ラーヴァゴーレムA
暑さ対策のため、水属性選抜チームはギリギリまで観戦エリア内にいたが、95名全員が「銀等級昇格クエスト」を受託した状態で揃ったのを確認すると、戦いに挑むために観戦エリアを出た。
ウパぺんたちも勢ぞろいして、モニターをじっと見つめている……。
「おいおい……あのドSプリが、素直に戦闘エリアに入ったぞ……」
「まさかあの後、誰かが手なずけたのか!? 誰か分からないけどすげぇ!」
みんなそこに驚くんだ……。まあ、アレを見た後なら仕方ないかな。
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ユウ:こちらの準備は整いました いつでもどうぞ
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私の言葉で、咥えていた小枝を吐き出すジャスティアさん。その意外にも真剣な表情を見て、他の4人は顔を見合わせ、小さく笑った。今度はそれを見て、舌打ちするジャスティアさん。
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「用意出来てんのか?」
「うん、いいよ」
「影の精霊も準備できたと言っているわ」
「ボスをやっつけるう!」
「一緒に頑張りましょう」
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代表してよー子さんがベルを破壊し、戦闘エリアへ移行し始める。同時に勇猛で軽快な戦闘音楽が流れ出した。
「お、来るか?」
「うー族いるなら来るでしょ!」
「ウペウペ」
何のことだろうと思っていたら、
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「みんな一緒に、うー」
『うー!』
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『うー!』
『ウー!』
移動中嶋耕作さんの掛け声で、性別2の4人は揃って鬨の声を上げた。ジャスティアさんだけは不機嫌そうに無視を決め込んでいる。同タイミングで観戦エリアでも声が上がった。ちなみにカタカナの方は、ウパペンたちの声である。
BOSS表記と共にラーヴァゴーレムが2匹出現し、戦闘開始だ!
「プリもちょっとは乗ってやれよw」
「ウぺッウぺぺー!」
ちなみに調査によると、ラーヴァゴーレムの行動パターンは全て固定だった。2匹とも開始15秒ほどで、最初の単体攻撃をする。
また2匹とも前列にいるので、春水さんの方が有利武器が多いが、そもそもファイターは単体攻撃がメインなので、攻撃先やデバフ付与のバランス調整も必要だ。
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「我が姿、畏怖と共にその瞳に刻み込め!」
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「やってることは味方へのバフ付与だから、そこはレンジャー定番なんだな」
「プリーストの序盤2手がバフ・デバフ付与の槍攻撃か……まあでも、あいつらしいか? 使ってるのもかなりいい武器だ」
そんな中、真珠さんの行動でどよめきが起こった。
「味方全体に物理・魔法被ダメージDOWN10%付与40秒および、自己へのダメージバリア10%・逆鱗B10%2回付与を確認」
「はああ!?」
「30%付与の武器じゃなくて、その効果延長の槍から使った!?」
「まさか誤操作か!?」
いや、表情を見る限りそれはない。2手目でさらにどよめきは広がる。
「定番の被ダメージDOWN50%自己バフが、まさかのCランク武器!!」
「嘘だろ、まさかSランク武器ないのか!?」
「嶋耕作さんの必殺技ゲージMAXを確認」
普通選抜チームに選ばれる人は、Sランクの武器を中心に編成する。使ったとしてもAランク武器までだ。武器ランクは全部で5段階なので、Cランクは下から2番目になる。
2手詠唱のない武器を使ったことで、真珠さんの3手目がやたら早い。だがここでまた槍攻撃を放ったことで、観戦エリアは混乱の渦に陥った。
「ラーヴァゴーレムAに水属性耐性DOWN10%2種25秒、春水さんに与ダメージUP15%25秒、真珠さん自身に火属性耐性UP40%7.9秒、逆鱗A10%2回付与を確認」
「まさかナイトなのに、ヘイトを取らない気か!?」
「ナイトって普通、敵から完全にヘイト取るのに2手使うよね……?」
確かにアークタルラ戦でも、キングドロセラ戦でも、ナイトさんは3手目でヘイト獲得率上昇武器を使っていた。三段渦紋亀戦は敵の初手攻撃がたまたま全体攻撃だったので3手目が守護技武器だったが、それでも4手目でヘイト獲得率上昇武器を使っている……。
「春水さん、嶋耕作さんは、それぞれ別のラーヴァゴーレム攻撃して、ヘイトを取ってるのに!?!?」
「いや無理だろ、敵の初手は単体攻撃固定だぞ!?!?!?」
「ファイターもマジシャンも、恐怖で青ざめてるんだけど……」
それはそうだろう、ナイトがいるのに敵に狙われるなんて、通常はない。
ジャスティアさんが味方全体の火ダメージ耐性UP付与のメイスを使った直後、
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ラーヴァゴーレムA・B『ウゴゴゴ』
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敵が初手攻撃の詠唱を開始した。4秒後には敵がそれぞれ単体攻撃を放つので、このままではファイター・マジシャンがダメージを食らうことになる!
