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サ終ゲームのリスタート  作者: 橋 みさと
第1章 ただ、願っただけなのに
7/30

ナイト

初めてこの場所に来た時から、それは感じていた。


スカオーの職業は5種類で、ここには20人程度のプレイヤーがいるはずなのに、ナイトのシンボルである「茶丸の中に白抜きで剣盾が描かれたマーク」をまだ見つけられない。つまりそれだけ、ナイトのプレイヤー人口が少ないということだろう。

ならばその理由が、何かあるはずだ。


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たろ吉:不人気職……ではないです 恐らく

ただ 難易度が高い職なのは確かです

今回は前作をプレイしてる人しかベータ版に来ていないので 前作でナイトが本職だった方くらいしか ナイト専用ガチャを引いていないのかもしれません


熾天使セラフィム:そうねぇ~ どちらかと言うと……続けられる人が少ないんだと思うわぁ~♡

私のお友達も前作で最初ナイトをやってたけど 自分には無理だって言って すぐ他の職に変えてたわぁ~♡

詳しくは実際に ナイトさんに聞くのが早いかしらぁ?

----------------------------------------------------------


とはいえ、そのナイトが見つからないのでは、聞きようもない。


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たろ吉:ナイト…… 一応1人知ってますが こういうことを説明させるのは……たぶん向かないんですよね……


熾天使セラフィム:私はまだ1人も会ってないけどぉ~ 呼んだら来てくれるんじゃないかしらぁ~?

ナイトさんは基本 困ってる人を放っておけない 優しい方ばかりだからぁ~♡


ユウ:呼ぶって…… まだ1人も会ってないんですよね? どうやって……

----------------------------------------------------------


そう発言した直後、私は視界の端に、見覚えのある赤・黒を基調とした服に身を包むファイター……くろんさんを捉えた。

くろんさんもこちらに気づいたようで、手を振るエモーションをしている。


「えっ……?」


現実にいるはずがない、と思っていた。何故なら彼女と会ったのは、夢の中だけなのだから。

だが少なくともくろんさんは、現実の私を知っているような素振りだ。


とその時、誰かにスマホの画面内から引っ張られたような気がした。

ほんの一瞬の暗転。


その後すぐ、現実の私とゲーム内のユウの立ち位置がくるりと入れ替わったかのように、自分がまたゲーム世界の住人になっていることを認識した。

そして同時に、それはとても自然なことで、心地よいと思っている自分に驚く。


「もしかしてユウさんも()()()に来ましたか?

心地良いですよね、ここ。夢なら覚めないでほしいと思うほどに」


その言葉で、この経験は私だけでなく、たろ吉さんもすでに知っているものなんだと悟った。

場面は先ほどと同じ、私が質問を投げかけた直後だ。


セラフィムさんは私の問いに答える代わりにウインクし、ワールドチャットで叫んだ。


「ちょっと困ってるから、ギルドまでナイトさん来てぇ~♡」


何とも大雑把な呼びかけ。だが効果は絶大だった。

数秒後、3名の性別1ナイトがほぼ同時に現れたのだから。


「お父さんに任せなさい」


最初に来たRockさんは小麦色の肌に銀の短髪高身長。

この中では最もがっしりした体格で、いかにも防御力が高そうな鎧を着た、「ナイトらしいナイト」だ。

だがその頭にカワウソを乗せており、目が細いので威圧感はなく、ボイス通り優しくて頼りになる「お父さん」という印象が強い。


「俺様の筋肉をご所望かい?」


次に来た照輝さんは薄桃色の髪をポニーテールにし、眼鏡をかけ、黒の執事服に身を包んでいる。

中身長の細マッチョでクールな外見なのに、中身はボイス通り「脳筋」といったところか。


「僕も混ぜてほしいな」


最後のぜっぴんさんはナイトとは思えない細身の低身長で、鼻の頭に絆創膏を付けた、銀髪色黒の少年だ。

ボイスも「年下の男の子」だが……鹿の角付きフードといい、胸元が広く開いてヒラヒラした緑基調の上下服といい、全体的に中国奥地にいそうな仙人っぽい印象で、見た目以上の長い年数を生きたように見える。


ちなみに、ワールドチャットを見たと思われる、ナイト以外のプレイヤーもどんどん集まっている。みんなナイトを一目見ようとしているのかもしれない。


「そこのユウさんが ナイトの役割とかについて 詳しく知りたいんですってぇ~♡」


私の代わりにセラフィムさんが素早く説明してくれた。いつの間にかパーティは解散されている。


あ、これ、このままここで会話する流れだ。

まあ夢の中なら大部屋で対面してるのと同じ感覚だから、まだまし……か?


