初めての気持ち
「――あーあ、せっかく勝てたはずだったのになぁ」
「マジそれ。ほんと、誰かさんが盛大に試合をぶち壊しちまったからなぁ」
それから、数十分後。
みんなと離れたところで帰りの支度をしていると、近くからそんな会話が耳に届く。見ると……まあ、見なくても分かるけど、少し前に部室でわたしの悪口を言っていた六年生の女の子達で。……まあ、当然だよね。言葉の通り、わたしが試合をぶち壊しちゃったんだし。
それから、駅へと向かう道をとぼとぼと一人歩いていく。……やっぱり、ダメなのかな。やっぱり、わたしなんかが野球なんて――
「――実松さん!」
「…………へっ?」
すると、少し後ろから響く声。なんだか覚えのある状況に驚き振り向くと、そこにはやっぱり見たことのある光景――あの練習初日と同じように、息を切らした綺麗な男の子がわたしをじっと見つめていて。
……えっと、どうしたんだろ? 今回は、いったいどんな……あっ、そっか。あんなふがいないピッチングをしたわたしにお説教……うん、だったら全然いいんだけど。でも……もしかしたら、幻滅されて――
「……その、ごめんね実松さん」
「…………へっ?」
そんな胸が締めつけられるような不安の最中、届いたのは思いも寄らない言葉。……えっと、なんで? なんで、鴇河くんが謝って――
「……実松さんが、苦しんでるのは分かってた。自分でもどうすれば良いか分からず、すごく苦しんでるのは分かってた。……なのに、助けられなかった。ピッチャーの相棒であるキャッチャーで、チームのキャプテンでもあるぼくが実松さんを支え助けなくちゃいけなかったのに……なのに、できなかった。……今日の負けは、ぼくの責任だ。ごめんね、実松さん」
「…………鴇河くん」
すると、唇をかみしめ話す鴇河くん。その表情や声音からも、悔しさやわたしに対する申し訳ない気持ちが痛いほどに伝わってきて。
……でも、鴇河くんのせいじゃない。鴇河くんは、マウンドまで来て声をかけてくれた。ただ、わたしが聞いてなかっただけ。優しく言葉をかけてくれていたのは分かっていたはずなのに……とにかく、全然余裕がなくて頭に入ってこなくて。だから、全部わたしのせいで――
「……うっ、ゔっ……」
「……実松さん」
「……悔しい……悔しいよ、鴇河くん……」
そう、ポツリポツリとこぼれ出る。……うん、分かってる。まだまだ下手なことも、今のわたしがチームの役に立てるわけないことも。それでも……悔しい。こんな気持ち、初めてで――
「……っ!!」
瞬間、呼吸が止まる。と言うのも……突然、鴇河くんがそっと包み込むようにわたしを優しく抱きしめて……へっ? あの、これはいったい――
「……うん、悔しいね。でも、大丈夫。その気持ちがあれば、必ずもっと、もっと上手くなれる。だから……これからも一緒に頑張ろう、実松さん」
「……鴇河、くん……」
すると、ゆっくりとそう口にする鴇河くん。抱きしめてくれているのと同じくらい、包み込むような優しい声で。そんな暖かな男の子に、わたしは――
「……うん……ありがとう、鴇河くん」
そう伝え、そっと背中へ手を回す。大きくはないけどたくましい、その頼もしい背中へと。……うん、ほんとにありがとう、鴇河くん。




