武器ガチャ
物理攻撃力を高めることで近距離の敵に有利な戦いができ、自傷を恐れなければ単体相手に最大火力を出せるファイター。
魔法攻撃力を高めることで遠距離の敵に有利な戦いができ、詠唱等の準備時間は長くかかるものの、全体攻撃や必殺技の連発が可能なマジシャン。
物理攻撃・魔法攻撃のどちらもこなすが、パーティ戦では自身に付与したバフを削除してでも、敵味方にバフ・デバフを付与することで支援し、戦闘を有利に導く、多段攻撃が得意なレンジャー。
魔法防御力を高めることで味方を癒しながら、属性耐性とダメージバリアで支援し、レンジャーと連携しつつナイトを支えるプリースト。
物理防御力を高めて敵の攻撃を一身に受け、的確なタイミングで繰り出す技で味方を守護することで、パーティの大黒柱となるナイト。
5つ全ての職業の役割を知ったことで私は……結局「全部やってみたい」という想いが強くなった。そもそもこれはベータ版なのだから、全職試すなら今がチャンスかなと思ったのだ。
丁度真珠さんの講習が終わったところでお礼を告げ、私は武器ガチャ画面を開く。
全職試すなら、「全ての武器が排出されるガチャ」を引いてよいものか……。いや、それだと均等に出ない気がする。となると、「各職業に応じた武器のみが排出されるガチャ」5種類を、各20回引く方が均等になるな。
私は深呼吸してから、ガチャの10連ボタンを次々と押す。
『よっしゃあ、任せとけ!』
そのたびに例の魔晶職人のNPCが突然目の前に現れて、持っていた武器に次々と魔晶を打ち込む演出が行われた。
ここなら周りのプレイヤーにもガチャ結果が見えているので、ところどころで「おおっ!」とか、「いいなー」と言った声が上がる。
全てのガチャを引き終えたところで、強制イベントストーリーに入ったようで、受付のギルド嬢が話しかけてきた。
『支給武器を全て受け取ったのですね! どれどれ……。
この武器から判断すると、ユウさんの適職は……こちらです!』
そう言ってギルド嬢が見せたのは……紫丸の中に白抜きで天秤が描かれたシンボルマークだった。
「……は?」
周りもざわざわしているところを見ると、私の勘違いと言うわけではなさそうだ。
「まさか……第6の職?」
「新職業!?」
「いやでも、the 2ndでもそんなのなかったはず……」
そう、そんなシンボルマークは、見たことがない。そもそもNPCが選択肢として提示したのも、5職業だけだったのだから。
『じゃあこれから、頑張ってくださいね!』
強制イベントストーリーはそれで終了だったようで、ギルド嬢はさっさと消えてしまう。と同時に、頭上の自分のプレイヤー名の横に、その紫のシンボルマークが追加された。
「え、えっと……これは一体どうすれば……」
「とりあえず、職業名と職業特性を確認してみたらいいんじゃないかな?」
Rockさんの言うことはもっともなので、教わるままその画面を開く。
職業名は……「オブザーバー」となっていた。
「傍聴者? 観察者? 立会人?」
日本語だとそんな意味のはずだ。どうやら職業専用武器はなく、魔導具しか使えない職業らしい。
そのためか、職業特性も武器関連ではなかった。
・観戦エリアにいるプレイヤー全員に、被観戦パーティが獲得したものと同一の経験値やストーリーフラグを与えられる。
・複数パーティの戦闘を同時観戦でき、観戦エリアにいるプレイヤー全員と共有できる。
つまり、観戦に特化した職業特性? そもそも観戦エリアって何だ?
「観戦エリアって、確かthe 2ndで新設された機能だよね?」
「はい……特定の戦闘しか観戦できませんけど、確かに他人が戦っているところを、リアルタイムで観戦できるエリアが実装されてるはずです。でも……」
つまり「他人の戦闘の観戦」が、ゲーム内でできる機能が追加されているわけか。
だとしても、その機能に対する職業特性?
「俺様の職業変更画面には、そんな職出てないぞ?」
「そうよねぇ~、私にもないわぁ~♡」
スカオーは「いつでも自由に職業変更が可能なゲーム」だ。なのに他の人には、その選択肢がない?
