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サ終ゲームのリスタート  作者: 橋 みさと
第2章 その、力は小さくとも
25/53

キングドロセラA

「ウパぺん、ぼく行ってくるから、ここで応援してね」


Dylicaさんは1つ深呼吸し、ゴールデンウパぺんにそう声をかけてから、他の風属性選抜チームと共に観戦エリアを出た。

程なくして、他のプレイヤーたちが観戦エリアに集まり始める。


「錫等級昇格クエスト」を受託した状態でこの観戦エリアを訪れたことを確認し、私はそっとゴールデンウパぺんのことを説明してから徐々に中に招き入れた。

説明を聞いた時の皆の反応は様々だったが、実際にその姿を見ると思わず頬が緩んでしまった人が多い。


そのゴールデンウパぺんはというと、こんなに人が来ると思っていなかったのか、やや落ち着かない様子でウロウロしている。

だが観戦する95名全員が揃ったことを確認し、私がモニターの映像表示を切り替えたところで、ゴールデンウパぺんはまた最初と同じ位置に戻りに、モニターに釘付けになった。


風属性選抜チームは丁度、戦闘準備エリアに揃ったところか。


「何かDylicaさん、すごく緊張してない?」

「ほんとだ、大丈夫かな……」


私たちが見てもそう思うのだから、同じ場所にいる風属性選抜チームの方は、もっと心配だろうな。


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「Dylica君。お父さん、いいこと思いついたぞ!」

「ん、なあに?」

「列コンボのセリフの覚え方だよ!

π/何とかと、$iΓЙ何とかだから……『胸は前から攻撃、尻は後ろから攻撃』ってね!」

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一瞬の沈黙の後……


「一w発wでw覚wえwたwwwww」

「天w才wかwww」

「は、破廉恥です!」


戦闘準備エリアと観戦エリアが、爆笑の渦に包まれる。私自身、今のは覚えやすいと納得しつつも笑ってしまった。Dylicaさんもお腹を抱えて笑っている。

その様子を見て、Rockさんがニヤリとしたのを私は見逃さなかった。緊張をほぐすために、わざと言ったのかな?


と、ここでたろ吉さんから耳打ちされたので、私はそのお願いを聞き入れる。


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ユウ:すみませんRockさんに伝言です 「放課後職員室に来なさい」

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誰からの伝言か、それだけで分かったらしい。今度はRockさんが、目に見えて動揺してるぞ。


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「ちょっとママ落ち着いて! パパは真面目に考えたんだよ!?」

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これがさらに笑いを誘い、Dylicaさんの緊張はすっかりほぐれた。


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「はー、笑いすぎた。

お父さんのそれ、すごく覚えやすいんだけど、ぼくやっぱり避ける方で指示されたほうが間違えないと思うから、予定通りユウお兄ちゃんよろしくね!」


ユウ:了解です

こちらの準備は整いましたので いつでも大丈夫ですよ

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戦闘エリア内の5人はその言葉で表情を引き締め、5人顔を見合わせてから設置されているベルを見つめる。


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「いくのか……?」

「もっちろん!」

「今こそ動く時!」

「ガンガン攻めるぞ!」

「うん、一気に攻めきろう!」

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代表して鷹影さんがベルを破壊し、戦闘エリアへ移行する。同時に大きな鐘の音で始まり、徐々に不気味さを増していく弦楽器メインの戦闘音楽が流れ出した。BOSS表記と共にキングドロセラが出現し、戦闘開始だ!


「落ち着いていけー!」

「信じてるぞーっ!」


今回も観戦エリアから声援が上がった。勿論ここの声は彼らに届かないのだが、応援したくなる気持ちはよく分かる。


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「強化するね!」

「デバフするぞっ!」

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分析結果によると、キングドロセラは攻撃がかなりパターン化されている敵なので、いかに事前打ち合わせ通りの立ち回りができるかが鍵となる。前列にいるので、ファイターである鷹影さんのほうが有利な武器が多い。


「鷹影さんは、ファイターの定石通りの2手で自己バフだね」

「Rockさんの自己バフ剣盾はヘイト獲得率も付いてるやつだ。詠唱0秒だし、いいもの持ってる……」

「ラガマフィンさんは前に出ずに、必殺技ゲージを貯めるつもりかな」

「Ruyさんは初手から槍で敵にデバフ付与だ! プリーストもHP削りに貢献する作戦か!」

「Dylicaさんも定石の味方バフ2手……さすがに上位武器は出なかったのかな。まあその弓2つセットで出ただけ勝ち組か」


今回も自身の参考にしようと、風属性選抜メンバーの動きを細かく見ている人が多いようだ。鷹影さんの斧による2多段攻撃が、キングドロセラの右側にある、花の蕾を包む鉱石部分にヒットする。


