アイサイドC、D
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始めは、ふとした気まぐれだった。
アイCが宿った身体は、同年代よりはやや背が高い「高校生男子」のもので、初めて受ける授業というものは新鮮で楽しかったが……そればかりでは飽きるので、「ちょっとスカオー世界の奴らがどうしているか見てやるか」という程度だったのに。
「何だよ、これ……」
アイBがワールドチャットに残したスカオー語を授業の合間に読み、アイCは入れ替わった奴らの快進撃を知って苛立ちを覚えた。
自分たちはあんなに苦労してもうまくいかなかったのに、何故奴らはこうも簡単に進められているのか。もっと苦戦してくれなくては、自分たちの苦労が伝わらないじゃないか。
だから見に行くにしても、状況によっては邪魔でもしてやろうかと思っていたのに。
「ねえ、あのスカオー語見た?」
たまたま同じ学校の、背が低めな「高校生女子」の身体に宿ったアイDに声をかけられたのが、運のつきだった。
ちなみに身体に残っている記憶を読み解いたところ、元々アイDの身体の持ち主である女がスカオーをやっていたのを知り、アイCの身体の持ち主である男がスカオーを始めたらしい。
その意図はアイCには理解できなかったが、早々にこの2人がスカオーを介して関係を築いていたのが分かったため、すぐに女とアイの入れ替わりを疑い、こちらの世界に来て即、スカオー語で話しかけて確認したのだ。
そして結果はビンゴだったというわけで、ここ数日、毎日のようにアイDから話しかけられている。
まあ、近くにいるアイが自分だけなので、アイDの気持ちが分からないではないが。
「見た」
なるべくそっけない風に答える。本来の持ち主の口調や態度を真似るとそうなるからだ。
とはいえ今まではこの2人、ゲーム内では結構会話していたくせに、現実世界ではそう親しい感じではなかったらしく、一緒にいるだけで周りの同級生たちに注目されている気がするが……そこまでアイCの知ったことではない。
仮に元通りになっても、困るのは身体の持ち主だけだ。ざまぁ見ろ!
「一緒に見ようよ! いいでしょ?」
どうもアイDは割と積極的な性格のようで、こちらの都合など考えず、ぐいぐい来る。
お前、身体の持ち主とキャラ変わってるんじゃないのか? それはアリかよ。入れ替わりがバレるとか考えないのか?
「別にお互い家とかでスマホ見ればいいんじゃねーのか?」
「それじゃ物足りないってこの身体の持ち主は思ってたのに、できなかったのを知ってるから言ってるのよっ!」
つまり、元の持ち主の意向に沿って行動してるのか? 俺たちには何の得もないのに、律儀な奴め。
「分かった分かった。とはいえ、いつになるか分からないし、長時間になるかもだぞ? どうやって見る気だよ」
「それはねー、アイBさんとも連絡を取って、私なりに考えておいたよっ」
いつの間に……。妙なところで行動が早い奴だ。
「アイBさんからは普通にスマホで様子を伺いながら、個人チャットで話すのを提案されたけど、それだとみんなで話せないじゃない?」
って、勝手に俺を勘定に入れて、話を進めるなよ。
「だからいっそのこと、サブキャラで私たちのグループ作って、グループチャットで話すのはどうかなって」
なるほど。グループの加入にグループマスターの承認が必須だから、入れ替わったやつらがそのグループに所属することができないようにすれば、悪くない方法だ。
しかも今は入れ替わったやつらとの繋がりが切れているので、俺たちが勝手にサブキャラを作成しグループに加入したところで、感知しようがない。
しかもサブキャラ作成の機能そのものが、the 2ndからなので、奴らには元のアバターもないわけだ。
「それでね、早速サブキャラを作ってみたの。ほら、これなら見つかっても怪しくないでしょっ?」
と言ってアイDが見せたのは、よりによって「ゴールデンウパぺん」だった。
こいつ、運営専用キャラ引っ張り出すまではまだいいとして……。
「よりによって何でそんな、目立つやつ選ぶんだよ!」
「ええーっ? 今の時期ならこれでしょ? それにアイBさんは普通のウパぺんにするって言ってたから、違うウパぺんにしようかなって。運営専用キャラなら、どのエリアの戦闘も即見放題って聞いたしっ!」
運営専用キャラは運営の都合で、どのエリアにも移動できるように、クエスト受託なしで観戦できるように作られているから、確かにそうなる。だが、こいつの頭の中には「こっそり」とか「隠れて」とかいう単語はないのだろうか?
……ないんだろうな。あったとしても、これで行けると思っているんだろう。心配しかないぜ。
「もうグループも作ってて、アイBさんがマスターしてくれてるんだけど、今3人所属してるんだ。だからアイCさんも入らない?」
「……しばらく考えさせろ」
俺の答えに、アイDはやや不満そうだったが、
「いいよ。じゃあサブキャラはまだ作らなくていいから、一緒に見ようよ。私のスマホで」
そこに関しては、全く引く気がないらしい。仕方なく承諾した結果、翌日にはもう奴らがキングドロセラ戦に挑む気配があると言われ……こうして学校が終わった今、アイDに「カラオケボックス」なる場所に連れ込まれている。
「ちょっとデートっぽいよね。元の子喜ぶかなぁ」
なんてアイDは言っているが、俺にはデートが何のことかさっぱりだ。ここに来る途中、同級生たちが俺たちを見てひそひそ話していたのもそれなのか? 悪い方向に進む話なら、ざまぁだな!
