表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サ終ゲームのリスタート  作者: 橋 みさと
第2章 その、力は小さくとも
23/52

風属性選抜チーム

昨日の続きで、朝から地属性装備作成のクエストを再開したが……私はどこか落ち着かなかった。


「ユウさん、考え事ですか?」


顔に出ていたのだろう。すぐにU-berryさんに声をかけられる。


「あ、すみません。考え事というか……うまく言えないんですけど……」

「アイたちが気になるからかしら?」

「……だと思います」


ZEROさんに指摘されて、ようやく落ち着かない理由が自分で把握できた。今こうしている間も、アイがどこかから見ているかもしれないと思うからだ。

正直、覗き見されているのだとしたら良い気分ではない。


火属性選抜チームの人たちは、こんな気持ちでアークタルラと戦ったのだろうか?

まあ、あれは味方に見られていたし、見る目的もはっきりしていたから少し違うかもしれないが……。


「これは僕の個人的な考えですが……アイたちが僕たちに興味を持つこと自体は、良いことだと思います」

「無関心が一番怖いですものね。こちらがちゃんと約束を果たした暁には、元の世界に戻していただかないといけませんし」


U-berryさんの意見に、LiEさんが同意した。

確かに……そう考えると、「見よう」と思ってくれたのは、前向きな反応なのかな?


「ありのままを見てもらいましょうよ。私たちに恥じるところなんてないわ」

「……それもそうですね」


私は一度深呼吸してから、目の前のクエストに集中することにした。


「午後からは山岳地帯(昼)ボスの情報分析予定ですよね? アークタルラの時も少し思ったんですけど……皆さんは前作でどの程度、ストーリー進めてたんですか?」

「私は全部ね」

「僕もです」

「わたくしもですわ」


まあここまでは、想定していた答えかな。


「あ、やっぱりそうなんですね。

実は前回風装備集めのために組んだパーティの方たちも、アークタルラを知っていたのに、わざわざ情報分析をしたのは何でかなって思ってたんですよ。前作で倒した敵なら、詳しく知ってそうなのにって」

「それは勿論、私たちが知るアークタルラは、あくまで前作のアークタルラだからよ」


ZEROさんの答えは、私には少し意外だった。


「つまり、前作と今作では、違うんですか?」

「敵の名前と見た目、属性は同じよ。だから今後登場するボス敵の名前は勿論、知っているわ」

「ただし前作とは、行動パターンやギミックが違うんですのよ。

やり直しのストーリーとはいえ、全く同じでは楽しめないでしょうから、運営として正しい判断だと思いますわ」

「まあ、その分僕たちは今、苦労していますけれどね……。

ちなみに前作のアークタルラ戦は、もっと楽でしたよ。水晶割りギミックもありませんでした」


なるほど。ということは雑魚レアの情報分析も同じ理由からか。

確かに敵の内容まで全く同じだったら、ゲームとして手抜きになってしまうしな。


「じゃあここのボスについて、変わりそうにない部分だけでも教わっていいですか?」

「ええ、いいわよ。

名前はキングドロセラ。地属性の敵だから、風属性の方が選抜されるわね」


風属性……もしかしたら、あの方たちが選ばれるかな?


「キングは分かりますが、ドロセラが分からないな……」

「食虫植物の別名らしいです。まあサイズ的に食人植物ですけれど。

ええと……何て言いましたっけ、キングドロセラの元ネタになっている植物の名前……」

「モウセンゴケですわ」


モウセンゴケなら分かるな。

確か細長い葉っぱの先に、粘液が出る突起が沢山ついていて、虫が触れると葉っぱが丸まり絡め取るやつだ。


「動物より植物が強いのは、さすがゲームって感じですね」


と、その時、丁度予定していた敵討伐数に達したようで、何回目かのクエストクリアの表示に変わる。これで地属性装備は完成だ。

私たちは一旦適性者ギルドでクエストクリアの連続報告をし、報酬で地属性装備を完成させた。入れ替わりに錫等級昇格クエストを受託し、グループを解散する。


「皆さんはこれから、各職グループ部屋で選抜メンバー選びの話し合いですよね?」

「ええ。でも前回ほど時間はかからないと思うわ」

「僕は闇装備が充実しているので今回選ばれないでしょうけど、もしかしたら知り合いのレンジャーの子が選ばれるかもしれないので、少し心配です。

もし選ばれたら、その時はよろしくお願いします」


U-berryさんの知り合いか……どんな人だろう?


