託された想い
「……ごめんね、実松さん。まだ、ほとんど肩も作れていないのに」
「ううん、気にしないで。そもそも、鴇河くんが……ううん、そもそも誰も悪いわけじゃないんだし」
「……実松さん」
それから、ほどなくして。
マウンドの辺りで、どうしてか謝罪を口にする鴇河くん。……いや、なんで謝るの? 鴇河くんも、誰も悪いわけじゃないのに。
ところで、佐々野くんはあの後、観戦に来ていたご両親に連れられ病院に……うん、大丈夫かな。いや、大丈夫じゃないと思うけど……それでも、大きな怪我じゃないと良いんだけど。
「…………ふぅ」
その後、ホームベースの後ろへと戻りミットを構える鴇河くん。一方、わたしは深呼吸をして少しでも心を落ち着かせる。
……もちろん、佐々野くんのことは心配だ。すごく心配、だけど……でも、今は切り替えなきゃ。だって……今、わたしにできるのは思いっきり腕を振ることだけなんだから!
「――ストライィック!」
「…………ふぅ」
それから、少し経過して。
マウンドにて、そっと息をもらす。カウントは、ツーボールツーストライク。そして、状況はツーアウト1塁2塁。ツーアウトまで既に佐々野くんが取ってくれてたから、わたしはあと一人を抑えれば良いわけで。
……でも、その一人が大変で。そもそも、まだわたしは試合では一つのアウトも取れていない――つまりは、一人も抑えられていないわけで。
……それでも、弱音なんて吐いていられない。どの試合もそうだけど、特に今は絶対に。だって――
『……悪い、実松。後は頼む』
監督に告げられ、マウンドへ駆けていった時。
そう言って、わたしにボールを手渡しマウンドを去っていく佐々野くん。その時に少しだけ見えた酷く悔しそうな表情が、今も鮮明に焼きついて離れない。
……それでも、託された。まだまだ、信用なんてしてもらってないと思うけど……それでも、託された。だから……わたしは、絶対に――
「――あっ!」
投じた5球目、振り抜いたバッターの打球がふらりと上がる。打ち取った……とは思うけど、打球はふらふらとサードの後方へと――
「――アウトゥ!」
「……っ!! 高畑さん!」
思わず、叫びを上げる。と言うのも――サード後方へと落ちそうな打球を、高畑さんが飛び込み見事にノーバウンドでキャッチしたから。
「……その、ありが――」
「……良かったよ」
「……へっ?」
「……気持ちのこもった、良いボールだった。あの時の棒球と違って」
「……っ!! うん、ありがと高畑さん!」
ベンチに戻る途中、感謝を伝えに高畑さんの方へと駆け寄るわたし。すると、少しだけわたしを見ながら褒めてくれて……うん、ありがとう高畑さん!
その後、鴇河くんのタイムリーヒットで点差を広げ7回の表――最終回へと突入。引き続きマウンドに上がったわたしは、ファーボールやヒットなどで1点を取られてしまい、なおもツーアウト1塁、3塁。ホームランを打たれたら、逆転……前回のあの悪夢がふっと頭をよぎる中、スリーボールツーストライクから投じたのは渾身のストレート。そして――
「――ストライィック、バッターアウト! ゲーム!」
直後、審判の人のコールが響く。そして、鴇河くんを始めマウンドに駆け寄り労ってくれるチームメイトのみんな。……ふぅ、ほんとに良かった。




