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サ終ゲームのリスタート  作者: 橋 みさと
第1章 ただ、願っただけなのに
9/30

リスタート

「ねえ……どこまでが夢で、どこからが現実なの……?」


誰かがそう、呟いたのがきっかけ。


「オレたちみんな……ゲーム内に精神だけ、閉じ込められたってことか!?」

「ログアウトボタンはどこ!? そうすれば出られるんじゃ……」

「そんなの初めからないよ! いつもアプリを閉じるだけだっただろ!?」

「じゃあその、アプリを閉じる方法は!?」

「仮にアプリを閉じることができても、現実との繋がりが閉じられるだけじゃないの……?」

「じゃあどうすればいいんだよ!!」


阿鼻叫喚とは、こういうことを言うのだろうなと思いながら、私は茫然とその光景を見ていた。

今度はいつの間にか、物悲しい音楽が流れ出している。もしかしたら私たちの感情とかそういうものを察知して、勝手に音楽が変わる世界なのかもしれない。


----------------------------------------------------------

U-berry:誰か助けてっ……! 急に敵の攻撃が痛くなって……ぐっ!

Miyabi:なんでこうなるの!

エレ:失敗を悔やむ前に理由を考えなきゃ

Dylica:回復役さん! 盾役さん!

----------------------------------------------------------


ワールドチャットで助けを求めている人もいる。まさか、精神がゲーム内にあることで、敵の攻撃を現実として感じるようになったのか? ダメージを受けると、そのまま精神が傷つけられる?

もし精神が傷つけられすぎたら……考えたくもない。


とはいえ見過ごせないと判断したのか、ワールドチャットにいち早く反応したRockさんが半透明の操作画面を開き、次の瞬間ギルドから消える。このゲームの移動は基本ワープだから、恐らくそれをやったのだろう。

確か元々、戦闘エリア内のパーティから今のようにチャット要請があった場合、その場に即合流できる機能があったはずだ。


それを見た他の人たちも数名、職など関係なく要請に応じてワープしていく。

だが、何名かは救援が間に合わなかったのだろう。今度はギルド内にある救護室の方から、うめき声がいくつも聞こえてきた。


救護室は戦闘不能でパーティが全滅した場合に、プレイヤーが送られる場所だ。戦闘不能=即死ではないことがこれで分かったが、だからと言って安心できるはずもない。少なくともその声を聞く限り、彼らは間違いなく、「死」ぬほどの痛みを経験したのだろうから。


……そうだ、せめて傷を癒してあげないと。


なかなか動いてくれない頭を必死に働かせ、私は職業変更画面でプリーストを選択した。問題なく変更できたので、武器編成画面から他人を回復可能な武器を探す。幸いいくつかメイスが見つかったので、それをセットして救護室へ向かった。


うめき声をあげている人たちは、少なくとも見た目上の怪我や、装備の破損・汚れ等はなかった。そこは元々、そういった演出がないゲームだからなのだろう。

だがHP1状態でここに送られているので、顔色はすこぶる悪い。これが全てゲームのままなら自然回復機能に任せてもいいのだが、もしHPが回復しないことで相応の痛みが続くのだとしたら、回復させるのが一番のはずだ。

再使用可能時間(リキャストタイム)が切れるたびに私は回復用メイスを振り、救護室の人々を癒し続けた。


その後、どれほどの時間が経ったのか……。


うまく救出された人も、救出に奔走した人もギルドに戻り、私を含めた数名がかりで傷ついた人を癒し続けたことでようやく、救護室のうめき声は収まった。音楽も止まっている。


とはいえ、戦闘不能を経験した人たちは、すぐにはショックから立ち直れなさそうである。私とて、まだ自分の身に起こったことが信じられない。

みんな泣いたり叫んだりで疲れたのか、沈黙して、ギルドのあちこちで身を縮めていた。


「……みんな、そろそろいいかい?」


その時、Rockさんが部屋全体を見渡して、そう言った。さして大きな声ではなかったが、誰も話していないのでよく声が通っている。


「ちょっとここは落ち着いて、今後のことを話し合いたいんだ。

……みんなで、ここから出るために」


その言葉で、半分ほどの人が顔を上げた。代表するように、天尚さんが質問する。


「あのっ! それは、ここから出る方法が分かったってことですか!?」

「いや、それはその……具体的にはまだ……」

「そう、ですか……」

「でもその、ええと……ちゃんと言ってたんだよ。アイが」

「えっ!?」


どうやら天尚さんはまだ気づいていないらしい。


「確かに言ってました。『やり直せば本当にハッピーエンドがあるって分かれば、戻ってあげる』って。そのこと……ですよね?」


私の補足に、Rockさんは肯定した。


「ただ、その……ハッピーエンドに辿り着くためにはね、色々と問題があるんだよ」

「問題……」

「その通りだな」


今度は蛍さんが補足する。


「このゲームはベータ版だってことが、大問題だと俺は思う」

「ごめんなさい。私には……まだよく分からないわ……」


くろんさん含め、ピンとこない人は結構いるようだ。私もまだよく分からない。


「それってぇ~、もしかして……武器ガチャがもうできないってこと?」


恐る恐ると言った感じで、熾天使セラフィムさんが質問した。


「あっ……! そうだわ……。残りは……デイリーガチャ、だけ……?」


それは確かに大問題だ。本番サーバーなら新武器実装などで武器ガチャが更新されるが、ベータ版にそんなものがあるはずもない。


「そんなぁ~! 課金もできないんでしょう?」


紅央さんの指摘通り、課金して通常より良いサービスを受けることもできない。

つまり、今ある武器を駆使して、この世界を攻略する必要があるわけだ。


「壁にぶつかった? ならぶち壊せ!」

「その壁を、どうやってぶち壊すか、だよね。一番問題なのは、時間的壁だと僕は思うけど……」


照輝さんとぜっぴんのやり取りを聞いてようやく、私はRockさんが何故今こんな話を始めたのかを、そしてアイが最後に言った「間に合えば」の意味を悟った。


「1カ月間……!!」


そう、ベータ版の閉鎖時期は、すでに決まっているのだ。もしそれまでにハッピーエンドに辿り着けなかったら……私たちは永遠に、ここから出られなくなるかもしれない。私たちは、嘆き悲しむ時間すらもう惜しい状況にある……。

それにようやく気づいた人々が、息をのんだ。


「それでもハッピーエンドに辿り着くためには……お父さんは、みんなで協力するしかないと思うんだ。手伝ってくれるかな?

勿論そのためなら、お父さんは何でもできるぞ。お父さんに任せなさい!」


すごいな、この状況でそんな風に言えるんだ。Rockさんは本当に、みんなのお父さんって感じだ。

その想いに反応したのか、優しく静かな音楽が流れ出す。


「かっこいい!! 頼りになるなぁ。僕も手伝うよ!」

「俺もついていくぞ」

「うぅん……燃えてきたっ♡」

「参加させてもらえる?」

「私もそれに一票です」

「俺様の筋肉に任せな!」


次々と上がる賛同する声。

私も、そうなれるだろうか。……否、なりたいんだ。


「一緒に行こっ?」


真珠さんにそう言われ、私は頷いた。


「パパ、クサいですよ」


最後にたろ吉さんがそう呟いたのに対して、


「パパは臭くない!」


Rockさんがそう反論したのが妙におかしくて、ようやく、皆の顔に笑みが出た。


今の時間を確認するため、私はデイリーガチャの画面を開く。丁度、デイリーガチャが復活したところだった。

つまり私たちに残された時間は……今日を含めてあと、28日だ。

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