「ナイトの役割はな、筋肉で人を守ることだ!」


ああ……照輝さんに説明を求めたら駄目らしい。


「え!? えーと、その……ママに怒られちゃう」


Rockさんは一瞬頑張って説明してくれそうだったが、何故かたろ吉さんを見て止めたように見えたのは、気のせいだろうか?


「え!まじ!? この人数の前で!? いやいやいやいや」


ぜっぴんさん、すみません。確かに私も恥ずかしいです。

とはいえ人はまだまだ集まってくるし、どうにもこのまま収まりそうにない雰囲気だ。


と、その時。


「こんにちはーっ」

「まあ師匠まで! やったわね」


追加で2名の性別2ナイトが現れた。

もしかしてこれ、本当に世界中のナイトが集まる勢いなのか……?


師匠と呼んだ方のナイト……紅央さんは高身長。長い金髪と緑の瞳、セクシーな唇が特徴的で、その名と同じ紅色のコルセットドレスを着こなしている。

「お色気」ボイスなので、より異性を引き付ける魅力で溢れていた。


一方師匠と呼ばれた方のナイト……真珠さんはフリル付きの白・緑を基調とした軽量鎧を着ており、赤い瞳に強い意志を感じる。

ただしゲーム内最低身長かつ、白銀髪をツインドリルにしているため、全体的に幼い印象だ。最高身長のRockさんと並ぶともはや、大人と子供ほどの差である。ボイスは明るく可愛らしい「アイドル2」だ。


『適役!!!』


先に来ていたナイトたちの声が見事にハモる。3人の指が指し示す先には、真珠さんがいた。


「はい?」

「あ、すみません。

実は武器ガチャ何を引くか迷ってて、他の4職業の役割とかについては詳しく聞けたんですけど……ナイトさんだけ見つからなくて困っていたら、セラフィムさんがワールドチャットで代わりに呼びかけてくれたんです。

ただ、こちらの方々は、そういうの苦手みたいで……」


それを聞いた紅央さんは目を輝かせて、真珠さんを見る。


「それ……いいわねぇ! 私も久しぶりに、師匠の初心者講習をまた受けたいわぁ!」

「あらまあ。人に教えられるようになりましょうって、教えたでしょうに」

「私は永遠の初心者ですから、まだ早いですぅ!」


このやり取りを見ると、確かに真珠さんが師匠で、包容力とか母性とかが強いように感じた。身長差は逆転しているが。


「まあ、私は大丈夫ですよ。慣れてますから。

とはいえ、ユウさんだけが聞きたいわけでもなさそうなので……ここを借り切ってしまいましょうか!」


言うが早いか、ギルド内に置かれていた長椅子にブーツを脱いで立ち、皆が真珠さんの方を見ていることを確かめてから、彼女は大きく息を吸い込んだ。


「スカイオーシャンをプレイしている皆さん、こんにちはーっ」

『こんにちはーっ!』


あ、これは本当に慣れてるな。まるでアイドルのイベント会場のようなノリだ。


「もしかして、かなり有名な方なんですか?」

「師匠は初心者ナイトに広く知識を提供することで、スカオーのナイト人口を大幅に増やした、救世主なんですぅ♪ 初心者講習懐かしいわぁ」

「教えを受けたことはないけど、お父さんも知ってるぞ。動画をいくつか見たことがある。

同職だから共闘したことはないかもな……」


動画までUPしていた方なのか。それなら確かに、広く知られていてもおかしくない。

それにしても、ナイト人口が増えてもこれなら、それ以前はかなり少なかったのだろうな。


「さて、まず初心者講習を受ける方には必ず、この質問をしています。

ナイトのお仕事って何でしょう? そこの方、思うままに答えてください!」

「え、えっと……ヘイトを取ることで攻撃を受けて、みんなを守ることです!」

「はい、いい答えですね! ほとんどの方が同じ答えだと思います。あ、頷いてくれてますね~!

