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サ終ゲームのリスタート  作者: 橋 みさと
第2章 その、力は小さくとも
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錫等級昇格

私が観戦エリアを出たのは、丁度たろ吉さんがゴールデンウパぺんを地面に降ろしてあげている時だった。


ゴールデンウパぺんはそのまま、すぐ近くの「戦闘中以外でも回復可能なエリア」内へ自動で送られていた、風属性選抜チームに向かって進んでいく。

恐らく走っているつもりなのだろうが、その姿は「トテトテ」という擬音がぴったりな感じだった。


一方たろ吉さんはと言うと、無言でその様子を見つめるだけで、それ以上動く気配はない。


そう言えばRockさんとたろ吉さんは、どういう関係なんだろう? 互いにパパ・ママと呼び合っているのには気づいたけど、2人とも性別1アバターだしな……。


気にはなるが、聞ける雰囲気でもないので、私はたろ吉さんの傍を通り抜けてゆっくりゴールデンウパぺんを追った。すぐ自動解除されるかと思っていたけど、意外にも観戦エリアはそのまま維持されるようだな。


ちなみに今回は戦闘不能者がいないこともあって、特に慌てて駆け寄るプリーストさんはいない。早速Ruyさんが風属性選抜チームを癒していた。


「えっ、ウパぺん!?」


予想通り、今回隠れウパぺん好きと判明した鷹影さんが最初に気づいて、驚きの声を上げた。その声でRockさんとRuyさんも存在に気づき、ゴールデンウパぺんを見つめる。


ゴールデンウパぺんは風属性選抜チームの前で足を止めると、1人ずつ顔を見回す。そしてRockさんにゆっくり近づくと……驚いたことに、深々とお辞儀をした。


「あっ、これはどうも」


突然のことで、気の利いたことなど言えるはずもない。だがゴールデンウパぺんは気にする様子もなく、続いて鷹影さんの方を向き、同じくお辞儀する。


「痛み入ります」


鷹影さんはゴールデンウパぺんより深いお辞儀で返した。そのまま感動で、涙を流しそうな勢いである。

そしてRuyさんにもやはりお辞儀をしたので、


「お疲れ様だぞっ!」


Ruyさんもお辞儀で返した。

ゴールデンウパぺんは、さらに眠っていたラガマフィンさんとDylicaさんに近づき……それぞれの頭を、翼で優しく撫でる。鷹影さんがちょっと羨ましそうだ。


……Dylicaさん、後で寝ていたことを残念がるかもしれないな。スクショを残しておくべきだろうか?

とはいえ、寝姿を勝手に撮るのはなぁ……。


ゴールデンウパぺんはまた、全員の顔が見える位置まで「トテトテ」と移動すると、最後にただ一言、


「ウパペ ウパペペ ウパペペンッ!!」


と言いつつ、両翼を上げ下げした。まるで万歳三唱しているような仕草だが、本当にそうなのかは全く分からない。

何だこれ、ウパぺん語か? 最近こういうのが多くないか?


これで用は済んだということなのか、ゴールデンウパぺんは徐々に風属性選抜チームから離れていったので、私は慌てて声をかける。


「あの! ……また、見に来てくれませんか?」


ゴールデンウパぺんは一瞬足を止めて私を見たが、その問いには答えず、そのまま姿を消す。恐らく「ログアウト」か「ワープ移動」だと思うが、そのどちらなのかまでは判別できなかった。


「まさか本当に、労ってくれるとはなぁ……」

「私たちの戦いを見て、何か感じてくれたのでしょうか?」

「だったらいいなっ!」

「そうですね。なので私は、また来てくれるのを待ちます」


少なくとも、わざわざあんなことをしたのだから、悪い印象は持たれなかったはずだ。


「よし、じゃあそろそろ……え゛っ……」


急にRockさんが私の後方を見て顔をひきつらせたので、そちらを見る。いつの間にか、たろ吉さんがそこに来て腕組みしていた。


「や、やあママ。今はまだ放課後じゃないし、こ、ここは、職員室じゃないよ……ね?」

「……」


たろ吉さんはRockさんよりはるかに背が低いのに、声が震えるほど怖いのか……。いや実際、無言の圧が凄いけど。

鷹影さんとRuyさんも、固唾を呑んで見守っている。


「ええと、その、あれは何て言えばいいか……本当に! 真面目に! 考えた結果なんだけど……」

「…………」

「……許してちょんまげ……」

「……………………ふぅ」


しばらくしてようやく、たろ吉さんは小さく息を吐いた。何というか、「言いたいことは色々あるけど」って感じである。


そしてRockさんの言葉には答えず、若干怒気が含まれた静かな口調で別のことを言った。


「そこで寝ているお2人は、どうするつもりですか?」

「え? あっ、と、とりあえず適性者ギルドの救護室にベッドがあるから、そこに運ぼうかな、とか……」

「誰でも出入りできるところじゃ、ゆっくり休ませられないでしょう? 騒がしいですし」

「すっ、すいません! とはいえ、ここに置いていくわけにも……」


確かにその問題があったか。とはいえ私も、代替案が浮かばないのだが。


「しばらく目覚めそうにありませんし、私がこれから、お2人と相互フレンド関係の方を呼んできてあげます。その方たちに各個人部屋に運んでいただいて、今日は解散にしてはどうですか?」

「……おお、さすがママ! ありがとう」


こういう時、素直に人を褒められるのが、Rockさんの凄いところだよな。

優しい笑みを向けられ、たろ吉さんは慌ててRockさんに背を向け、歩き出す。


「そうそう、職員室の件はキャンセルしてあげます。

……最後、カッコよかったですから」


恐らく本当は、これを言いたくて来たのだろう。さり気ない風を装って、たろ吉さんは背を向けて歩きながら言う。

後半の言葉はかなり小さくて、距離的に聞こえるかどうかという程度だったのだが……Rockさんにはしっかり聞こえたらしい。


「ママ、もっかいこっちを見て言って!」

「嫌です!」


嬉しそうに催促したが、照れ隠しなのか速攻断るたろ吉さん。

最後の2人のやり取りには深い愛情を感じられたので、見守っていた全員がほっとした。


約束通り、程なくして相互フレンド関係にあるU-berryさんとチョコケーキさんが来てくれ、それぞれDylicaさん、ラガマフィンさんを個人部屋に運んでいってくれる。私はその様子を見届けてから観戦エリアに戻り、中の人たちに解散の旨を伝えた。


観戦エリアから最後の1人が退出したところで、観戦エリアが自動解除される。どうやら中に誰かがいる間は、維持されるようだな。

その後、皆と一緒に適性者ギルドにワープ移動し、クエストクリアを受付のギルド嬢に報告する。


『錫等級昇格、おめでとうございます!

これで「湖沼地帯(昼)」の探索許可が出ました。それからこちらは、ギルドからのお祝いです!』


そう言って渡されたのは、また4枚の天空海メダル。これで合計8枚を手にした。

これで私たちに残された時間は、今日を含めてあと……25日だ。

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