ファイター
「実は武器ガチャでどれを引くか迷って何も引けてないんですけど、決めるために職業とか、武器についてもっと知りたいんです。教わってもいいですか?」
「え……でもここにいるってことは、前作をプレイしたのよね? 私が教えられることって……」
あ、そうか。事情を説明しないとそうなるか。
「確かにプレイしたんですけど、プレイし始めてすぐサ終が発表されたせいもあって、2か月くらいしかやってなかったんです。
しかも一人で手探りで、ちょこちょこやってた程度だから……正直未プレイの新人とほぼ変わらないんですよ」
それを聞いて、くろんさんは納得した様子。
「ファイターのことしか私は教えられる自信がないし……誰かに説明したことがないから、上手く言えないけど…………」
それでもいいなら、という感じだ。
「お願いします……!」
「分かったわ。でも……その前に1つ、確認したいの。
ガチャを何も引けてないって言ったけど……デイリーガチャは引いた?」
……え?
「一日一回だけ……ポイントなしで引けるガチャよ。朝5時にリセットされるから……忘れると今日の分が引けなくなるけど……」
「あああああ! ありがとうございます」
前作にもあったのに、完全にその存在を失念していた。
私は慌てて、武器ガチャの紹介ページを改めて開く。確かに一番下にその項目があった。そのままガチャを引くボタンを押す。
『よっしゃあ、任せとけ!』
どこから来たのか、魔晶職人のNPCが突然目の前に現れて、持っていた武器に魔晶を打ち込む演出が行われた。
ゲーム内でガチャ演出を見ると、こうなるのか……。この辺はさすが夢といった感じだ。
完成時の画面には「ランクC」と表示されていたそれを渡され、魔晶職人のNPCはまたどこかに消えた。
それは、拳大くらいの大きさの植物の種で、芽が出ているもの。
えっと……武器?
「魔導具ね」
首をひねっていた私を見て、くろんさんが答えてくれた。
「武器の詳細を見る方法……分かる?」
「いえ、そこからお願いします」
「じゃあ……まずここを開いて……」
くろんさんに指示されるがまま、私は画面を操作する。
夢だと他人に自分の操作画面を見てもらえるから楽だな……。現実だとスクショでも送らない限り、こうはいかない。
所持品リストにある武器は1つのみで、確かに先ほど渡されたものと同じアイコンがあった。長押しタッチすると詳細画面が開くとのことなので、その通りにする。
武器名欄には「癒しの種 光属性」と書かれており、確かに説明書きがあった。
「ああ、これ使えば自己回復できるんですね!
そういえばスカオーって、使い捨てアイテムが存在しなかったような……?」
少し思い出してきた。使い捨てアイテムが存在しないため、回復するにも何かの武器が必要なのだ。
ゆえに他のゲームにはよくある、商店が存在しない。当然ゲーム内通貨もない。
「そうよ。序盤は特に必要になるわね。
でも、再使用可能時間があるから……その時間が経過するまで、使えないわ。
あとは……後列移動できるのも、結構重要」
「移動ですか? どこで見分けを?」
「この、◁のマークよ。この武器を使うと、後列に移動するって意味。
▷だと前列移動ね」
そう言えば昔、勝手に移動するなと思ってたけど、武器で決まっていたのか。
「移動に意味があるんですね?」
「そう。火力職は原則ヒット&アウェイだから……要所で後列に移動しないと駄目よ。
今はまだピンとこないだろうけど……強敵と戦闘するようになったら分かるわ」
「あ、そうだ。武器種の違いもよく分からないんですけど、ファイターは他に両手剣・斧・双剣を使えるんですよね? それぞれどんな違いなんです?」
この問いに対して予想外なことに、くろんさんは答えを探しているのか、しばし時間をおいてから口を開いた。
「両手剣だからこうという、完全に決まった用法はないわ……」
「え、そうなんですか!?」
「武器1つ1つに技が設定されていて……適性者だけが、その技を使えるって設定だけど……同じ両手剣でも、攻撃技じゃないものも、あるわ……。
だから戦闘時には、8つの武器を駆使して戦略を立てるの……」
それは想定していなかった。普通のゲームとかなり違うらしい。
だからNPCの説明もないのか、と妙に納得する。
「確かに戦闘時に、武器を複数持って戦っていた覚えがあります……。再使用可能時間の問題だけじゃなかったんですね、あれ」
「ええ。でも……ユウさんが今知りたいのは……多分……そういうシステム的なことじゃない、でしょ……?」
確かにそうだ。
「あ、はい。そうですね。何というか……ファイターの役割かな? そういうのを知りたいです」
「それは簡単……。
物理攻撃力を参照する攻撃で……とにかく敵を倒すのが、ファイターの主な仕事よ。メイン武器となる両手剣の特性上……近くの敵にダメージを与えるのが、得意。あとは……範囲攻撃はできないけれど……一撃の威力が全職業中、最大になっているわ……」
「てことは、一般的な物理攻撃一辺倒のファイターと思っていいんですか?」
「…………少し、違う。
ファイターが双剣を使った場合は……『物理攻撃力を参照する魔法攻撃』ができるわ……。魔法剣士みたいなものはないけれど……」
なるほど、武器種によっては魔法攻撃扱いになるってことか。
「ちなみに斧も?」
「斧は……物理攻撃だけど、ちょっと使い方が特殊……。実際にやる時に、詳しく知った方がいいかも……」
確かに「システム的なこと」になるなら、今じゃなくていいな。
「そうですか。じゃあだいたい分かったので、大丈夫です」
「そう……悪いわね、あまり上手く言えなくて」
「そんなことないですよ、助かります!」
くろんさんはそれを聞いてほっとしたのか、口元が僅かに緩んだ。
「じゃあ、そろそろ行くわ……お疲れ様」
「はい、ありがとうございました!」
エモーションのお辞儀で、私はそれに答え……たつもりだったのだが…………。
「…………あれっ?」
気づいたら、布団から起き上がっていた。夢がリアルすぎて、まだ少し混乱している。
時計を見ると、普段の起床時間のほんの数分前だった。
「…………あ、そうだ。折角だからデイリーガチャ……」
スカオーのアプリを立ち上げて、武器ガチャの紹介ページの一番下を確認する。夢と同じ場所にデイリーガチャがあった。毎朝5時が期限である旨の記載もある。
「まあ、昨日分は仕方ないとして、これからの分は忘れないようにしないと」
そのままガチャを引くと、ランクAの杖が出た。
どんな技なのか確認するために、所持品リストを開き……私はそのまま硬直する。
「どう…………して……」
所持品が、2つあった。
1つはたった今ガチャで出た杖だが、もう1つは……
夢でガチャを引いた時に出たものと同じ、「癒しの種」だった。
恐る恐る詳細画面を開くと、「ランクCの光属性」というところまで、全く同じである。
「…………」
少なくとも、自分が進めたストーリー上で、武器を手に入れる演出はなかったはずだ。
ではどうやってこれを入手したのか……。実はデイリーガチャを引いたことを、忘れていた?
だがデイリーガチャを本当に昨日引いたかなんて、確認のしようがない。
その時、目覚ましにセットしていたアラームが鳴り響いたことで、私は我に返った。
思うことがないではないが、もう出かける準備をしなくてはいけないので、私はそのままアプリを閉じて布団から出た。