実はこの答え、半分正解で、半分間違いです。

例えば初手でヘイトを取って、次の敵の攻撃を受けて戦闘不能になったとしたらどうですか?」


聞いている皆が、「ああ~」とか「それもそうか~」と言った顔をしている。


「はい、皆さんが認識している通り、蘇生がとても難しくなっているこのゲームでは、屍を超えて行け! なんてことは、成り立ちません。」


セラフィムさんもこれを聞いて、うんうんと頷いている。


「必殺技ゲージ使わないと蘇生って確実じゃないし、リキャストタイムもかなり長いものねぇ♡ 蘇生後に立て直すのにも時間がかかるし♡」


確かにそれなら、戦闘不能にならない方が重要だ。


「また、ナイト以外は守護技がほぼ使えません。そのためナイトが戦闘不能になっただけでパーティが崩壊し、全滅してしまうことが多々あります。

例えば同じ人を救う職業として、消防士を想像してみましょう。防火服を着ないで火事場に向かう消防士はいませんよね? ナイトも同じことです。

まずしっかり防火服を着こんで、危険な前線に立ち、敵に立ち向かう。これが基本になります」

「筋肉を鍛えただけでは、耐えられないからな!」


そこから先は具体的な剣盾武器の解説になっていったので、自分が個人的に知りたいことは、他のナイトさんたちに質問することにした。


「たろ吉さんから、ナイトは難易度が高い職だって聞いたんですけど……今のを聞く限りだと、そんな風に思わなかったんですよね。どのあたりが難しいんですか?」

「お父さん含めナイトは、7.9秒って時間をいかに操れるかが鍵なんだぞぉ!」

「すみません、もう少し詳しく……」

「この中だと、次に説明できそうなのは僕かな……。

僕らが守護できる時間のことだよ、それ」


ぜっぴんさんが傍にいてくれて助かった。確かにRockさんも説明は苦手そうだ。


「守護できる時間……まさか武器技の効果時間が7.9秒だけってことですか!?」

「そう。全てじゃないけど、効果が高い守護技ほどね。

だから真珠さんが今話してたように、僕らがヘイトを取って耐えるのは【基本の基】。

そのうえで、各戦闘ごとに最適な武器防具を選択し、敵味方の行動を含む全てを把握したうえで、最も効果的なタイミングで全員を守護するための技を出せる人が、ナイトとして生き残るんだよ」


それを聞き、何となくナイトを目指す人も、続ける人も少ない理由を悟った。

最適解を導き出すにはまず知識が必要だし、全体を把握できる広い視野もいる。さらに的確なタイミングでの守護を可能とするプレイヤースキルを求められ、ミスが許されない……つまりプレイする上での重圧が、大きすぎるのだ。


「その難しさが、ナイトの魅力なんだけどね」


私の表情から思っていることを察したのか、そう言ってぜっぴんさんは笑った。


「俺様のように筋肉を鍛える奴は少ないらしくて、スカオーの職人口割合は、結構偏ってたぜ」

「昔アンケートで調べた人がいたなぁ。確かその結果が……

ファイター29%、マジシャン23%、プリースト21%、レンジャー17%、ナイト10%だったか?」

「ナイトってそんなに少ないんですか!?」

「でも、そのアンケートはあくまで、【どの程度その職のプレイヤーがいる印象ですか】ってものだからぁ、本職と別にナイトをしていた方も含まれるのよねぇ。

私はすぐに師匠と出会えて、ナイトについて学んだり、相談できたから良かったけどぉ、それがなかったらナイトを続けられなかったかもぉ」

「そうそう。なので僕的に最初からずっとナイトを本職にしていた人は、その半分くらいかなって印象だよ」


どうりで見かけないはずだ。その言葉が正しいとしたら、全体の5-6%しかナイト専用武器ガチャを引いた人がいないことになる。


「ちなみに職業特性は何ですか?」

「あ、それは私でも答えられますぅ!

斧使用時の一定時間ヘイトアップと、槍使用時の逆鱗付与100%ですぅ!

逆鱗っていうのは、ダメージを1回受けるごとに1つ消費して、必殺技ゲージが溜まるものですぅ!」

「つまり使いこなせば、普通より早く必殺技ゲージを貯められるんですね。

よく分かりました、ありがとうございます!」


これでようやく5つ全ての職業のことを知ることができ……私が武器ガチャを選ぶための材料が揃った。

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