試しに自分の職業変更画面を開くと……6職業から選べるようになっていた。つまり、私だけ他の人と違う? ますます分からない。
と、その時。
突然いつものギルドの音楽が消え……その場にいた全プレイヤーの胸元くらいの位置に、半透明の画面が勝手に開いた。そして自分の画面内には、鏡で何度も見たことがある……だが左右が反転した人物……現実の自分自身の姿があった。
「何だ……これ……!」
どうやらそれは私だけではなく、各人の画面に、各人の現実の自分自身の姿がそれぞれ映し出されているらしい。ある者は驚きで声を失い、ある者は悲鳴を上げ、またある者は信じられないというように、半透明の画面を叩いていた。
そしていつの間にか、危険が迫る感じの音楽が流れ出していた。
『おめでとう。これでやっと全員が、適性者としてスタートできるね。
ゲームの世界を気に入ってくれたみたいだし、嬉しいよ』
何十人もの声が重なったそれが、現実姿の各人の口から出る。どうやらその声は、この場の全員に向けてのものらしい。
「君は……誰?」
私は思わず、そう尋ねていた。
『Who are you、か。私……いや、私たちは……何て言ったらいいのかな。とにかく、君たちの想いが集まってできたものだよ。
【スカオーの続編がしたい】とか、【今もスカオーが好きだ】とか、【またゲームして過ごしたい】とか……要するにスカオー愛かな? そういうものの集合体。長いから「アイ」って名乗ろうか』
アイと名乗ったそれらは、私たちの身体で笑顔を見せたが……その目は全く笑っていない。
「それがどうして、俺の身体を使って喋ってるんだ!」
「そうよ、私の身体はどうなってるの!?」
皆顔色が悪いが、言葉を発する力がまだある数人がそう叫んだ。
『ひどいな、みんなの願いを叶えただけなのに。
みんな願ったでしょ? 【スカオーの続編がしたい】って。だからキーホルダーを撮影して、ここに来たんでしょ? お陰で一気に沢山のスカオー愛が集まったから、叶えられたんだよ?』
確かに願った。だが……。
『でも私たちはね、こんな「ハッピーエンド」が見えないゲームを、やり直す気はないんだ。
考えても見てよ。あんなにみんなで頑張ったのに、サ終が決まった途端「魔獣と呼ばれていたアレらを倒したのは間違いでした。あなたたちがやってきたのは、世界を滅ぼす手助けです」って言われて、挙句の果てに「やり直せ」って記憶を保ったまま時を巻き戻されたんだよ? しかもハッピーエンドになれるルートは、海の女神自身にも分からないって言われて……そんなの、頑張れるわけないじゃないか!』
確かにそれはもっともだ。私も同じ立場なら、頑張れる気がしない。
『なのに君たちはずっと、【スカオーの続編がしたい】って言うから、みんなで話し合って決めたんだ。やりたい人がやればいい、入れ替わっちゃおうって』
「……今……何て……?」
『実はずっと、現実の世界が気になってたんだ。そして君たちは、ゲームの世界が気になってるんだから、入れ替わればお互い得じゃないかって。
だから私たちの身体を自由にしていい代わりに、君たちの身体を使わせてもらうことにしたんだ。
これなら現実の世界から、誰も消えることはない。死ぬこともない。ただ精神とか魂とか呼ばれるものが、私たちと入れ替わるだけだから、私たちがうまくやれば誰も気づかない。妙案でしょ?』
妙案?
そうじゃない。私が……いや、私たちが願ったこととは、根本的なところが違う!
そう言いたいのに、言葉がうまく出ない!!
『じゃあ、頑張ってね。私たちもバレないように頑張るよ』
「待って!」
言いたいことは色々あった。でも……これだけはどうしても伝えて、確認しなくては。
「いつまで? 私たちはずっと、ゲームの世界にいたいわけじゃない!」
『えー、そうなの? 私たちはずっとでもいいのになぁ。
そんなに言うならそうだね……「やり直せば本当にハッピーエンドがある」って分かれば、戻ってあげるよ。……間に合えばね。
これ、返しておくよ。時々現実の世界から、君たちの様子を確認するからね。じゃあ!』
そう言って、アイと名乗ったそれは半透明の画面の向こうから各人にそれを渡し、私たちの前から消えた。画面も勝手に閉じられる。
渡されたのはあの、サ終時の応募者抽選プレゼントとして作成・配布されたキーホルダーだったと思われるもの。
完全に色を失い、今は何も描かれていないキーホルダーを、それぞれが見つめている。
音楽はいつの間にか、止まっていた。