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サ終ゲームのリスタート  作者: 橋 みさと
第3章 まだ、諦めたくないから
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水属性選抜チーム

「やっと……終わりが見えてきましたね……」


私はクエストクリアまでの雑魚討伐数をちらりと確認し、そう呟いた。

普段ならもうとっくにクエストが終わっている時間なのだが、避暑のため釣りを挟みつつ進めたため、予想通り昼が終わろうとしている。


「それでも無理はするなよ」


焦る気持ちもあるが、確かに蛍さんの言う通り、無理して動けなくなる方が問題か。


ふと見上げると、いつの間にか山頂付近まで来ていたらしく、雑魚敵が少ない場所があるのに気づいた。そしてその中心には……。


「あ、もしかしてあれが、ここのボスですか?」


遠目でまだ分かりにくいが、それらしい影を見つけたので聞いてみる。


「それ、まさに真の理」

「ええ、ラーヴァゴーレムよ」


よー子さんとくろんさんが、それぞれ答えてくれた。


「ゴーレムは分かるんですけど、ラーヴァは何ですかね?」

「溶岩だな」


溶岩の人造人間……なるほど、いかにもって名前だ。


「ちなみに前作では、どんな敵でしたか?」

「確か動きは遅めだったわ。ゴーレムだからそんなものかも?」

「でも2匹いるし……森林地帯(昼)のアークタルラより、耐久力があった覚えがあるわね……」

「前作では1匹ずつ倒すのが定石だったが、今回はどうかな。さすがにそれは、俺にも分からない」


2匹となると、それだけでも戦略が色々変わりそうだな。


そうこうしているうちにようやく、クエストクリアの表示が出たので、私たちは適性者ギルドに戻って報告を済ませる。


「また頼むな」

「影の精霊が感謝を述べているわ」

「ありがとう……」


ここからは選抜チーム選出の話し合いになるので、パーティ解散となった。だいたい予定通りの時間だ。


とはいえ全職ガチャの人たちはもう、選抜チームに選ばれる状況でもないので、早速火山地帯(昼)に向かい始めている。私もそこに加わり、早々に観戦者エリアを作成した。


「あ、ここは涼しいんだ。良かった……」


これで観戦中も暑かったらどうしようかと思っていたので、正直助かった。外で待つのは辛いだろうから、他の人たちもみんなが揃うまではと招き入れる。


ちなみに当然のように、今回も10匹ほどのウパぺんが来ていた。

普通のウパぺんの他に、いつものゴールデンやサマー、織姫……新しいものだと桜ウパぺん、ガリ勉ウパぺん、アスリートウパぺんなんてのもいる。もう何でもありだな……。


さすがにこの暑さはウパぺんの方が深刻なようで、一様にぐったりしていたので、みんなで急いで観戦エリアに運び込んだ。早く元気になるといいけど。


お、花図鑑さんたちが到着したようだ。ということは決まったんだな。


「水はうーが行くう!」


程なくして、水属性選抜チーム1人目が到着する。語尾に特徴があり、女の能面……予想通りのマジシャンさんだ。


「嶋耕作さん、今日はよろしくです」

「よろしくだう!」

「私も同行させていただきます」


丁度挨拶をしているところで、2人目が到着したようだ。

おや、この大和撫子なファイターさんは確か……。


「春水さん! 先日は釣りのこと教えていただき、ありがとうございました」

「まあユウさん! お会いできて光栄です」


まさかこんな形で再会できるとは。


「堕天使、降臨!」


とここで、先ほど別れたばかりのよー子さんがまた、ビシッとポーズを決めて登場した。


「すごいうー!」

「よろしくお願い致します」


嶋耕作さんは素直に拍手して喜び、春水さんは変わらず丁寧なお辞儀をする。2人とも順応力高いなぁ。


「こんにちはーっ」


4人目はナイトさんの到着か。さすがによく顔を合わせているのですぐ分かる。


「真珠さんでしたか。今日はよろしくお願いします」

「よろしくね」


ナイトながら最も小柄な彼女は、特徴的なツインドリルの髪を揺らしながら、満面の笑みを浮かべていた。


となると最後は……。


「どーも」


物凄く不機嫌そうな顔で、予想通りのドSプリースト……ジャスティアさんが到着した。


「ふうん……お前らが水属性選抜の奴らか。

俺の犬になるか? 飼ってやってもいいぜ、跪いて足にキスしな!」


この言葉で、空気が凍った。

関わり合いになるのを避けようという意図もあるのだろう。先ほどまで涼んでいた全職ガチャの人たちは、そそくさと観戦エリアから出ていく。


「な、何故でしょうか?」

「ご、ごめんだう……」

「貴方、失礼ね。影の精霊がお怒りだわ……」


これからパーティを組まなくてはならないというのに、いくら何でもこれはまずい。

一体どうすれば……。


「えーっとぉ……」


だが私が必死に考えている間に、彼に近づく真珠さん。

実はこのパーティ、真珠さん以外は全員高身長なので、はたから見るとまるで、ヤバい大人に睨まれた小学生だ。


そして彼女は、予想外の行動に出た。


「ジャスティアさんはもしかして、反抗期なんですか!?」


両手を胸の前で組み、嬉しそうに尋ねる。真珠さんからだと見上げる形なので、上目遣いと笑顔の破壊力が凄い。

と言うか何で、そんな嬉しそうなんですか……?


「は、はぁぁ!?」


驚きで口から小枝が落ちるジャスティアさん。それはそうだろう。


「私、結婚はしてるんですけど子供作らなかったので、反抗期の子供と初めて対峙しました! こんな感じなんですね~、新鮮です!」

「誰が反抗期の子供だ!」

「だってあんなこと言うなんて、そうとしか思えませんよ。他の皆さんにも、接し方に注意するように言わないとですよね!