一旦またナイトグループ部屋に行くか迷ったが、思いの外すぐに対象外判定となった人たちが適性者ギルドに集まったので、私はその人たちと山岳地帯(昼)のエリアボス出現場所に移動した。


なるほど、これがキングドロセラか。


聞いていた通り、色も見た目もまさにモウセンゴケだが、確かに虫は食べないだろうという巨大サイズである。下手するとアークタルラも捕食するかもしれない。

白い花の蕾が2か所あるが、そのどちらも鉱石っぽいものに覆われていた。


触手のように葉を動かすところは不気味だが、植物なのでその場から動かないだけマシかもしれないな……。


私は早速観戦エリアを作成し、ここでメンバーの到着を待つことにした。ほどなくして花図鑑さんたちが到着したので、先に招き入れる。


と、花図鑑さんたちの少し後ろから、見覚えのあるマジシャンが恐る恐る観戦エリア内をのぞき込んでいるのに気づいた。


「ラガマフィンさん!」


特徴的な背中の猫足と、高い警戒心……間違いない。森林地帯(昼)での装備作成でお世話になったばかりなので、すぐに名前が出た。


「参加しろってみんなが……」


ということは、風属性選抜チームの1人か。やはりという感じだ。


「どうぞ、中に入ってください。他の人もすぐに集まると思います」


私には慣れてくれた印象だが、今は花図鑑さんたちもいるので、まだ警戒しているらしい。入ってはくれたものの、物陰に隠れてしまった。大丈夫かな……。


「どうぞ、よろしくお願いします」


続いて来たのは、同じく森林地帯(昼)での装備作成でお世話になった、和風ファイターの鷹影さんだった。以前風属性武器が多いと言っていたので、これまた予想通りだ。

彼もまた、ラガマフィンさんの存在に気づいたようで、


「また一緒になったようですね、頼りにしていますよ」


そう声をかけたことで、彼女の警戒心は少し緩んだ。


「よ~っす!」


今度は元気いっぱいの声で挨拶しつつ、プリーストのRuyさんが入ってきた。この前火属性選抜チームを癒していた1人だ。


Ruyさんの声に驚いて、物陰からこっそり様子を伺っているラガマフィンさんの存在に気づいた彼女は、


「一緒に風で行くだろっ?」


笑顔でそう言いながら、どんどん近づいていく。ラガマフィンさんはあたふたしながら、Ruyさんから距離を取った。これはまずいかな……。


それを見たRuyさんは、少し考えてから……


「許して……くれないのか……?」


美味しそうな果物の盛り合わせをどこかから取り出し、それをちらつかせながら悲しげにそう言った。

そう言えばそんな魔導具があったっけ。


それに対しラガマフィンさんは首をゆっくり横に振ると、果物の盛り合わせに吸い寄せられるように、徐々に自分からRuyさんに近づいていく。そして……その視線がRuyさんに移動した。


「そ……そんなに見つめるな~」


あまりの熱い視線に、今度はRuyさんがあたふたし始めた。何とかなりそうだな。


「お父さんも一緒にいいかな?」

「Rockさん! ナイト枠はRockさんなんですね!」


現在のところ、彼が全体のまとめ役みたいになっているので、知らない人はいないだろう。さすがにラガマフィンさんも、Rockさんには警戒しないようだ。


「お父さんが一番風属性で戦えそうだったからね。

ただ、分析結果によってはまずいことになるから、今はそこが心配なんだよね」

「まずいこと……何ですか?」

「まあ、前作を引き継いでいるなら大丈夫なはずだから、気にしなくていいよ。本当にまずかったら、再選抜を検討しているしね」


再選抜を検討しなくてはならないほどの何かがRockさんにあるってことだろうけど、今の時点でそれ以上言うつもりはないらしい。気にはなるが、分析結果次第ということなので後回しにした。


さて、あとはレンジャーさんだけど……。


「ぼくも風でいくよ」


ようやく、「真面目な少年」ボイスのレンジャーさんが姿を見せた。初めて会う方だ。


動きやすそうな白シャツと青の半ズボン。背中の大きなリュックサックにブーツという姿はまさにレンジャーと言った感じだが、幼い顔立ちかつ性別1の低身長なので、10歳程度の子供のようなアバターだ。

若草色の長髪をポニーテールにしており、そこにスカオーのマスコットキャラ「ウパぺん」がしがみついている。

右手にも花をあしらったウパぺんがいるところを見ると、よほど好きなのかもしれない。プレイヤー名は「Dylica」と書かれていた。


そう言えばU-berryさんもウパぺんを2匹連れていたな……。


「はじめまして。もしかしてU-berryさんの知り合いの方ですか?」

「え、U-berryお兄ちゃんのこと知ってるの? そうだよ、ぼくたちウパぺん好きの知り合い!

他のお父さん、お兄ちゃん、お姉ちゃんたちもよろしくね!」


なるほど、そういう繋がりか。髪の色もU-berryさんに似ているので、兄弟っぽく感じるな。


「あと……この子も参加させてくれない?」


そう言ってDylicaさんが満面の笑みで私たちに抱きかかえて見せたのは……何故か頭上の、本来プレイヤー名が書かれる位置に「ゴールデンウパぺん」と書かれた、全身金色のウパぺん。


「それは……!」

「ええっ!?」

「ありゃー、いいもん見つけて来ちゃったなー」


他の人たちが驚きや警戒といった反応を見せた中、


「おお……!」


ラガマフィンさんだけ、好奇心で目を輝かせていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