表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サ終ゲームのリスタート  作者: 橋 みさと
第2章 その、力は小さくとも
29/52

アイサイドC、D

◆◇◆◇◆


始めは、ふとした気まぐれだった。


アイCが宿った身体は、同年代よりはやや背が高い「高校生男子」のもので、初めて受ける授業というものは新鮮で楽しかったが……そればかりでは飽きるので、「ちょっとスカオー世界の奴らがどうしているか見てやるか」という程度だったのに。


「何だよ、これ……」


アイBがワールドチャットに残したスカオー語を授業の合間に読み、アイCは入れ替わった奴らの快進撃を知って苛立ちを覚えた。


自分たちはあんなに苦労してもうまくいかなかったのに、何故奴らはこうも簡単に進められているのか。もっと苦戦してくれなくては、自分たちの苦労が伝わらないじゃないか。


だから見に行くにしても、状況によっては邪魔でもしてやろうかと思っていたのに。


「ねえ、あのスカオー語見た?」


たまたま同じ学校の、背が低めな「高校生女子」の身体に宿ったアイDに声をかけられたのが、運のつきだった。


ちなみに身体に残っている記憶を読み解いたところ、元々アイDの身体の持ち主である女がスカオーをやっていたのを知り、アイCの身体の持ち主である男がスカオーを始めたらしい。


その意図はアイCには理解できなかったが、早々にこの2人がスカオーを介して関係を築いていたのが分かったため、すぐに女とアイの入れ替わりを疑い、こちらの世界に来て即、スカオー語で話しかけて確認したのだ。


そして結果はビンゴだったというわけで、ここ数日、毎日のようにアイDから話しかけられている。

まあ、近くにいるアイが自分だけなので、アイDの気持ちが分からないではないが。


「見た」


なるべくそっけない風に答える。本来の持ち主の口調や態度を真似るとそうなるからだ。

とはいえ今まではこの2人、ゲーム内では結構会話していたくせに、現実世界ではそう親しい感じではなかったらしく、一緒にいるだけで周りの同級生たちに注目されている気がするが……そこまでアイCの知ったことではない。

仮に元通りになっても、困るのは身体の持ち主だけだ。ざまぁ見ろ!


「一緒に見ようよ! いいでしょ?」


どうもアイDは割と積極的な性格のようで、こちらの都合など考えず、ぐいぐい来る。

お前、身体の持ち主とキャラ変わってるんじゃないのか? それはアリかよ。入れ替わりがバレるとか考えないのか?


「別にお互い家とかでスマホ見ればいいんじゃねーのか?」

「それじゃ物足りないってこの身体の持ち主は思ってたのに、できなかったのを知ってるから言ってるのよっ!」


つまり、元の持ち主の意向に沿って行動してるのか? 俺たちには何の得もないのに、律儀な奴め。


「分かった分かった。とはいえ、いつになるか分からないし、長時間になるかもだぞ? どうやって見る気だよ」

「それはねー、アイBさんとも連絡を取って、私なりに考えておいたよっ」


いつの間に……。妙なところで行動が早い奴だ。


「アイBさんからは普通にスマホで様子を伺いながら、個人チャットで話すのを提案されたけど、それだとみんなで話せないじゃない?」


って、勝手に俺を勘定に入れて、話を進めるなよ。


「だからいっそのこと、サブキャラで私たちのグループ作って、グループチャットで話すのはどうかなって」


なるほど。グループの加入にグループマスターの承認が必須だから、入れ替わったやつらがそのグループに所属することができないようにすれば、悪くない方法だ。


しかも今は入れ替わったやつらとの繋がりが切れているので、俺たちが勝手にサブキャラを作成しグループに加入したところで、感知しようがない。

しかもサブキャラ作成の機能そのものが、the 2ndからなので、奴らには元のアバターもないわけだ。


「それでね、早速サブキャラを作ってみたの。ほら、これなら見つかっても怪しくないでしょっ?」


と言ってアイDが見せたのは、よりによって「ゴールデンウパぺん」だった。

こいつ、運営専用キャラ引っ張り出すまではまだいいとして……。


「よりによって何でそんな、目立つやつ選ぶんだよ!」

「ええーっ? 今の時期ならこれでしょ? それにアイBさんは普通のウパぺんにするって言ってたから、違うウパぺんにしようかなって。運営専用キャラなら、どのエリアの戦闘も即見放題って聞いたしっ!」