「じゃあ早速、様子を見てみるね」
と言い、アイDはスマホを俺の方に向けてくる。やっぱりそう来たか。
「あのなあ、そんな小さな画面を2人で長時間眺めていられるわけないだろ。ちょっと貸してみろ」
俺は俺なりに、ちゃんと調べておいたのだ。
受け取ったスマホと、この店のサービスで借りたケーブルを繋ぎ、俺はスマホ画面の映像を個室内のテレビに表示させてやった。アイDはそれを見て、ぽかんとしている。
「これなら見やすいだろ」
「うん、ありがとう! えっと、アイAさんもアイBさんも、まだインしてないみたいだね。
あっ、この適性者ギルドのチャット履歴……あの人たち山岳地帯(昼)に集まり始めてるんだ! ってことはこれ、本当にいよいよだよね!?」
まあそうだろう。アイDは山岳地帯(昼)のエリアチャットに切り替えた。
「あれっ? この人今、観戦エリア作ったみたいだけど……何で本人以外が中に入れるのかな?」
「!? ちょっとその、観戦エリア作った奴のステータスを見せろ」
見慣れない職業アイコンが目に入ったので、俺は急いで指示する。アイDがそいつのステータス画面を開いた。元々このゲームは、第三者がある程度、他人のステータスを見ることができるようになっている。
「オブザーバーだと……!?」
それは運営が未だ開発中の……少なくとも現段階では、「プレイヤーが選べないはずの職業」だった。にも関わらず、今その職業になれたということは、恐らく何らかのバグがあったのだろう。
開発中ということは、今後オブザーバーが必要となる場面を、運営が想定しているということなのだろうが……その場面が何なのかまでは、俺たちも知らない。
「……っておま、何してるんだよ!?」
気が付くとアイDがゴールデンウパぺんを山岳地帯(昼)に出現させ、その巨大な観戦エリア内を覗こうと、一生懸命ジャンプしていた。
「だって身長が足りないみたいなんだもの」
「いやそうじゃなくて! 何で入ろうとしてるんだよ、奴らにバレるだろ!」
「何でって……中に入らないと観戦エリア内のチャットが分からないからよ。姿はウパぺんだから、別に見つかっても平気でしょ?」
「何が平気なんだよ!?」
そんなことを話しているうちに、ゴールデンウパぺんの目に10歳程度の子供のようなアバターが映った。目をキラキラさせて、嬉しそうにゴールデンウパぺんが抱きかかえられる。俺は本気で頭を抱えた。
「ほら、うまくいったじゃない!」
その後プレイヤーたちが、何だかんだでゴールデンウパぺんを受け入れたのを見て、アイDがドヤ顔をする。それは結果論だ!
とはいえこうなってしまった以上、ここで見る方が得策なので、もう何も言わないことにした。
「それにしても……俺たちですら予想してなかったことになってるな」
1つ見ていてはっきりした。奴らはこのオブザーバーの職業特性を生かし、まさに100人のプレイヤー全員が一丸となってゲームを攻略しようとしているのだ。一蓮托生と言ってもいい。
「あっ、アイA・Bさんも来た。こっちの状況をグループチャットで伝えるね」
丁度奴らのうち、「風属性の敵になら最も勝てそうなチーム」がキングドロセラ戦に挑もうと観戦エリアを出たところで、アイDがそう言った。他の奴も間に合ったようだな。
「向こうはそれぞれ、こっそり観戦エリア作って見るって」
「それが普通なんだよ。ったく……」
言いながら俺は、ゴールデンウパぺん視点の動画撮影を開始する。
奴らの中で「最も勝てそうなチーム」が選ばれ挑んだはずなのだが、その姿は……俺が望んていた、「苦戦」としか言いようのないものだった。
最初のうちは「そうだお前らも思い知れ!」という気持ちだったのに……アイDが隣で「うう、痛そう」だの、「頑張れ!」だの言うせいか、気が付くと俺は画面から目が離せなくなり、いつの間にか拳を握りしめている自分に気づいた。
そして制限時間ギリギリで、満身創痍ながら奴らがキングドロセラを倒したのを見て、小さくガッツポーズしてしまった自分に驚いた。
「やった! やったよ! すごい、すごい!!」
「……そうだな」
ああ、認めよう。確かに奴らは全力で挑んでいる。……俺たちが与えた、無謀な試練に。
アイDは奴らを労うために、近づいて行く。今度は止めようと思わなかった。
「ウパペ ウパペペ ウパペペンッ!!」
それはウパぺんの言葉で確か、「I love you」とか「I like you」の意味だったはずだ。
アイD、お前は……伝わるかも分からないのに、その言葉を奴らに贈るのか。何でそんなに、素直になれるんだよ。これじゃまるで俺が……ただの「駄々っ子」じゃないか……。
いや……認めるべきだろう。俺は駄々っ子だったんだ。正確には、俺を含めたアイたちの何人かは。
ならば、俺がこれからすべきことは?
「おい、そろそろここを離れろ」
「ええーっ、もう? ……まあ十分楽しんだから、いっか!」
アイDは俺の言葉に素直に従い、歩いて奴らから離れようとする。
「あの! ……また、見に来てくれませんか?」
そんなことを言われるとは俺もアイDも思っていなかったので、一瞬足を止めてそいつを見る。あのオブザーバーになっている奴だった。その名は、ユウ。
「アイとユウ、かぁ……何だか運命的なものを感じちゃうな。何て答えようかなーっ」
「答えるな。今回はイレギュラーでこうなったが、俺たちが勝手に決めていいことじゃない。他のアイも含めて話し合うべきだ。それから歩いて離れるんじゃなくて、ワープしろ」
「あっ、そうか! ……どこに?」
「あいつらが絶対に追って来れなくて、俺が今から作るサブキャラと接触できるところだ」
「作ってくれるの? やったね! じゃあ……ここかなっ」
言ってアイDは、この世界で唯一「魔光雨が降り注がない場所」へワープした。
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