アイサイドG
「お待たせしましたー!」
俺は両手いっぱいにジョッキを持って、飯を頬張る客たちに次々酒を提供した。
この身体の持ち主、昼は寝て、夜はこうして飲食店で働く生活をしていたから、他の奴らと生活時間帯が完全に逆転していたらしい。
まあ、あのゲーム世界において、昼夜は時間経過で入れ替わるものではなく、エリアで分けられているものだったので、それについてどうこう思うことはないが、身体の持ち主自身は昼間に1人でも遊べる場所として、ゲームを選んでいたようだ。
確かにこの身体に宿り、時間を意識するようになっで気づいたが、ほとんどの奴は昼間に活動して、夜は眠るらしい。そのせいで朝から遊べたり、飲食できたりする場所は限られている。
だから、こいつのように朝からが自由時間の奴にとって、こっちが窮屈な世界なのは確かだ。
だがこれはこれで、俺にとっては楽しめる状況ではある。他の人間のことをよく知れるからだ。
あそこで枝豆とやらを食ってるやつは、誰かに怒られたことを仲間に愚痴ってるし、あっちの性別2集団は、今度仲間の1人が遠く離れた場所に行くらしくて、それを惜しんでいる。
また別のところにいる年配の性別1集団は、久しぶりの再会を喜び合っている……。
みんな、色んな理由で酒を飲むらしい。
ちなみに俺も、こっちの世界に来て早いうちに酒を試しては見たが、予想以上に身体の制御がきかなくなったので、早々に諦めた。
「っと、そろそろ予約の団体が揃う頃か」
確か15人程度いるので、今日は宴会会場を貸し切りにしていたはずだ。席のみの予約とはいえ、日曜の夜に宴会会場を使うやつは少ないらしくて、この店的には大助かりだとか言っていたか。
「……あん?」
その宴会会場に向かう奴らの顔ぶれをみて、俺は何の集団だろうかと疑問に思った。
通常ここに複数人で来る奴は、年齢層が近い場合が多い。例外として家族連れがあるが、あれはせいぜい5人前後だし、顔が似ているからすぐ分かる。
だが今来た奴らは、どう見ても酒を飲めなさそうな学生から、かなり年配の奴まで、性別も服装も年齢層もてんでバラバラで、一貫性を見いだせなかった。
「第1宴会場、今日はオフ会らしいね」
「何のオフ会?」
「よく知らないけど、何かのゲームらしいよ?」
同僚の性別2たちがそんなことを話しているのを耳にし、俺は予約表にメモ書きされた団体名を見る。
そこには驚いたことに、「ウパペン会」と書かれていた。
ここに書かれている「ウパペン」が、俺が思っているウパぺんのことなら、当然集まっている奴らは過去に、スカイオーシャンを遊んでいた奴らなのだろう。それなら集まった奴らに見た目上の一貫性がないのも納得だ。俄然興味が湧いた。
「えーと、じゃあ今日の宴会会場のオーダー、主に俺が取りますね」
わざと自ら志願し、オーダーを入力するための端末片手に宴会会場へ向かう。まずは飲み物のオーダーを取り、素早く用意してから宴会会場へ戻った。
ちなみにここの宴会会場は完全個室なので、周りの客を気にせず食事できるようになっている。
『そうそう、今日あいつら、ラーヴァゴーレムを倒したんだって?』
『ああ、凄かったぞ、まさに死闘だった!』
『くそ、俺も生で見たかったなぁ』
『ちゃんと動画取ってありますよ! 後でみんなで見ましょうよ♪』
中に入ろうとしたまさにその時、中の奴らがスカオー語を話しているのが聞こえ、俺は危うく持っている飲み物を落としそうなほど驚いた。
しかも内容が、どう考えても過去じゃなくて、今の話だ。
ということは……ここにいる奴らは……!
『お待たせしましたー!』
意を決して、俺もスカオー語でそう言いながらふすまを開けた。中の奴らはみんな驚いて、俺を見ている。そりゃそうだよな。
『お前ら全員、アイなんだろ? 俺もだよ』
自ら名乗ったので、奴らは警戒心を解いた。
『しかし、こんなに集まってどうしたんだ? 各々が自由を楽しむことになってたはずだろ?』
ちゃんと仕事もこなしつつ、俺はそう切り出す。
『ああ、勿論自由も楽しんでるんだがな……想定外が起こったんだよ。
何と入れ替わってやったあいつらが、もう4属性の昼エリアボスを倒しているんだ』
『はあ!? そりゃどんな手品だよ!?』
『それについて詳しいことは今はおいておくが、要するにあいつらが、約束を果たす可能性が高くなってきた』
『そうそう。だから1度、みんなで話し合いたいよねってことになったの』
『そしてついでに、ラーヴァゴーレム倒してくれた記念で騒ごうかって♪』
なるほど、つまり今後俺たちがどうするかの話し合いと、祝勝会を兼ねているわけか。
『そういうことなら俺もゆっくり参加したかったが、あいにく仕事中だ。今回は仕事に専念しよう。
その代わりこれまでの経緯と、今日の結果は知らせてくれ。勿論今後の連絡先も』
『勿論だ』




