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サ終ゲームのリスタート  作者: 橋 みさと
第2章 その、力は小さくとも
24/52

ゴールデンウパぺん

「ええと……これは……」


Dylicaさんがゴールデンウパぺんを嬉しそうに抱きかかえて見せ、ラガマフィンさんが興味津々で頭を撫でたり、つばさを動かし色々とポーズを取らせている様子を見ながら、私は考えた。


まず最初に、このゴールデンウパぺんは敵シンボルではない。2人が触れても戦闘エリアに移行しないことから、それは明らかだ。

そもそも敵シンボルなら、レベル表示はあっても敵の名前表示はない。


次に、プレイヤーのコスプレでもない。性別1の低身長の人が抱えられる大きさの身長設定が、プレイヤー側に存在しないからだ。


となるとこれは……。


「前作ではゴールデンウイークイベント中に、この子がフィールドを歩き回っていたことがあるんだぞっ」


Ruyさんの説明で、これがかつて運営が作ったイベント用キャラだということは分かったが、勿論そんなイベントがベータ版である今、開催されているわけがない。


「でも世話できない子は拾っちゃダメ……なんだからな……」


いや、Ruyさんそうではなくてですね……。


「Dylica君、その子どうしたんだい?」


Rockさんが優しく問いかけると、Dylicaさんはにこっと笑って答えた。


「あのねー、この中に興味があったみたいで、覗こうとしてたの見つけたから連れてきたんだよっ!

身長が足りなかったみたいでこう、一生懸命ジャンプしてたんだっ!」

「おー、そうかそうか。優しいんだねぇ。

いやーうちの子も色々なものを拾ってきたことあったけど、こういうのはさすがに初めてだなぁ」


どうやらRockさんは、リアルでもお父さんらしい。Dylicaさんへの対処が完璧だ。


さて、となると考えられるのは……1つしかないのだが。


「お父さん、お兄ちゃん、駄目?」

「駄目なのか……?」


Dylicaさんとラガマフィンさんの2人が、瞳を潤ませてこちらを見る。


「どうしましょうか……?」


恐らく同じことを考えているであろう2人の方を見て、私はそう問いかけた。


「分かっていますよ……これが甘い罠であることくらい、我が智謀で。

ですが……ああ……こんなに嬉しいことはない……」


鷹影さん……実は隠れウパぺん好きでしたか。滅茶苦茶葛藤してるじゃないですか……。


「うーん……まあでも……いいんじゃないかな?」

「えっ、いいんですか!?」


Rockさんの判断は、私には意外だった。


「こんな目立つ姿で、堂々と見に来てくれたんだろ? だったらお父さんたちの邪魔はしないよ。純粋に見に来てくれたんじゃないかな」


確かに予想外ではあるが、こそこそ見られるよりはいいか……な?


「分かりました。ではそういうことで、他の方には後で説明しますね……」

「よし、じゃあ今から敵の分析を始めるから、みんな真面目にやろうなっ!

ウパぺんには、この辺りにいてもらおうかー」

「やったぁ! よかったねー!」


Rockさんの許可が出たことで、Dylicaさんはご機嫌でゴールデンウパぺんを、6つのモニターがよく見える位置に座らせてあげる。ラガマフィンさんも、うんうんと頷いて満足そうだ。

私がモニターをONにすると、ゴールデンウパぺんは驚いたようでつばさをパタパタと上下に動かした。


うーん……確かに分かっていてもこれは……可愛いな!


とはいえ、すでに少し遅れているので、真面目にしないとな。他の人たちはもう、準備しているはずだ。


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ユウ:すみません 遅くなりました

では順番に戦闘開始お願いします

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ワールドチャットでの伝達に待機していた6パーティが応じ、戦闘を開始する。ほぼ同じタイミングで、全てのモニターに映し出されたキングドロセラが、全く同じセリフで物理攻撃詠唱を開始した。


----------------------------------------------------------

キングドロセラ:※∀♯M△Θ

ぜっぴん:え! まじ!?

エレ:うぅ……記号系なの……?

よー子:私の影は……とても深いわ……

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「え、まさかこれも何かのゲーム内言語ですか?」


さすがにスカオー語が話題になったばかりなので、私は真っ先にそれを疑う。


「いや、これは関係ないよ。ただの『記号系』って言われる敵のセリフだね」


Rockさんの説明で、解読不要だとは分かったが、


「うわぁ、どうしよう……ぼく、ただでさえ敵のセリフ覚えるの苦手なのに……」


Dylicaさんが心配するのは分かる。これは覚えにくいことこの上ない。

初見なので各パーティが思い思いの対処をするが、意外なことにノーダメージのようだった。いや……。


「味方全体に〈状態異常〉溶解20%付与を確認」


どうやら攻撃そのものにダメージはないが、状態異常を付与する攻撃だったようだ。付与されるだけで痛みが伴うらしく、「肌がピリピリする」とか「本当に溶かされるみたいだ」といった感想が飛び交っている。


「溶解って私は初めて見ましたけど……行動するたびにダメージ入るんですね……」

「スカオーの状態異常はどれも、行動時ダメージなんだぞっ。何を参照するかが違うだけなんだぞっ」

「ちなみにこの場合は、キングドロセラの『溶解付与使用時の物理攻撃力』が高いほど大ダメージで、お父さんたちの『付与される時の物理防御力』が高いほど、状態異常ダメージが軽減できるよ。

物理与ダメージ・物理被ダメージのUP・DOWNもこのダメージ量に関わるから、普段から物理被ダメージ80%DOWNで物理防御力も高いナイトには一番楽な状態異常なんだけど……元々物理防御力が低めのマジシャン・プリーストには辛いねぇ」


Ruyさんの簡単な説明に、珍しくRockさんが細かく補足してくれた。ナイト関連の質問がはっきりしている時は、答えやすいのかな?

