解読
現実世界換算21時までクエストをこなし、地属性装備完成まであと少しとなった私たちは、向日葵さんとの約束通り、適性者ギルドで待ち合わせた。
組んでいたパーティは一旦解散しているので、プリーストさんはもう自室で休んでいるのだが、その他の私を含めた4人は気になって、LiEさんと一緒に例のスクショを見せてもらうことにしたのだ。
ちなみにワールドチャットで予定を打ち合わせていたので、便乗して向日葵さんからスクショを見せてもらおうという人も集まっている。
早速、向日葵さんが見せてくれたスクショを見る。私があの時見たのも、間違いなくこれだ。
LiEさんはそのスクショをさらに自分でスクショし、保存していた。
「確かにスカオー語ですわ……」
「あら、こんなに長文だったのね」
「これを解読ですか……気が遠くなりそうです」
私とZEROさん、U-berryさんは一目見ただけでお手上げ状態だ。他の人にも向日葵さんはスクショを見せて回っているが、皆似たような反応をしている。
だが、先ほどからLiEさんだけ、穴が開くのではないかと思うくらい、無言でスクショを凝視していた。息をするのを忘れていやしないだろうか、と心配するくらいの集中力だ。
読み終わったのか、しばらくするとLiEさんは深く長く息を吐き……ようやく画面から目を離した。
「まずは資料提供、ありがとうございます。かなり貴重な資料でしたわ。
さて、何からお話いたしましょうか……」
「求、内容解読方法および結果」
確かにそれが、私も一番知りたいな。
「そうですね! ではそちらから……。
まず、スカオー語は英語ですわ。アルファベット1文字ずつ全て、専用のスカオー文字に置き換えられておりますの」
つまりスカオー語のどの文字が、どのアルファベットに対応しているかを、LiEさんは一人で調べたわけか。いや……待てよ?
「それってもしかして、書かれている文章そのものも英語ってことですか? つまり、英語の知識もないと読めない……?」
「ええ、そうなりますわ。
ちなみにわたくしは、スカオー語のPCフォントを自作済ですので、書くこともできますわよ。良きご時世になりましたわね」
さらっと言っているがそれ、とんでもない労力ではないだろうか。
「よく調べられましたね……凄いことですよ、本当に」
「具体的な文字の対応表は、後ほど花図鑑さんに共有いたしますわね。
次に内容ですが……まずは、わたくしなりの翻訳文そのままをお教えいたします。
運営からのお知らせ:彼らはアークタルラを倒したようです 数日後に次のボスに挑戦するでしょう
これを読んでいる方 一緒に観に来ませんか? ご連絡をお待ちしております
以上ですわ」
全く予想していなかった内容だけに、ギルド内がざわついた。
「つまり、文字通りの『運営からのお知らせ』ではないのね?」
ZEROさんの言うことはもっともだ。
「となると、他にこれを書けそうなのは……」
「アイ、しかいませんよね?」
少なくともプレイヤーには、スカオー文字をチャットで入力する手段がない。チャット入力のキーボードにスカオー文字がないからだ。
だがスカオー世界で生まれ育ったアイならば、当然スカオー語を理解しているだろうし、それを入力する手段を持っていてもおかしくはない。
また通常、チャットを使うにはスカオー世界のキャラクターを動かしている必要があるが、今は私たちがキャラクターを動かしている状態なので、『運営からのお知らせ』機能を利用してチャットを使ったと考えれば、しっくりくる。
「では、私たちの行動はアイにすでに知られていて、今後予定している山岳地帯(昼)ボスの討伐を観るつもりってことですか……」
U-berryさんも難しい顔をして呟いた。
確かに去り際に、『時々君たちの世界から、君たちの様子を確認する』とは言っていたけれど……。
「この『ご連絡をお待ちしております』っていうのはやっぱり……他のアイに宛てて書いてるんでしょうか?」
「恐らくは。アイたち同士は、わたくしたちの世界での連絡手段を持ってないようですわね」
何人……元々1つの存在に対して、「人」という数え方でいいのかも疑問だが……見に来るのだろうか。そして私たちは、どうするべきだろうか……。
「正直なところこれ、アイが見に来るのを防ぐなんて、私たちには無理よねぇ? だとしたらもう、見せるつもりでいた方がいいのかしら?」
「……確かにそれが良さそうですね。元々今回の発端は、互いが互いのことをよく知らないから、起きたのではないかと思っていましたし」
「アイの方も隠すつもりはないようですし、賛成ですわ」
結局その他の人たちも同意見のようなので、今後もしアイたちが私たちを見ている兆候があっても、何もしないことになり、翌朝全員にその旨が通達されることとなった。
また、同様のチャットを発見した際は、すぐにスクショを残して花図鑑さんの誰かに提出することが決まる。
「勿論今後も、スカオー語の解読はお任せください」
LiEさんの存在は、本当に頼もしく感じた。