「やばいよこれ!」
「どどど、どうするんだ!?」
ラーヴァゴーレムA・Bがそれぞれ大きな火球を生み出した直後、
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「私が敵を引き付けるっ!」
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ここでようやく、真珠さんが見慣れない闇属性武器の詠唱を終え、敵のど真ん中へ突進した。今まさに春水さん、嶋耕作さんそれぞれに向けて放たれようとしていた火球が、突然進路を真珠さんに変え、至近距離で爆発する!
「あれは……ヘイト上書き武器か!」
「あの武器の使い手が、まさか100人しかいないthe 2ndにいるとは!!」
「ウッペペー!」
見事敵2匹の単体攻撃を受けきった真珠さんは、身体にまとわりつく残り火を払いのけ、瀕死ながらもしっかり敵を見据えていた。
「うわっ、残りHP2桁じゃん!! 危ねぇ!!」
「逆鱗B2回の消費を確認」
「そんなに珍しいんですか、あれ」
「珍しいというか、あれは『味方が獲得したヘイトを少しだけ増やして、自分のヘイトとして上書きする』武器だから、使い方がかなり難しいな! だから普通はやらないし、少なくとも俺様はできん」
私の疑問に、側にいた照輝さんが答えてくれる。
「ヘイト上書き武器自体3種類しかないし、その使い手となると、ナイトの中でもかなりレアだねぇ。お父さんもあまり自信ないよ」
「私は一応、師匠にマンツーマンで使い方習ったけどぉ、さすがにまだ使いこなせてないわぁ」
「敵味方の行動0.1秒単位で使うタイミングの調整が必要だから、シビアすぎてね……。
その代わり攻撃力も防御力も関係ないから、使いこなせたら非力な人でも、たった1手で敵のヘイト取れるけど」
脳筋な照輝さんはともかく、他3人のナイトさんたちも同意していることに驚いた。
「よく見たら、プリーストと同じ魔法防御特化装備着てるよ。ナイト定番の物理防御特化装備だったら、耐えられなかったな」
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「流石ですね」
「サンキュ、うー!」
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春水さんは敵の単体攻撃が終わるや否や、ラーヴァゴーレムAへの攻撃を再開した。嶋耕作さんは自己バフの4秒詠唱に入る。
「おい、今度はプリーストがデバフ付与の魔導具使ってるぞ!?」
「まさか回復しないつもりか、このドSプリ!!」
通常、ナイトが瀕死になったら、プリーストは即座に回復を入れる。だがジャスティアさんは完全にこれを無視していた。しかも誰も咎めることなく、戦闘を継続している。
そして、
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「おいお前ら、絶対に割るなよ!」
「影の精霊も分かってるわよ!」
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ジャスティアさんはさらに槍攻撃を放った。ちなみに自傷武器の使用で、春水さん、よー子さんのHPもそれなりに減っている。
「えええ、まだ回復しないの!?」
「つか槍3本目なんだけど!?」
「ウペペ!?」
「味方全体にダメージバリアA20%、被回復量20%UP25秒、ジャスティアさん自身に与回復量A20%UP25秒付与を確認」
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「こちらもいきますよっ!」
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「味方全体にダメージバリアH15%、物理・魔法防御力25%12秒付与を確認」
合わせて自己回復がかかったので、真珠さんのHPが回復した。だがナイトの回復量など、元々「無いよりまし」程度なので、まだ瀕死状態から脱していない。
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ラーヴァゴーレムA「ガガガ」
ラーヴァゴーレムB「ギギギギ」
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「状態異常付きの全体攻撃が来る!」
ちなみに「ガガガ」の方が呪いと魔痕耐性付与で、「ギギギギ」の方が例の割合攻撃+魔痕付与だ。
春水さんは慎重に自傷のない双剣を選んで、今度はラーヴァゴーレムBのHPを削る。
続くジャスティアさんは、またしてもバフ・デバフ付与の槍攻撃だ。
「特殊条件を満たしたため、効果時間延長および、ジャスティアさん自身に与回復量F50%UP12秒付与を確認」
「つか真珠さんも、まだ味方全体の被ダメージDOWN30%付与の武器使ってなくね!?」
「そう言えば……!」
みんながそれに気づいた直後、ようやく真珠さんがその剣盾武器を使用して僅かに自己回復もしたが、また騒然となった。
「魔法被ダメージDOWN30%のみ!?」
「まさか……持ってないのか真珠さんも、物理・魔法同時に防げるやつを!!」
「だからヘイト上書きなんて作戦を取ってるんだ、剣盾武器でのダメージが全く望めないから……!」
ようやく私は、「どこかで似たような発言を聞いた覚えがある」と思った理由に気づいた。
Rockさんが「物理攻撃にしか対処できないナイト」であるのと対称に、真珠さんは「魔法攻撃にしか対処できないナイト」なのか……!
