野球観戦
「……うわぁ、すっごい」
「うん、そうだね実松さん。ぼくも、初めて来た時はほんとにびっくりしたよ」
それから、数十分経て。
石のゲートをくぐった後、開けた視界に思わず息をもらす。今、わたし達がいるのは果てしなく広がる丸い天井の下で。……いや、まあ果てはあるんだけど、それはともあれ驚いたのは天井ではなく地上――実際には見たこともないほど広いグラウンドで、たくさんのガッチリとした男の人達がボールを捕ったり投げたりしているその光景で。……うん、そもそもグラウンドっていうのかな? こういうところ。
さて、もしかするともう説明はいらないかもしれないけど――今、わたし達はプロの野球を見に来ているわけで。
「……それにしても、最初に聞いた時はほんとびっくりしたよ。鴇河くんのお父さんが、プロの野球選手だっただなんて。……でも、よく考えたら意外でもないというか……むしろ、すごく納得で。だって、鴇河くんはあんなにすご……あっ、ごめん! その、鴇河くんがすごいのは、鴇河くん自身が頑張ってるからで――」
「ううん、気にしないで実松さん。実際、すごく恵まれてると思ってる。だから、お父さんにもお母さんにも感謝してるんだ」
「……鴇河くん」
その後、慌てて言葉を止め謝るわたし。だけど、そんなわたしに優しく微笑み答えてくれる鴇河くん。……しまった、こんな良い方はダメだよね。もちろん、わたしはまだあんまり知らないけど……それでも、鴇河くんが誰よりも一生懸命頑張ってることは、近くで見てきて分かってるつもりなのに。
ところで、それはそれとして……うん、改めてだけどやっぱり素敵だなぁ、鴇河くん。もしかしたら、当たり前だと思う人もいるかもしれないけど……それでも、こうして当たり前のようにお父さんやお母さんへの感謝を口にできる人って、きっとあんまりいないと思うし。
「……それで、鴇河くん。お父さんはどこにいるの?」
「……ここには、いないんだ。お父さんは今、二軍で頑張ってるから」
「あっ、その……ごめんなさい」
「ううん、気にしないで。実松さんは優しいから、気を遣わせちゃうかもと思って言わなかったんだけど……でも、余計に気を遣わせちゃったね。こっちこそごめん」
その後、ややあってそう尋ねてみる。すると、優しく微笑み答える鴇河くん。この試合もそうだけど、よくテレビで中継しているのは一軍の試合――そして、二軍とは一軍に入れなかった選手のいるところで。
でも、一軍にいないから上手じゃない、なんてことは全然なくて……そもそも、プロにいるだけで本当にすごいことだということはほとんど素人のわたしでも分かって。
そして、もちろん二軍だって大切で。今後一軍になる選手を育てたり、怪我をしている選手が一軍に戻るために調整をしたりとすごく大切な場所で。……でも、それも全ては一軍で活躍するため。だから、二軍は誰にとっても一番いたい場所ではないわけで。
「…………すごい」
「……うん、そうだね実松さん。テレビで観る時もそうだけど、こうして肌で感じることで改めて感動の念を覚えるよ」
それから、しばらくして。
食い入るように試合を見つめながら、きっと同じような気持ちでそんな会話を交わすわたし達。……うん、ほんとにすごい。確かに、野球を始めてからはプロの試合も時々観るようになったけど……でも、テレビで観る時と全然違う。鋭い打球の音や軽快な選手の動き、そして速く正確な送球まで、その全てが肌で感じられて……うん、ほんとにすごい。わたしなんかが偉そうに言うことじゃないんだろうけど……これが、プロなんだなって改めて感じ入る。
その後も、時間も忘れ一つ一つのすごいプレーをじっと見つめるわたし達。……うん、やっぱり楽しいな、野球って。