えーと、ワールドチャットは……」


これにはさすがに、ジャスティアさんの方が慌て始める。


「違う! 反抗期なんかじゃねぇ!」

「違うんですか? じゃあちゃんとしましょうよ」


私はここで初めて、真珠さんは笑顔を見せているが、目が笑っていないことに気づいた。

そして思い出す。彼女はああ見えて、前作では多くの初心者ナイトを育て上げた、いわば「ナイトたちの母」であり、人の心を掴むのに長けた「アイドル」だということを。


ぐうの音も出ない反論に、ジャスティアさんは目を白黒させた。


「それに、仲良くしてくれないと私、くろんさんに謝らないといけませんので」

「……ちょっと待て。何でそこで、あいつの名前が出るんだ!」

「実は一昨日くらいに、直々に頼まれました。心配だから、うまくやってあげて下さいって。

私はその時、任せてくださいって言ってしまいましたから、できないなら謝らないと」


くろんさんなら確かに、それくらいやっててもおかしくないか。

よー子さんにもそんなこと言っていたし、ナイトは総人口が少ないから、当たりをつけやすいしな。


「くろんさんに報告していいですか?」

「やめろ!!」


もはや立場が完全に逆転しているのを見て、他の3人は、必至で笑いをこらえている。


「分かった……回復してやるよっ……!」


ジャスティアさんが白旗を上げたので、ようやく彼女は本物の笑顔を見せた。


「まあ、そうしかめっ面しないでくださいよ。これが終わったら、くろんさんとのいいデートプランをお教えしますから」

「そんなんじゃねぇ!」

「そうですか? ふふふっ、若いっていいですねぇ」


うーん、凄い。とても真似できない。

こうしてようやく、全員が挨拶を済ませることに成功した。


「あ、じゃあ早速、行動分析に入りますね」


長く待たせると、今から分析戦闘に参加する人たちがバテてしまうと考え、私は早速6つのモニターのスイッチを入れた。ワールドチャットでの伝達を入れる。


その合図で、すでに待機していた6パーティが戦闘を開始した。


なるほど、溶岩を固めたような赤黒いゴーレムが2匹写し出される。大きさは一番高いジャスティアさんの背の2倍はありそうだ。

ちょっと分かりにくいが、右の側頭部と左胸のあたりだけ鉱石の色が違うので、ここが例の破壊可能な部分なのだろう。


「行動の速さは、三段渦紋亀と同じくらいですね……」


時間を計測しながら、私はそう呟いた。


「あれ、魔法攻撃だうー? ずっと見た目から、物理攻撃だと思ってたうー!」


そう言えばどの画面のラーヴァゴーレムも、全て詠唱時のオーラが同じ魔法攻撃だ。行動パターンが決まっている系の敵かもしれない。


「前作から魔法攻撃しかありませんでしたよ、ラーヴァゴーレムは。魔法生物だからだと思いますけど」


確かにそういう設定なら、ありそうなことだ。


「とはいえ、ナイトの方にとって魔法攻撃しかない敵と言うのは、大変ではありませんでしたか?」

「え、そうなんですか?」

「そうよ、確か色々大変だって聞いたことがあるわ!」


どちらの攻撃も耐える印象しかなかったので、これには少し驚く。


「ナイトはそもそも、『物理防御力を参照する攻撃』をする職業だからだろ?」

「……あっ!」


そうだった。敵を攻撃することでヘイトを管理しているので、普段は物理防御力にかなり特化した装備をしているはずだ。


