ったような表情でそう口にする高畑さん。だけど、そこまで怒っている感じではなく、どちらかと言えば恥ずかしそうに……まあ、分からないでもないけど。でも、それはともあれ――
「……でも、とにかくほんとに嬉しかったの、あの言葉が。だから……ほんとにありがとね、高畑さん」
「……別に、思ったこと言っただけだし……」
そう伝えると、さっと目を逸らしそんなことを言う高畑さん。……思ったこと言っただけ、か。ずるいなぁ、高畑さんも。そんなの、なおさら嬉しくなっちゃうじゃん。