運営専用キャラは運営の都合で、どのエリアにも移動できるように、クエスト受託なしで観戦できるように作られているから、確かにそうなる。だが、こいつの頭の中には「こっそり」とか「隠れて」とかいう単語はないのだろうか?

……ないんだろうな。あったとしても、これで行けると思っているんだろう。心配しかないぜ。


「もうグループも作ってて、アイBさんがマスターしてくれてるんだけど、今3人所属してるんだ。だからアイCさんも入らない?」

「……しばらく考えさせろ」


俺の答えに、アイDはやや不満そうだったが、


「いいよ。じゃあサブキャラはまだ作らなくていいから、一緒に見ようよ。私のスマホで」


そこに関しては、全く引く気がないらしい。仕方なく承諾した結果、翌日にはもう奴らがキングドロセラ戦に挑む気配があると言われ……こうして学校が終わった今、アイDに「カラオケボックス」なる場所に連れ込まれている。


「ちょっとデートっぽいよね。元の子喜ぶかなぁ」


なんてアイDは言っているが、俺にはデートが何のことかさっぱりだ。ここに来る途中、同級生たちが俺たちを見てひそひそ話していたのもそれなのか? 悪い方向に進む話なら、ざまぁだな!


「じゃあ早速、様子を見てみるね」


と言い、アイDはスマホを俺の方に向けてくる。やっぱりそう来たか。


「あのなあ、そんな小さな画面を2人で長時間眺めていられるわけないだろ。ちょっと貸してみろ」


俺は俺なりに、ちゃんと調べておいたのだ。

受け取ったスマホと、この店のサービスで借りたケーブルを繋ぎ、俺はスマホ画面の映像を個室内のテレビに表示させてやった。アイDはそれを見て、ぽかんとしている。


「これなら見やすいだろ」

「うん、ありがとう! えっと、アイAさんもアイBさんも、まだインしてないみたいだね。

あっ、この適性者ギルドのチャット履歴……あの人たち山岳地帯(昼)に集まり始めてるんだ! ってことはこれ、本当にいよいよだよね!?」


まあそうだろう。アイDは山岳地帯(昼)のエリアチャットに切り替えた。


「あれっ? この人今、観戦エリア作ったみたいだけど……何で本人以外が中に入れるのかな?」

「!? ちょっとその、観戦エリア作った奴のステータスを見せろ」


見慣れない職業アイコンが目に入ったので、俺は急いで指示する。アイDがそいつのステータス画面を開いた。元々このゲームは、第三者がある程度、他人のステータスを見ることができるようになっている。


「オブザーバーだと……!?」


それは運営が未だ開発中の……少なくとも現段階では、「プレイヤーが選べないはずの職業」だった。にも関わらず、今その職業になれたということは、恐らく何らかのバグがあったのだろう。


開発中ということは、今後オブザーバーが必要となる場面を、運営が想定しているということなのだろうが……その場面が何なのかまでは、俺たちも知らない。


「……っておま、何してるんだよ!?」


気が付くとアイDがゴールデンウパぺんを山岳地帯(昼)に出現させ、その巨大な観戦エリア内を覗こうと、一生懸命ジャンプしていた。


「だって身長が足りないみたいなんだもの」

「いやそうじゃなくて! 何で入ろうとしてるんだよ、奴らにバレるだろ!」

「何でって……中に入らないと観戦エリア内のチャットが分からないからよ。姿はウパぺんだから、別に見つかっても平気でしょ?」

「何が平気なんだよ!?」


そんなことを話しているうちに、ゴールデンウパぺんの目に10歳程度の子供のようなアバターが映った。目をキラキラさせて、嬉しそうにゴールデンウパぺんが抱きかかえられる。俺は本気で頭を抱えた。


「ほら、うまくいったじゃない!」


その後プレイヤーたちが、何だかんだでゴールデンウパぺんを受け入れたのを見て、アイDがドヤ顔をする。それは結果論だ!