つまりスカオーには石化や麻痺みたいに、行動そのものが阻害される状態異常は存在しないのか……。


次のキングドロセラのセリフは「π/Ω±Zk」と「$iΓЙ-Σ」の2パターンあった。これも物理攻撃詠唱だな。

ってこれ、アークタルラより行動間隔が短くないか?


「全体的に敵の動きが早いようですね……」


そう思ったのは私だけでなく、鷹影さんも同じのようだ。

そして次の瞬間……とんでもないダメージが入り、各パーティが半壊した。


「えっ!?」


MISS表示があったので、回避必須の列攻撃のようだ。しかも1回目と違う列範囲にいた人が、その数秒後に攻撃を受け、6パーティ中5パーティが全滅した。


残る1パーティだが、1名だけ2回目の際もMISS表示があったので、連続列攻撃らしい。この方だけ1回目と2回目の攻撃の間に列移動したことが幸いしたようだ。

まさかこんなに早く前のパーティが全滅するとは思っていなかったので、2番目以降に待機していたパーティに動揺が走る。


「今の……何?」


ラガマフィンさんの疑問は当然だろう。ほんの数秒の間に、こんなことになるとは思いもしない。


「即死系の列コンボ攻撃だねぇ……」

「ええっ、縄跳びまであるの!? レンジャーは詠唱武器多いから、あれ苦手なのに」


Rockさんの答えに、Dylicaさんがついに頭を抱え始めた。


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ユウ:すみません 即死攻撃があると判明しましたので 2パーティ目のかたは待機をお願いします

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素早く指示を出し、生き残った1名に皆が注目する。分析中は可能な限り撤退しないようお願いしているからだ。


「ちなみに縄跳びって何ですか?」

「敵の連続列攻撃を避けるために連続して列移動することを、そう呼ぶんだぞっ」


なるほど、つまり死の縄跳びか。誰が名付けたか知らないけど、呼び方としてはぴったりだ。


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キングドロセラ:♡¥ψh%д

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「また記号……勘弁してよぉ」

「めんど……」


だがこれを覚えなくては、私たちに勝機はない。これは魔法攻撃詠唱か。

そして詠唱開始から2秒後、キングドロセラが回復した。


「そう来るかー。しかも回復量結構あるねぇ」

「こちらは行動するたびにダメージが入るのに、敵は回復する……厄介ですね」


しかもまだ状態異常は切れていない。効果時間が結構長いようだ。


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キングドロセラ:X&〆Rω☆

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これも物理攻撃詠唱。だが敵の攻撃が当たる前に、生き残っていた1名が行動時ダメージで戦闘不能になったため、全滅となった。


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ユウ:中間分析結果をお伝えします 時間を取りますので 各パーティは対応準備をお願いします

【全体物理】詠唱「※∀♯M△Θ」約3秒 〈状態異常〉溶解20%付与17秒以上(全滅により計測失敗)

【前列→後列物理コンボ】詠唱「π/Ω±Zk」各約3秒 即死

【後列→前列物理コンボ】詠唱「$iΓЙ-Σ」各約3秒 即死

【単体回復魔法】詠唱「♡¥ψh%д」約2秒

【内容不明】詠唱「X&〆Rω☆」(全滅により計測失敗)

以上です

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敵のセリフが今のところ全て記号しかないからだろう、ワールドチャットは大荒れだ。それだけ記号系詠唱が不評ってことか。

覚えにくいのは私も同じなので、長めに時間を取った方がよさそうだ。


「ぼく無理……このセリフを短時間で覚えられる自信が全然ないよ。

ユウお兄ちゃんに本番中、ワールドチャットで避ける方向を教えてもらってもいい?」

「分かりました」


確かに考えることが多すぎると事故の元なので、それがいいかもしれない。

私が絶対間違えないようにしないとな……。


「そういえばどのパーティも状態異常を解除してなかったんですけど、準備の問題でしょうか?」

「プリーストでも、味方全員の状態異常を解除できるのは毒と猛毒だけなんだぞっ!」

「えっ、そうなんですか!?」


これはかなり意外だ。


「一応自分のみなら、溶解の状態異常に対する耐性を付与したり、解除したりできる魔導具が存在しますが……少なくとも私は所持していません」

「あれはどれも再使用可能時間(リキャストタイム)が長いから、持っていたとしても、敵の使用頻度によっては役立たないねぇ」

「ということは、対処療法ですね。ダメージバリアとかですか?」


私はとりあえず思いついたことを言ってみる。


「それが自傷と違って、状態異常による追加ダメージはダメージバリアでは防げないんだよ。反応しないからね」

「属性耐性でも軽減できないよね……? 本当にめんど……」

「じゃあ……回復するしかないってことですか?」


もしそうだとしたら、自傷武器が多いファイターさんとレンジャーさんを守るためには、かなり頻繁に回復しなくてはならない。


「花図鑑さんたちに確認したいんだけど、今のところ回復行動以外は全部、物理詠唱で間違いないかな?」

「是」

「そうか、ありがとう。ならお父さんの心配は解消しそうだな」


その後、中間分析結果をもとに行動分析を再開した結果、どうやらキングドロセラは全体的に行動間隔が早い代わりに、かなり攻撃がパターン化された敵だということが判明した。また物理攻撃しかなかったことで、Rockさんがほっとしていた。


こうして無事行動分析は終了したが、戦闘不能になった人が多く、風属性選抜チームの作戦会議も時間が少しかかるとのことだったので、また長めに時間を取る。


これらが終われば、次はいよいよ風属性選抜チームの出番だ。

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