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キングドロセラ「※∀♯M△Θ」

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予定通り、キングドロセラが状態異常付与の詠唱を開始した。あと1手までは安全に行動できるが……


「えっ、Rockさんまさか……!」


だが3手目のロックさんの行動を見て、一部でどよめきが起こる。


「みんな、どうしたんです?」


たまたま真珠さんが隣にいたので、私は聞いてみた。


「Rockさんが味方全体への魔法被ダメージDOWNを使っていないことに、気づいたんですよ。……その効果がある武器を持っていないそうなので」

「それはつまり……物理攻撃にしか対処できないってことですか?」

「はい。本来ナイトにとって、物魔両方の攻撃を防げないのは致命的ですけど……今回は大丈夫です。相手がキングドロセラですから」


そうか、こいつは魔法攻撃がないから……!

Rockさんが言っていた懸念は、これだったのかと納得する。


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「大局を見据えねばなりませんね」

「いいんじゃないー」

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鷹影さんの言う通り、その次で早速、2種類の「死の縄跳び」のいずれかの詠唱が開始される。それを見越した行動が必要というわけだ。


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「ディフェンスだぞっ!」

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キングドロセラの詠唱が終わる前に、Ruyさんが何か水属性の魔導具を使用して前列移動する。そのすぐ後、キングドロセラが消化液を振りかける演出がなされた。


「キングドロセラへの物理与ダメージDOWN20%付与を確認」

「ラガマフィンさんの必殺技ゲージMAXを確認」

「味方全員に〈状態異常〉溶解20%付与を確認」


ちなみにこの状態異常、分析結果によると20秒続く。キングドロセラの行動パターンが1周27秒だったので、実に戦闘時間の3/4ほどは状態異常がかかっている計算だ。


みんな痛みで顔をしかめたが、これが原因で1秒でも行動が遅れると戦闘不能に繋がるため、必死で耐える。


さあ、次がいよいよ縄跳びか。

鷹影さん、Rockさん、Ruyさんの3人は、キングドロセラのセリフ待ちで待機した。私もすぐ指示が出せるよう注視する。


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キングドロセラ「π/Ω±Zk」

ユウ:後列移動よろしく

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Rockさんの覚え方のお陰で、練習より素早く指示が出せた。全員が後列移動武器を使用し、状態異常の追加ダメージが入る。


「キングドロセラへの与HP回復量DOWN30%付与25秒を確認」


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「頑張るんだぞっ!」

「デバフでだるくなれ~」

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Ruyさんの使用したメイスが光を放ち、味方全体を包み込む。何かのバフかな?


「味方全員に行動時回復(中)付与25秒を確認」


その直後にラガマフィンさんが必殺技ゲージを使用し、敵にデバフを付与すると、状態異常の追加ダメージが入った後、HPが回復した。


「行動時回復! その手があったか!!」

「えっ、でもあれって前作だとものすごく古い武器だから、終盤活躍の場がなかったんじゃ……」

「いや待てよ……あ、魔法防御依存回復に修正されてるっ! これなら戦略に使えるよ!」

「うわ、俺もあとで古い武器見直そう」


なるほど、この方法なら状態異常の追加ダメージをある程度相殺できるから、自傷武器があっても安全に立ち回りができるのか! これでもまだ状態異常の追加ダメージのほうが多いが、行動時回復が25秒なら回復時間のほうが1行動分長い計算だ。


「というか今の追加ダメージ、なんか普段より少なくない?」

「そう言えば……」


言われて私も、ダメージが少ないのに気づく。誰がどんな手を使ったのだろう?


考える間もなく、ドーンという大きな音と共に前列の地面からキングドロセラの根が勢いよく伸びる演出がされる。それを見るや否や、鷹影さんとRockさんは前列移動武器の詠唱に入る。


「Rockさんは自己回復しつつヘイト取れるやつだ! これならプリーストの回復負担はかなり少なくできる!」

「鷹影さんもうまく縄跳びしつつ、攻撃に転じてるね。後列移動が自己バフ延長だったから、攻撃の威力も落ちてないし」


続いてラガマフィンさん、Ruyさん、Dylicaさんも前列移動武器の詠唱を開始し、最後にDylicaさんが列移動した直後、後列の地面からまたドーンという大きな音と共に、キングドロセラの根が勢いよく伸びる演出がされた。


「うわ、ぎっりぎり!」

「あぶねぇ!」


これを何度も繰り返すのか……。実際にやる方は、本当に心臓に悪いだろうな。


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キングドロセラ「♡¥ψh%д」

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次は回復行動だ。

これが実に厄介で、キングドロセラの最大HPはそこまで多くないのだが、回復量が結構あるので、分析時は制限時間内にHPを削り切れず時間切れとなるパターンがかなりあった。