とはいえこうなってしまった以上、ここで見る方が得策なので、もう何も言わないことにした。


「それにしても……俺たちですら予想してなかったことになってるな」


1つ見ていてはっきりした。奴らはこのオブザーバーの職業特性を生かし、まさに100人のプレイヤー全員が一丸となってゲームを攻略しようとしているのだ。一蓮托生と言ってもいい。


「あっ、アイA・Bさんも来た。こっちの状況をグループチャットで伝えるね」 


丁度奴らのうち、「風属性の敵になら最も勝てそうなチーム」がキングドロセラ戦に挑もうと観戦エリアを出たところで、アイDがそう言った。他の奴も間に合ったようだな。


「向こうはそれぞれ、こっそり観戦エリア作って見るって」

「それが普通なんだよ。ったく……」


言いながら俺は、ゴールデンウパぺん視点の動画撮影を開始する。

奴らの中で「最も勝てそうなチーム」が選ばれ挑んだはずなのだが、その姿は……俺が望んていた、「苦戦」としか言いようのないものだった。


最初のうちは「そうだお前らも思い知れ!」という気持ちだったのに……アイDが隣で「うう、痛そう」だの、「頑張れ!」だの言うせいか、気が付くと俺は画面から目が離せなくなり、いつの間にか拳を握りしめている自分に気づいた。

そして制限時間ギリギリで、満身創痍ながら奴らがキングドロセラを倒したのを見て、小さくガッツポーズしてしまった自分に驚いた。


「やった! やったよ! すごい、すごい!!」

「……そうだな」


ああ、認めよう。確かに奴らは全力で挑んでいる。……俺たちが与えた、無謀な試練に。

アイDは奴らを労うために、近づいて行く。今度は止めようと思わなかった。


「ウパペ ウパペペ ウパペペンッ!!」


それはウパぺんの言葉で確か、「I love you」とか「I like you」の意味だったはずだ。

アイD、お前は……伝わるかも分からないのに、その言葉を奴らに贈るのか。何でそんなに、素直になれるんだよ。これじゃまるで俺が……ただの「駄々っ子」じゃないか……。


いや……認めるべきだろう。俺は駄々っ子だったんだ。正確には、俺を含めたアイたちの何人かは。

ならば、俺がこれからすべきことは?


「おい、そろそろここを離れろ」

「ええーっ、もう? ……まあ十分楽しんだから、いっか!」


アイDは俺の言葉に素直に従い、歩いて奴らから離れようとする。


「あの! ……また、見に来てくれませんか?」


そんなことを言われるとは俺もアイDも思っていなかったので、一瞬足を止めてそいつを見る。あのオブザーバーになっている奴だった。その名は、ユウ。


アイ()ユウ(貴方)、かぁ……何だか運命的なものを感じちゃうな。何て答えようかなーっ」

「答えるな。今回はイレギュラーでこうなったが、俺たちが勝手に決めていいことじゃない。他のアイも含めて話し合うべきだ。それから歩いて離れるんじゃなくて、ワープしろ」

「あっ、そうか! ……どこに?」

「あいつらが絶対に追って来れなくて、俺が今から作るサブキャラと接触できるところだ」

「作ってくれるの? やったね! じゃあ……ここかなっ」


言ってアイDは、この世界で唯一「魔光雨が降り注がない場所」へワープした。


◆◇◆◇◆

ここまでお読み頂き、誠にありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。


もしよろしければ、


・ブックマークに追加

・広告下にある「☆☆☆☆☆」から評価


をしたうえで、本作を読み進めていただけますと、大変励みになります。

どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