踏み出す力
「――ナイスボール、実松さん。この調子で行こう!」
「……あ、ありがと鴇河くん!」
それから、一週間ほど経て。
投球の練習中、明るい声をかけてくれる鴇河くん。今のも構えたところからは外れていたんだけど、それでもこうしていつも励ましてくれて……うん、いつも助かります。
ところで、あの後……前回の試合でわたしがマウンドを降りた後だけども、高畑さんがキャッチャーからサード、渡辺くんがサードからショート、そして鴇河くんがショートからキャッチャーへ――つまりは、いつもの布陣となったわけで。
そして、代わってマウンドに上がった山崎さんがリードを守り勝利。……うん、勝って良かった。あんな代わり方をしてみんなに申し訳なかったし、勝ってくれてほんとに良かった。……良かった、けど――
……でも、なんでわたしだけ? 交代自体に文句はない。むしろ、当然の結果だとも思う。でも……高畑さんは? キャッチャーは代わったけど、わたしと違いそのまま出場はして……うん、なんかモヤモヤする。
「…………はぁ」
それから、一時間ほど経て。
帰り道、ため息をもらしながら一人歩いていく。理由は、もちろん分かってる。一週間前のことが、今でもずっと尾を引いていて。
……もちろん、分かってる。このままじゃダメってことくらい。そして、やるべきことも。
……なのに、どうしても動けない。やるべきことは分かってるのに、どうしても――
「――実松さん!」
すると、ふと後方から届く声。でも、もう何度も似たようなことがあったからか、今回はそんなに驚いていなくて――
……いや、違う。きっと、待ってたんだと思う。自分でも都合が良いとは思うけど……それでも、あの人ならきっと、またわたしを助けてくれることを。
「…………鴇河くん」
そう、ポツリと口にする。そこには、予想の通り心配そうにわたしを見つめる綺麗な男の子。そして――
「……辛いよね、実松さん。そして、きっと納得がいかないこともあると思う。でも……どうか、高畑さんとお話ししてみてくれないかな。高畑さんも、今回のことをきっと悔やんでる。わざわざぼくが言うまでもないとは思うけど……高畑さんも、実松さんと同じですごく優しい子だから。もちろん、そのために僕ができることは何でもするつもりだし」
「……鴇河くん」
そう、優しく微笑みお願いをする鴇河くん。このお願いが、高畑さんでなくわたしのことも心配しての言葉であることは、流石に分からないはずもなくて。
……うん、分かってるよ、高畑さんが優しい子だってことくらい、流石にわたしも分かってる。だから――
「……うん、分かった」
「……そっか、ありが――」
「……でも」
すると、ポカンとした表情でわたしを見つめる鴇河くん。……まあ、そうなるよね。だって……突然、鴇河くんの方へと両手を伸ばしたのだから。
「……何でもしてくれるって、言ったよね? できることなら、何でもしてくれるって」
「……実松さん」
そう、じっと見つめ告げる。……うん、自分でもずるいなって思う。鴇河くんの優しさを利用するような、こんなやり方はずるいなって。
……それでも、どうしても力がほしくて。たったの一歩……それでも、わたしにとっては大きな一歩を踏み出す力が、どうしても。……そして、そのためには、あの時みたいに――
「……っ!! ……鴇河くん」
瞬間、そっと身体が包まれる。鴇河くんが、わたしを優しく――それでいて、力をくれるようにぎゅっと抱きしめてくれたから。ほどなく、わたしも腕を回しぎゅっと抱きしめ返す。……うん、ありがとう鴇河くん。




