適性者ギルド
「…………あ……れ?」
自分はもう布団の中で、時刻は深夜のはず……なのに、思いの外騒がしいのに気づき、私は周囲を確認する。
室内なのは確かだが、そこは明らかに自宅ではなかった。そもそもこんな、どこかの宿泊施設のロビーかと思うほどの広い空間が、自宅にあるはずもない。
しかも知らない人がそこかしこにいて、ハロウィンを思わせる金属鎧やらローブやらを着ているのだから、間違いようがなかった。そして何より驚いたのは……自分もそうだということ。
「…………あっ! この服って……」
軽装の、動きやすい……冒険に適した服。悩みに悩んで決めた、「ユウ」の服そのものだった。
また先ほどから発する声も、自分のものではないことにようやく気づく。スカオーは前作の時から有名声優のボイスをアバターと組み合わせて使える機能があるのだが、この声はまさに、自分で設定した「ガーリッシュ」という名称のボイスと同じだ。
よくよく見ると、周囲の人々の頭上には皆、プレイヤー名と思われる文字と、その横に職業を示すシンボルマークまである。つまりここは……。
「the 2nd内の、適性者ギルド……?」
見覚えのあるNPCがいるのに気づき、ようやく自分の状況を把握できた。つまり、ゲームをログアウトしたのと同じ場所にいるわけだ。そして今私は……「ユウ」になっているらしい。
こんなリアルな夢を見るほど、私はこのゲームの続編を待ち焦がれていたのだろうかと苦笑する。まあでも、折角そんな夢を見ることができたのなら、とことん楽しもうと思った。
「何からしてみようかな……。やっぱりまずは、ギルド嬢に挨拶かな。新人だし。」
というわけで、受付のギルド嬢に話しかけてみた。
『はじめまして、あなたが新人の適性者さんですね? お話は伺っていますよ!』
こういうNPCのセリフにも要所で有名声優のボイスを使っているのだから、本当にこの運営は力の入れ具合がすごい。
どうやらこれは2番目のストーリークエスト扱いだったようで、ここにはどんな設備があるかとか、等級を上げると探索可能エリアが増えますよとか、一方的にそんな話を聞かせてくれる。
『新人のユウさんは鉄等級からのスタートなので、今のところ「森林地帯(昼)」のみ探索許可が出ています。ギルドからの支援として魔晶製武器の支給がありますので、必ず受け取って、装備を整えてから出発してくださいね!』
これで2番目のストーリークエストが終わったらしく、自動で胸元くらいの位置に半透明の画面が出てきて驚いた。どうやらスマホで見るゲーム画面と同じものが、この画面からタッチで操作できるらしい。
開いたのは武器ガチャの紹介ページだった。
どうやら「各職業に応じた武器のみが排出されるガチャ」5種類と、「全ての武器が排出されるガチャ」があり、好きなものを選べるらしい。
ガチャを回すのに必要なポイントがデフォルトで100になっており、1ポイントで1回ガチャが可能なので、100個武器が得られるということか。
さてそうなると、今後このゲームをどう遊びたいかによって、選択するガチャの種類が決まりそうだが……。
「そういえば、このゲームでの各職業ってどんな感じだったっけ……」
いつでも好きな時に転職可能だったことは覚えているが、何せ前作も「森林地帯(昼)」にしか行けなかったのだ。サ終が決まったせいで誘ってくれた友人が先に引退してしまい、ただ適当に遊んでいただけの自分には、職業特性すら把握できていなかった。まして3年弱も前の記憶など、かなりあやふやだ。
「とりあえず、もっとNPCに聞いてみようかな?」
先ほどギルド嬢が説明した施設案内の中に、職業訓練所があったことを思い出し、ガチャ結果を見てガッツポーズしているプレイヤーや、早速画面から装備をセットしているプレイヤーの脇を抜けて向かう。初日ということで、かなり人が多いようだ。
『よう、何か困りごとかい?』
今度のNPCは体格の良い男性だ。表示された選択肢の中から「職業について知りたい」を選ぶ。
『どの職業について知りたいんだ?』
前作同様、ファイター・マジシャン・レンジャー・ナイト・プリーストの5職業の選択肢が表示されたので、今度はファイターを選択してみる。
『ファイターは物理攻撃力を高めて戦うことに長けた職業だ。適性者なら誰でも使える魔導具の他に、両手剣・斧・双剣を使えるぞ!』
「…………え、説明終わり!?」
まさかそんな、誰でも職業名だけで分かりそうな説明だけとは思わなかった。念のため他の職業も選択してみるが、似たような回答だけだ。
それならせめて、武器種の紹介ページがないかと探したが、どこにもない。
ベータ版である以上、最後に運営に意見を問われるはずだから、その時に改善提案しておこうと思いつつ、その場を離れる。
「どうするかな……こんなんじゃ決められないよ」
まあ、そうやって悩む人のために「全ての武器が排出されるガチャ」が用意されているのかもしれないが、訳も分からずガチャを引くのと、納得して引くのではまるで意味が違う。
ガチャを引けるチャンスがこれしかないのだとしたら、なおさらだ。
となると一番欲しいのは……第三者の意見である。
「あの、すみません」
丁度装備セットが完了して画面を閉じようとしていたプレイヤーが近くにいたので、私は思い切って話しかけてみる。
ユウよりやや高い身長で、華奢ではないが細身の体。
溶岩を固めたように赤黒い色の兜と、貴族を思わせる豪華な赤・黒を基調とした裾の長い刺繍入り上衣に、肌にぴったりと密着した黒いズボンを合わせている。
兜で口元以外隠れているため判別しづらいが、長い赤毛を後ろで束ねており、やや胸があるので性別2アバターらしい。
「どうも」
突然のことだったが、すぐに「お辞儀」のエモーションと「ミステリアス」という名称のボイスで返事をしたので、話をきいてくれそうだと安心する。
その頭上には「くろん」というプレイヤー名と、ファイターであることを示す、赤丸の中に白抜きで両手剣が描かれたシンボルマークがあった。