詠唱が終わりラーヴァゴーレムAの目が怪しく光ると、
「味方全体に呪い10%付与・魔痕耐性999%付与を確認」
ダメージこそないが呪いがかかり、同時に魔痕耐性が付与された。
直後ラーヴァゴーレムBが詠唱を終え、広範囲に炎をまき散らす。HP割合90%攻撃だ!
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「汝らに感謝を」
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だが予想に反して、彼らのHPは全員、残り10%までは削られなかった。ばらつきはあれど残り25%前後はHPが残され、代わりに味方全体に貼られていたダメージバリア2枚が砕け散る……。
「味方全体が魔痕100%付与に抵抗したことを確認」
「真珠さんの逆鱗A1回消費を確認」
「ダメージバリアで割合攻撃に対抗した!? そんなことができたのか!?」
これには私も驚いた。火耐性UPでも被ダメージDOWNでも抵抗できない攻撃に、こんな手段で対処できたとは。
「知らない人が多いけど、実はそれが割合攻撃への、唯一の対処法なんだよ。ああやって、ダメージバリア分のHPが追加で残せるんだ」
「あ、そうか……意味がないからずっと、回復してなかったんですね。割合攻撃でどうせHP減らされることが決まっていたから……!!」
とはいえ、普通のプリーストなら心情的に、思わず回復を挟んでしまう場面だったことは確かだ。ジャスティアさんだからこそ、苦も無く取れた戦略に思える。
全員熱気と痛みに耐えながら、次の行動に移った。
「つっても、呪いの行動時ダメージでみんな瀕死なんだけど!」
「回復! 早く!」
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「めんどくせぇな、ほらよ!」
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ここでようやく、メイスを振るも、
「ウペペ!?」
「行動時回復かよ!」
「どんだけ回復嫌いなんだよ!」
観戦エリアではツッコミの嵐だ。あ、くろんさんも口元が引きつってるぞ。
「いや待て……この行動時回復、Ruyさんの時より回復量が多くないか?」
「そう言えば……。キングドロセラ戦では、状態異常ダメージの方が多かったけど、今回は回復量の方が多い!」
とはいえ次の敵の攻撃は、全体攻撃2発だ。
「真珠さんの必殺技ゲージMAXを確認」
「は? マジシャンより先に、ナイトの必殺技ゲージがMAX!?」
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ラーヴァゴーレムA・B『グオオオオオ!!』
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そうこうしているうちに、敵が詠唱を開始する! 春水さん、嶋耕作さんはこれに備え、後列に移動した。
「嶋耕作さんの必殺技ゲージMAXを確認」
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「いきますよ、ジャスティアさんっ!」
「あいよ」
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実に面倒くさそうに振られたジャスティアさんの回復メイスが、味方全員のHPをほぼ全快させると、真珠さんは必殺技ゲージを使用し、器用にバク中しながら火耐性付与の剣盾を構える!
「嘘だろ、回復力めっちゃ高っ!!」
「ほぼ瀕死状態から、1手であそこまで回復できるのかよ。伊達じゃない!!」
2匹のラーヴァゴーレムが吐き出した業火は、出現した水膜で大幅に威力を減じられ、水属性選抜チームのHP半分ほどを削るにとどまった。
「真珠さんの逆鱗A1回消費を確認」
「よー子さんの必殺技ゲージMAXを確認」




