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そのミットに想いを込めて  作者: 暦海


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20/24

踏み出す力

「――ナイスボール、実松さねまつさん。この調子で行こう!」

「……あ、ありがと鴇河ときかわくん!」



 それから、一週間ほど経て。

 投球の練習中、明るい声をかけてくれる鴇河くん。今のも構えたところからは外れていたんだけど、それでもこうしていつも励ましてくれて……うん、いつも助かります。



 ところで、あの後……前回まえの試合でわたしがマウンドを降りた後だけども、高畑たかはたさんがキャッチャーからサード、渡辺わたなべくんがサードからショート、そして鴇河くんがショートからキャッチャーへ――つまりは、いつもの布陣となったわけで。

 そして、代わってマウンドに上がった山崎やまざきさんがリードを守り勝利。……うん、勝って良かった。あんな代わり方をしてみんなに申し訳なかったし、勝ってくれてほんとに良かった。……良かった、けど――


 ……でも、なんでわたしだけ? 交代自体に文句はない。むしろ、当然の結果だとも思う。でも……高畑さんは? キャッチャーは代わったけど、わたしと違いそのまま出場はして……うん、なんかモヤモヤする。





「…………はぁ」



 それから、一時間ほど経て。

 帰り道、ため息をもらしながら一人歩いていく。理由は、もちろん分かってる。一週間前のことが、今でもずっと尾を引いていて。


 ……もちろん、分かってる。このままじゃダメってことくらい。そして、やるべきことも。

 ……なのに、どうしても動けない。やるべきことは分かってるのに、どうしても――



「――実松さん!」


 すると、ふと後方から届く声。でも、もう何度も似たようなことがあったからか、今回はそんなに驚いていなくて――


 ……いや、違う。きっと、待ってたんだと思う。自分でも都合が良いとは思うけど……それでも、あの人ならきっと、またわたしを助けてくれることを。



「…………鴇河くん」



 そう、ポツリと口にする。そこには、予想の通り心配そうにわたしを見つめる綺麗な男の子。そして――



「……辛いよね、実松さん。そして、きっと納得がいかないこともあると思う。でも……どうか、高畑さんとお話ししてみてくれないかな。高畑さんも、今回のことをきっと悔やんでる。わざわざぼくが言うまでもないとは思うけど……高畑さんも、実松さんと同じですごく優しい子だから。もちろん、そのために僕ができることは何でもするつもりだし」

「……鴇河くん」


 そう、優しく微笑みお願いをする鴇河くん。このお願いが、高畑さんでなくわたしのことも心配しての言葉ものであることは、流石に分からないはずもなくて。


 ……うん、分かってるよ、高畑さんが優しい子だってことくらい、流石にわたしも分かってる。だから――



「……うん、分かった」

「……そっか、ありが――」

「……でも」


 すると、ポカンとした表情かおでわたしを見つめる鴇河くん。……まあ、そうなるよね。だって……突然、鴇河くんの方へと両手を伸ばしたのだから。


「……何でもしてくれるって、言ったよね? できることなら、何でもしてくれるって」

「……実松さん」


 そう、じっと見つめ告げる。……うん、自分でもずるいなって思う。鴇河くんの優しさを利用するような、こんなやり方はずるいなって。


 ……それでも、どうしても力がほしくて。たったの一歩……それでも、わたしにとっては大きな一歩を踏み出す力が、どうしても。……そして、そのためには、あの時みたいに――


「……っ!! ……鴇河くん」


 瞬間、そっと身体が包まれる。鴇河くんが、わたしを優しく――それでいて、力をくれるようにぎゅっと抱きしめてくれたから。ほどなく、わたしも腕を回しぎゅっと抱きしめ返す。……うん、ありがとう鴇河くん。





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