だが魔法攻撃に耐えるには、ナイトであっても魔法防御力をある程度確保するしかないので、その分物理防御力を下げることになる……。つまり攻撃力も下がってしまうので、ヘイトを取りにくくなるわけか。


「あら、皆さん結構詳しいんですね。でも大丈夫です、ちゃんと方法はありますから。

……私としては、安心しました。魔法攻撃しかないようで」


どこかで似たような発言を聞いた覚えがあった。だが、すぐには思い出せない。


「おい、今のは何だ!」


ジャスティアさんの言葉で、私はモニターに視線を戻す。気が付くと戦闘中の人たちが、ほぼ瀕死になっていた。


「味方全体に呪い10%付与・魔痕耐性999%付与を確認」

「全体攻撃と同時に、味方全体に魔痕が付与されましたが、抵抗したことを確認」


2種類の状態異常付与? しかも敵が耐性付与したから、1つは抵抗した? わけがわからない。


自傷武器の詠唱に入っていたファイターさんとレンジャーさんの何人かが、詠唱終了とともにここで自滅した。

どのパーティも慌ててHPを回復しようとしているが、瀕死状態からの全体回復では、回復量がなかなか追いつかない。


しかもその次の攻撃は、2匹とも全体攻撃だ!


「まあ!」

「怖いうー!」


呪いの状態異常こそ数秒で解除されたが、続く全体攻撃であっけないくらい、簡単に全滅していった。あれでは仮にガッツが1回付与されていても、2回攻撃が来るので耐えようがない。


「花図鑑さん、確認です。今ここに映っている方は瀕死になる直前、火耐性UPの魔導具を使っていましたか?」

「是」

「こちらの方は瀕死になる直前、自身の物理・魔法被ダメージがDOWNする魔導具を使ってましたよね?」

「是」

「何よそれ、どうやって耐えるのよ……。影の精霊も怯えているわ!」


私も同意見だ。


「なるほど、つまりこれは……」


だがどうやらジャスティアさんと真珠さんには、この攻撃の正体が見えているらしい。


「割合攻撃、か?」

「はい。それも90%はありそうです」


割合攻撃……聞いたことのない攻撃だが、予想はついた。


「つまり、設定された割合に応じたダメージを、強制的に受ける攻撃ってことですか……?」

「そうです。例えば90%なら、最大HPから残り10%になるまで、ダメージが入ります。

逆に言えば、絶対に死ぬことがない攻撃なんですが……」

「呪いによる行動時ダメージと、その後の全体攻撃2発が厄介だな。

言っておくが俺は、蘇生は下手だぞ! 自滅なんか許さないからな!」


とはいえそれも、ジャスティアさん自身が全体攻撃2発を耐えた後でしかできない話だ。まずは耐える方法を考える必要がある。


「どちらか1匹を、早く倒せばよいのでしょうか?」

「いえ……今回はそれも駄目ですね。

見たところ1匹が魔痕耐性をくれた後、もう1匹が魔痕付与ありの攻撃をしてきてますけど、どちらがその行動を取るかがランダムなようです。つまり、1匹倒した時点で魔痕に対抗できなくなって詰みます」

「それじゃあ、同時に倒すしかないうー!」


今回も一筋縄ではいかなさそうだ。

この話し合いが終われば、次はいよいよ水属性選抜チームの出番か。

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