「みんなで手分けして、色々なバフやデバフを付けてるな。いい感じだ」

「お、Rockさんは1手でナイトの物理系被ダメージDOWNだけ延長できる槍使ってる! 手数1つ減らせるから、こいつにはうってつけだな!」

「Rockさんへの逆鱗付与2回を確認」


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「まずラガマフィンさんに、バフつけるぞっ!」

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そう言ってRuyさんは、砂時計の形をした魔導具をひっくり返しながら頭上に掲げる。Ruyさんの身体を青い光が包み、ラガマフィンさんの身体を赤い光が包んだ。


「あれは……自己バフ2つ削除する代わりに、任意の味方1人に永続バフ2つ付けるやつだ!」

「そうか、レンジャーに攻撃バフもらっても、プリーストは攻撃にほぼ参加できないから……うまいっ!」


ここでキングドロセラが光を浴びて、回復する演出がなされた。


「あれっ、キングドロセラの回復量がいつもより少ないぞ!?」

「ほんとだ、何で??」


確かに普段より、3割ほど回復量が少ない。誰かが何かの手を打ったのは確実だが、みんな気付かなかったようだ。


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キングドロセラ「X&〆Rω☆」

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次は単体物理攻撃だ。この攻撃が終わると、キングドロセラの攻撃パターンが1周する。何の攻撃が来るか分かっていたので、Rockさんはすでに後列移動済だ。Ruyさんも地耐性メイスを使用しつつ回復し、ラガマフィンさんは必殺技の準備に入った。


「Rockさん今、後列移動しつつ自分に属性耐性バフつけて、敵に属性耐性デバフつけたぞ、無駄がない!」

「Rockさんの必殺技ゲージMAXを確認」

「ラガマフィンさんの必殺技ゲージMAXを確認」


キングドロセラの一番大きな葉が触手のようにうねり、バシンという大きな音と共にRockさんを打ち据える。HPが半分ほど削られた。かなりの衝撃があっただろうに、Rockさんの目はキングドロセラを睨みつけたままだ。

今は装備で地属性耐性が上がっているし、後列で受けたのでダメージは半減しているはずなのに、この威力……やはり油断ならない相手ということか。


「Rockさんの逆鱗消費1回を確認」


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「こっちの必殺技ゲージまだ貯まらないけど、レンジャー担当のバフ・デバフは、ほぼフルに入ってるよ!」

「お父さんに任せなさい」

「さっさと終わらせよ……」

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敵の単体攻撃中から武器の詠唱に入っていたRockさんは、必殺技ゲージを使い地属性の見慣れない剣盾を使用する。ギャリンという歯車をかませたような音と共に、ナイトながら結構なダメージをキングドロセラに与えた。


「キングドロセラに物理・魔法与ダメージDOWN20%付与60秒を確認」

「Rockさんの必殺技ゲージMAXを確認」


ほぼ同タイミングで武器詠唱に入っていたラガマフィンさんも、魔砲でキングドロセラに多段攻撃を当て、HPを大幅に削る。


「あの魔砲……マジシャンが使える、数少ない前列敵への有利武器!」

「レンジャーからもらった物理攻撃バフを削除しないと打てないし、再使用可能時間(リキャストタイム)が長いから、別途攻撃杖も持つ必要があるけど、キングドロセラ相手のパーティ戦闘には最適のチョイスだな!」

「鷹影さんも必殺技の準備に入ったぞ!」


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キングドロセラ「※∀♯M△Θ」

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息つく間もなく、また状態異常付与の詠唱が開始された。ここから2周目となる。


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「またディフェンスだぞっ!」

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Ruyさんがまた前回と同じ水属性の魔導具を使用して前列移動する。そのすぐ後、キングドロセラが消化液を振りかける演出がなされた。


「キングドロセラへの物理与ダメージDOWN20%付与を確認」

「味方全員に〈状態異常〉溶解20%付与を確認」

「物理与ダメージDOWN……そうか、それが状態異常の追加ダメージを減らしてるんだ!!」

「ってことは、さっきRockさんが使っていた剣盾も物理・魔法与ダメージDOWNだったから……!!」


Rockさんがまた必殺技ゲージを使い、今度は風属性の剣盾でかなりのダメージをキングドロセラへ与えると同時に状態異常の追加ダメージが発生したが、1回目よりダメージはさらに少なくなっていた。


しかもまだ行動時回復が効いているのでその分と、Rockさん自身が使った剣盾の効果で、さらに自己回復がなされる。

Ruyさんの回復を待つことなく、これでほぼRockさんのHPは全快した。

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